サイコパステスト
ネットでサイコパス(人格障害)チェックテストというのを見つけてやってみた。やばいぞ、俺はサイコパスらしい。ばれないように生きていかねばならない。特に最近出来た彼女に知られると、後々の計画が台無しだ。
だいたいこんな簡単に判定可能である事がおかしい。でもそれを逆手にとって、裏をかいて、捻じ曲げれば俺は正常者だ。対策を練ろう。
そんな矢先、彼女が恐ろしい事を言ってきた。
「ねえ、面白い性格テストがあるの。やってみない?」
「まあ、いいけど」
「ふふ、始めるよ。親戚の葬式に出席した姉妹がいたの。そこで姉妹の好きなタイプの素敵な男性に出会うけど、連絡先を聞かずに別れてしまうの。その数日後、姉は妹を殺してしまうの。何故だと思う?」
来たな。有名な問題だ。ばれないようにクリアするぞ。サイコパスの答えは『妹の葬式で、もう一度その男性に会えるかも知れないと思ったから』だったな。よし裏をかくぞ。
「妹に殺される前に先手を打ったんだ」
「えっ? どうして妹が姉を殺すの?」
「決まっているじゃないか。姉を殺せば葬式で男性に会えるかも知れないだろう」
しまった。彼女の顔色が変わった。どこか間違えたらしい。とにかくやり過ごさなければ。
「他に問題は無いの?」
俺は彼女を促した。
「じゃあ次ね。マンションのベランダいた女性が、下の道で男が女を刺殺する現場を見てしまうの。慌てて携帯で警察に連絡しようとすると、その男と目が合ってしまうの。男は女性の方を指差して、手を何回も動かしたの。どうしてだと思う?」
知ってるぞ。これもネットで見た。男は女の部屋の階数を数えていたんだ。殺しに行くために。今度は間違えないぞ。
「それはね。催眠術をかけようとしていたんだ」
「催眠術? 何のために?」
「そりゃあ、動けないようにして殺すためだ」
まずい。彼女の顔が引きつり始めた。
「もう終わり? もっと無いの?」
「うん。これで最後ね。サンタクロースがある女の子に、ピアスと口紅をプレゼントしたの。でも女の子は喜ばなかった。どうしてだと思う?」
知らない。この問題は知らないぞ。どう答えたら良いんだ。普通に考えれば『女の子は首から上が無い首無し女だから』だろう。でもきっと、この答えは危険だ。ひねるんだ。
「わかった。女の子はガイコツだったから」
うわっ、彼女は何か考え込んでしまう。取り繕わなければ。
「違った? 正解はなに?」
俺はなるべく明るく言った。
「ううん正解は無いの、性格診断だから。あなたの考え方は普通よ。安心しちゃった」
嘘だ。彼女は何か勘付いたに違いない。誤魔化さなければ。
「そうなの。じゃあ、今度は僕から問題を出していい?」
「うん」
彼女の顔が少しやわらいだ。
「お寿司屋さんで、今日はおいしいマグロがありますよって言われました。君は何を注文する?」
「マグロ大好き。食べたーい。でもこの質問で何が分かるの? 何かこわい」
「そりゃあ、経済観念とか、将来の健康度とか、色々さ」
俺は適当に言った。本当は、この心理テストに於けるマグロは『死体』を意味している。さあ、赤身を刺身で食うか、中トロを握って貰うか? 彼女の深層心理は何だ。ヒヒヒ。
「私は巻き物。手巻きより細巻き」
――死体を簀巻にするのか。
「でね、小さく六等分」
――そして切り刻んで楽しむと。
「あっ、鉄火巻きじゃなくてネギトロがいい」
――ミンチ! この女、死体をミンチに!
「ねえ、どう思う?」
彼女はさわやかに続けた。
「あなたは、どうされたいの?」