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第9話・自家受粉する食肉植物怪獣少女

 隕石がリムストーン大陸の地表に衝突して生まれた、クレーター平原【ヒトメボレ・アリス平原】──そこに彼女はいた。


 食肉植物怪獣少女『エメラルド』──大地に根を張り近隣の村を井戸水の供給で支配している、ツンデレ怪獣少女だった。


 緑色のマイクロビキニを着た体の、両手両足を大樹にめり込ませた姿のエメラルドが言った。

「べ、別にあたしが本気で地下水脈を根から吸えば、この地域一帯の井戸を枯らすコトだだってできるんだからね……ご、誤解しないで、あなたたちのために加減して水分吸収をしているワケじゃないんだから」


 エメラルドの体には、食虫植物のハエトリソウのような二枚の葉で獲物を『挟み込んで捕まえる』部分や。 

 ウツボカズラのような『落とし穴式』の部分や。

 モウセンゴケのような『粘着式の繊毛(せんもう)で包みこんで溶かす』部分や。

 ミミカキグサのように『吸い込み式の袋に獲物を閉じ込めて溶かす』部分があった。


 今日もエメラルドは、村人からの生け贄(いけにえ)の牛をハエトリソウタイプの二枚の葉っぱで挟み込んで消化していた。

 葉っぱの中で、もがいている牛を眺めながら、ロボット怪獣少女の鹿町 シルバーがエメラルドに言った。

「相変わらず、エグい生け贄の食べ方だ」


 ウツボカズラ型の落とし穴式袋の中で、溶かされている生け贄。

 モウセンゴケ型の繊毛に包まれて白骨化している牛などがいた。


「エメラルドは人間は食べないのか?」

「以前、貢ぎ物も持ってきた村人を不幸な事故が起こって、粘着式の部分で食べちゃたコトもあったけれど……人間はおいしくない、それにあたし光合成できるから……べ、別に貢ぎ物は差し出されるから食べているだけなんだから、誤解しないでよね」


 大地に根を張って、(つる)を蠢かせていエメラルドの蔓の一つには、カギトゲが生えたヤシの実のような種子が数個ほど実っていた。


「べ、別に恋人いないワケじゃないんだからね……そこんところは誤解しないで、今回だけ自家受粉で実を結んでみたんだから」


 エメラルドは、蔓で自家受粉した種子の一つをもぎ取ると、あらかじめ捕まえてあった象のような動物の体に種子のカギトゲを突き刺した。

 種子はすぐに象のような生物の体に根を張って、解放された象は力無く種をつけたまま歩き出す。


 去っていく象に向って、触手のような蔓を振りながらエメラルドが言った。

「種子は養分を吸収しながら運ばれて別の場所に根づく……これが、エメラルドの繁殖方法なんだからね」

 誰に聞かせるでもなく呟くエメラルド。

「でも、若葉は他の動物に食べられて枯れやすい……だから、多くの種子を遠くに運ぶ必要があるんだからね」


 エメラルドの、閉じ込め式の透明なムジナモ型袋の中で、白骨化した牛を排出してエメラルドが言った。


「で……もうすぐ、ここに来る鵜ノ目 ルリハの体に、あたしの種子を植えつけてもいいわけ?」

「何度も鵜ノ目 ルリハから苦渋を飲まされたクソ王がついに、ブチ切れてルリハの抹殺に乗り出したからね……これからは、刺客の怪獣少女がルリハを襲う」


「ふ~ん、クソ王の器ちっさ……ま、あたしは種子さえ運んでもらえればいいんだけれど」


  ◆◆◆◆◆◆


 ルリハは、ヒトメボレ・アリス平原の中にある野天風呂にやって来た。

 岩場の地面を掘っただけの野天風呂にルビーが先客で入浴していた。


 ルビーの裸体には、片腕と背中の腰にファションタトゥーが彫られていた。

 それを見て、ルリハがルビーに訊ねる。

「ファションタトゥーを、体に彫ったんですね」

「怪獣騎士団を辞めたケジメをつけたくてな……道路工事をする道具のようなモノで彫ってもらった」

 露天風呂から立ち上がったルビーが、裸身を隠さずに言った。


「ルリハの進行先に、ツンデレな植物怪獣少女『エメラルド』が大地に根を張っている」

「回り道をして回避するんですね」

「いや、真っ直ぐ進んで軽く攻撃をしろ」

 ルビーの意外な言葉に驚くルリハ。

「どうして、無益な争いを?」


「エメラルドは、自分の本当の姿を知らない……攻撃して秘められた姿を解放してやるのも怪獣少女の優しさだ……背中の戦艦から、エメラルドに砲弾を撃ち込んでくれ」

「言っている意味が、よくわかりません?」

 ルビーは、ルリハの問には答えずに。

 岩の上に置いてあった、怪獣専用の黒いマイクロビキニを穿いた。


  ◆◆◆◆◆◆


 小一時間後──遠回りで回避するコトなく、平原を直進したルリハはエメラルドと距離を開けて対峙した。

「やっと来た……べ、別にルリハだけを待っていたワケじゃないんだからね!」

 エメラルドが地面の下に伸ばした、蔓根(つるね)が地面を持ち上げて蠢く。

(もうちょっと、こっちゃ来い……あと、少しだけ近づいてこい)


 植物怪獣少女のエメラルドが待ち伏せていた場所に向って、要塞戦艦の砲台が照準を合わせ。

 竜子が叫ぶ。

「撃て、撃て、撃て、撃て!」

 ルリハが止める間もなく、連続して発射される砲弾が、エメラルドの食肉植物の捕獲部分をすっ飛ばす。

 ハエトリソウの部分に穴が開き、貫通したウツボカズラから消化液と消化途中の牛が転がり出てきた。

 

 ルリハが涙目で竜子に言った。

「連続攻撃やめてください、ルビーさんは軽く攻撃するだけって言っていましたよ!」

 竜子が片腕を、恐竜の腕に変化させて言った。


「あの、食肉植物怪獣少女はまだ自分の真の姿に気づいていない……追い詰められなければ実力を発揮しないタイプの怪獣少女だ」

 竜子は言葉を続ける。

「一生、同じ場所で根を張った安易な生き方を、させたくないからな」


 モウセンゴケの繊毛が、飛び散るとエメラルドがツンデレ形相で怒鳴る。

「べ、別に攻撃して欲しいなんて頼んだワケじゃないんだからね! まだ鵜目 ルリハに種子を植えつけてもいないんだからね……攻撃やめて、やめろって言っているだろう! こなくそぅぅ! 竜子! なんのつもりだ!」


 怒ったエメラルドが、バリバリと大地から根を引き抜いた、根脚で疾走しながらルリハに近づくと。

 小さな蔓触手を伸ばして、艦橋の強化ガラスを突き破ると。

 キャプテン・竜子を捕まえて、外に引きづり出す。


 エメラルドの顔の近くに、巻きつかれた蔓で浮かぶ竜子が言った。

「久しぶりだなエメラルド……栽培していた植物の綿毛の種子が風で飛んでいった時、以来か……大きくなったな」


「べ、別にあの時は綿毛の種子だったから、懐かしいなんて思っていないんだからね……竜子もいつの間にか人間の姿になって……ここまで、大きくなれる植物系怪獣少女は少ないんだからね……あたしの自家受粉を邪魔しないで」


 微笑しながら、恐竜の鎌爪で蔓を切断して大地に飛び降りた竜子が言った。

「邪魔するつもりはない、エメラルド……おまえ他の生物に種子を植えつけなくても、自由に動いて移動できるじゃないか」

「あっ、あたし引き抜いた根で歩ける……今まで気づかなかった」


 竜子が尻尾を、動かしながら言った。

「説明しよう……エメラルドは自由に動いて移動できる、植物怪獣少女なのだ……艦内の本棚にあった怪獣辞典に書いてあった」

 こうして、自家受粉した種子をルリハに植えつける必要が無くなったエメラルドは。


「べ、別に肥沃(ひよく)な大地へ移動して根を張っても、嬉しくなんてないんだからね……本当だからね」

 そう言い残して、エメラルドは根を蠢かせて去っていった。

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