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推し活に人生を捧げた俺、異世界でアイドル文化を布教します  作者:


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【2話】あっ、これ異世界転生だ

「……ん?」


目を開ける。


真っ白だ。


上下左右、どこを見ても真っ白。


雲の上というわけでもない。


床も壁も天井もない。


ただ白い空間が広がっている。


「……あー」


数秒考える。


そして結論が出た。


「あっ、これ異世界転生だ」


すると、目の前にいた老人が目を丸くした。


長い白髪。


長い髭。


杖を持った仙人みたいな格好をしている。


「あっ、神様的な人だ」


「……おお」


「死後の空間ですね?」


「そうじゃ」


「転生ですね?」


「そうじゃ」


「剣と魔法の世界ですね?」


「そうじゃ」


「テンプレだ」


「てんぷれ?」


「お約束みたいなものです」


老人は感心したように頷いた。


「理解が早くて助かるのう」


「こういう作品、結構ありますからね」


「ほう」


「大体ここで神様がいて、異世界に送られるんです」


「その通りじゃ」


「当たった」


「お主の世界には予言者でもおるのか?」


「いえ、創作物です」


「そういうものか」


老人が楽しそうに笑った。


「さて、改めて説明しよう。お主は先程、命を落とした」


「はい」


「そして、別の世界に転生することになる」


「はい」


「驚かんのう」


「最近ずっと体調悪かったので」


「ほう」


「ライブ優先してましたし」


「ほう」


「食生活も終わってました」


「駄目じゃろ」


「ですよね」


素直に頷く。


怒られるとは思っていた。


「未練はあるかの?」


「あります」


即答だった。


「家族か?」


「違います」


「友人か?」


「違います」


「恋人か?」


「違います」


「では?」


「推しです」


老人が少し固まった。


「……推し?」


「次のライブも行きたかったです」


「そうか」


「追加イベントも発表されたばかりだったんですよ」


「ふむふむ」


「卒業ライブも見届けたかったですね」


「卒業?」


「アイドル用語です」


すると神様がおもむろに懐から小さな手帳を取り出した。


「ん?」


そして何かを書き始める。


カリカリカリ。


「……何してるんです?」


「めもじゃ」


「メモ?」


「うむ」


『推し』『ライブ』『卒業ライブ』『アイドル用語』


そんな文字が見える。


「後で若いやつに聞いてみるかの」


「神様って知らないんですね」


「わしも万能ではないからのう」


「意外だなぁ」


「というか、お主の世界は文化の移り変わりが激しすぎる」


「それはそうかも」


「転生者から話を聞くたびに知らない単語が増えていくんじゃ」


神様が少し疲れた顔をする。


「前回は『エモい』じゃったな」


「エモいですか」


「その前は『てぇてぇ』じゃ」


「それもありますね」


「最近は『限界オタク』という言葉も覚えた」


「うっ」


思わず目を逸らす。


神様が手帳を閉じた。


「……ちなみにお主はどれじゃ?」


「え?」


「限界オタク」


「……ですね」


「そうか」


カリカリ。


『限界オタク 本人確認済み』


「書かないでください!!」


「資料は大事じゃからのう」


「何の資料なんですか!」


「若いやつとの会話のネタじゃ」


「神様にも世代間ギャップあるんだ……」


すると神様が少し遠くを見る。


「数百年前は『やばい』だけでも意味が分からんかった」


「それは大変ですね」


「言葉とは難しいのう」


「頑張ってください」


「うむ」


神様は満足そうに頷くと、また手帳をしまい、杖を軽く突いた。


目の前に三つの物が現れる。


革袋。


服の一式。


そして白いお守り。


「おお」


俺は革袋を手に取る。


中には銀貨や銅貨が入っていた。


「お金だ」


「最低限の生活費じゃ。無一文では困るじゃろ」


「助かります」


次に服を見る。


動きやすそうなシャツとズボン、それに上着。


旅人っぽい。


「異世界っぽい」


「目立たん格好にしておいた」


「初心者装備感ありますね」


「しょしんしゃ?」


「いえ、こっちの話です」


そして最後にお守りを手に取る。


白地に金色の刺繍が入っている。


「これは?」


「お守りじゃ」


「へぇ」


「持っておくとよい」


「厄除けみたいなものですか?」


「そんなところじゃな」


「なるほど」


深くは聞かない。


こういうのって、後々意味があるやつだし。


……いや、こういう考え方もオタク特有なんだろうか。


すると老人が少し真面目な顔になった。


「一つだけ忠告しておこう」


「はい」


「前の人生のように、自分を粗末に扱うでない」


「うっ……」


「誰かを応援するのは良いことじゃ」


「はい」


「じゃが、自分を犠牲にしてはいかん」


「……はい」


少しだけ胸が痛む。


反論できない。


すると老人が、ふっと表情を和らげた。


「さて、異世界で何をしたい?」


「え?」


「好きに生きるがよい」


好きに生きる。


少し考える。


そして、一つだけ思い浮かんだ。


「推しを作ります」


「ほう?」


「この世界にアイドルがいないなら、作ります」


老人が目を丸くする。


数秒の沈黙。


そして、豪快に笑った。


「はっはっはっ!」


「何がおかしいんですか!」


「いや、面白いと思ってのう」


「真面目なんですけど!」


「うむ。ならば存分にやるがよい」


そう言って老人が杖を振る。


白い世界が光に包まれ始めた。


「では、第二の人生を楽しむのじゃ」


「はい!」


「あっ、そういえば」


「なんじゃ?」


「言葉って通じるんですか?」


神様がきょとんとする。


「通じるが?」


「えっ」


「わしが作った世界じゃぞ?」


「はい」


「そんな初歩的な不便さはなくしておる」


「おおー」


「日本語で話せば相手には現地の言語に聞こえ、相手が話せば日本語として聞こえる」


「すごい」


「文字も同様じゃ」


「便利だ……」


すると神様が少し得意げになる。


「最初の頃は大変じゃったからの」


「最初の頃?」


「言葉を覚えるのに十年、二十年かかる者もおった」


「長い」


「転生して言葉が通じなくて買い物が出来ずに、餓死する者もおった」


「うわぁ……」


「なので改善した」


「アップデートされたんだ」


「あっぷでーと?」


「改良されたってことです」


「その言葉も後で若いやつに聞いてみるかの」


カリカリ。


神様は手帳を取り出し、何かを書き込む。


『アップデート』


「若いやつって便利ですね」


「最近の文化に詳しいからのう」


「神様にも世代交代があるんだ」


「あるぞ」


「意外だ……」


「こほん……それでは改めて第二の人生を楽しむのじゃ!」


「はい!」


視界が真っ白に染まる。


剣と魔法の世界。


冒険者。


エルフ。


獣人。


そして、いつかアイドル。


そんな未来を想像しながら、俺の新しい人生が始まった。

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