写真のK
「ほら、ここに写ってるだろ?」
Kが指差したスマホの画像には言われなくても明らかにKが写っていた。
「写ってるよ」
「いやそうじゃなくて」
まるで話が伝わらない奴らだと言わんばかりの呆れと苛立ちを露わにしながらKは何度もとんとんとスマホを指で小突いた。
スマホに表示されているのは、私達が大学の夏休みに行った旅行先で撮影した一枚だった。泊まったホテルの部屋で私を含めた五人が各々の酒やらつまみやらを片手に楽しんでいるなんて事のない一枚。
「ここ。ほらここ」
言いながらKはしつこいぐらいにK自身の顔を指差した。
「めっちゃ写ってるじゃん。分かるだろ?」
私はその場にいるK以外の四人の顔を見た。そして鏡のように同じように首を傾げた。
「だから、それはお前だろって」
「違うって言ってるじゃん。ほらここだって、ここ」
「写ってるよ。お前の顔がな」
「いい加減にしろよ、何の冗談だよ」
「冗談じゃねえって。お前らこそいい加減にしろよ」
Kは声を荒げ、もういいと捨て台詞を吐いて帰ってしまった。
「なんだあいつ」
残された私達は訳が分からず困惑したが、五分も経てば大学や部活やバイトの可愛い女子の話で盛り上がった。
「まじやばいってまた写ってんだけど」
それからもKは同じことを繰り返した。見せてくる写真はその都度違ったが、そこに写る自分の顔を指差して”写ってる”と言うのだ。
何がと聞けば「わかるだろ?」と言われ、分からないと言えば「なんでだよ」と怒りだす。分からないからちゃんと教えろと言っても「はっきり写ってるんだから見れば分かるだろ」の堂々巡りで全く話にならなかった。
やがて私も含め誰もKを相手にしなくなった。大学内で自分の知らない誰かに同じように迫ってあしらわれているKを何度か見たが、やがて大学でも見なくなった。
それから一か月後Kは死んだ。飛び降りだったそうだ。
警察からも事情聴取を受けたが、おかしな点があるとすれば例の写真の件だけだったが、伝えても意味がないと思い話さなかった。
あれから何年も経つが、ふいに思い出して考えてしまう。
記憶にあるKが見せてきた写真に不自然な点はどこにもなかった。
“ほら、ここに写ってるだろ?”
そう言いながら自分の顔を指差すKの姿。
写ってる。その意味を皆と話した事があったが、おそらく幽霊だったんじゃないかという結論に至った。しかし自分も含め誰もKの言う写ってるものを確認出来た人間はいなかった。
友人の一人が同じ旅先で撮った写真を当時付き合っていた霊感のある彼女にも見せたが、何もおかしなものは写ってないと言われたそうだ。
本当に何も写っていなかったんだろうか。
当時イタズラか冗談かとも考えたが、そんな事をするタイプの人間でもなかった。
Kには何が見えていたのだろうか。せめてその何かがわかる説明をしてくれれば良かったが、それすらKは口にしなかった。それとも口に出来なかったのか。その後すぐに行方をくらまし死んでしまった事が、写真と関係があるのかも分からない。
私達にも見えていれば、Kを助けられたのだろうか。
私達にも見えていたら、Kと同じ末路を辿ったのだろうか。
『あれ以来、何か写真撮るのも撮られるのも嫌なんだよな』
Kが見えていたものが何か理解出来てしまったら。恐怖と嫌悪感から私も級友と同じく写真を避けるようになった。
真を写す。
そこに写るものが決定的で絶望的な真実ならば、わざわざそんなものを私は見たくもなかった。