第8話・湖で水浴びをする元怪獣騎士団の乙女騎士団長
ルリハは、クリスタルが住んでいた湖と違う別の小さなハート型の湖にやって来た。
湧き水が湖底から湧き上がっている、透明度が高い湖だった。
ルリハは、湖の水で喉の渇きを潤す。
「ふぅ、この湖の水は湧き水だから、怪獣少女が飲んでも大丈夫ですね」
水を飲み終わって顔を上げたルリハは湖の中央に裸身で、水浴びをしている女性を発見した。
「あんなところで、水浴びをしている人がいる?」
裸身の女性は、ルリハに見られているコトに気づくと、恥ずかしそうに胸を押さえ隠してルリハの方に近づいてきた。
ルリハは、近づいてくる女性に違和感を覚えていた。
(なんか、遠近法おかしくない? だいたい、湖の真ん中に太モモまで、立てる深さの湖なの?)
近づくにつれて、女性の姿は巨大になっていく。
最終的には乙女は、胸と股間を隠した状態で、ルリハを見下ろすほどの大きさになった。
巨大裸女が、ルリハを見下ろしながら言った。
「見ていたでしょう……あたしの裸」
「つい……あのぅ、どこかでお会いしませんでしたか?」
「あっ、気づいていなかったの?」
裸の女性が大岩の後ろに隠れると、なにやら金属が触れ合う音が聞こえてきた。
◇◇◇◇◇◇
数十分後──岩の後ろから現れたのは、首から下を甲冑で覆った、甲冑汎用人型怪獣少女だった。
ルリハが、その巨大なマント姿を見て思い出す。
「あっ! コーラルの時にクソ王を指でつまんで放り投げた〝怪獣騎士団〟の騎士団長さん……あの時は、赤いマントありませんでしたけれど」
「『ルビー』だ……もう騎士団長ではなく、さすらいの人型怪獣少女だが」
ルビーは、大きな荷物を肩に背負って言った。
「注意した方がいい、クサレ・クソがまた良からぬコトを企んでいる……クソは不死身だ、何度でも甦る」
「クソは、いったい何者なんですか?」
「わたしにも、わからない……クソはクソだ、わたしはこの先の怪獣少年&少女専用の宿に数日間宿泊している、何かあったら訪ねてきてくれ」
それだけ言い残すと、ルビーは去って行った。
◆◆◆◆◆◆
青い色の建物が並ぶ、美しい青い壁の町【アズライト】──その町の近くの洞窟に、片目にコントロール装置を装着させられた。
怪獣騎士団の巨人汎用兵士たちが、立ち並んでいた。
洞窟の中にある平らな岩の上に座った、メガネ娘のロボット怪獣少女──シルバーが、ジェラートを食べながら言った。
「メガネは曇らないように加工した、今度は失敗しない」
スィーツを食べているロボット怪獣少女を、不思議そうな顔で見ているクサレ・クソ王が言った。
「もう一度、質問するが……本当にロボット怪獣少女なんだよな」
「見ればわかるだろう」
クソが、シルバーの腹部を凝視して言った。
「少し横に伸びたんじゃないのか?」
「はぁ⁉ ロボット怪獣なんだから、体型が変わるワケないでしょう」
そう言ってから、クソ王に背を向けたシルバーは、腹部を指でつまんで青ざめる。
そして、小声でクソ王に聞こえないように呟いた。
「宇宙合金って……膨張するのか」
気を取り直したシルバーが、クソと向き合って計画の再確認をした。
「で……今回の作戦は、コントロールした〝怪獣騎士団〟の人型怪獣に、鵜ノ目 ルリハを町へ追い込んでルリハに町を破壊させる……この計画でオッケー」
「オッケーだ」
「じゃあ、ルリハが来るまで休憩を……」
◇◇◇◇◇◇
その時──洞窟の岩の後ろから物音が聞こえ、子供が慌てて逃げていくのが見えた。
クサル・クソが、逃げていく子供に向って怒鳴る。
「このガキ! 町を怪獣に破壊させる計画を盗み聞きしやがった! 捕まえて握り潰せ!」
操られた甲冑汎用人型怪獣騎士が、先を争って子供を追う。
甲冑汎用人型怪獣が洞窟の天井に頭をぶつけて、うずくまる。
ゴンッ、ゴンッ。
「くぁぁ」
「ぐぅぅ……頭が、頭がぁ」
腰の肉をつまみながら、シルバーが呆れた口調で言った。
「あたしたち、怪獣に子供一人を追わせるのにムリがある……クソが子供追いなさいよ」
「なんで、王のわたしが?」
「さっさと、追わないとあの子供、町で計画を言いふらすわよ」
「チッ、しかたがねぇな」
「今、チッって言った、王さまなのにチッって言った」
◆◆◆◆◆◆
計画を聞いて、洞窟から逃げてきた子供は町へは行かず。
ルリハの方へ向かった。
四つ這いで歩いて来たルリハは、走ってきた子供の前で歩みを止める。
子供はルリハを見て、嬉しそうな声を発した。
「うぁあ、本物の鵜ノ目 ルリハだぁ! 怪獣だ! カッコいい」
ルリハが子供に微笑む。
「怪獣少女が好きなの?」
「うん、あっそうだ……洞窟でクソ王が、スィーツを食べ過ぎて少し太ったメガネのロボット怪獣と悪巧みをしていたよ」
子供は、洞窟で聞いた話しをルリハに告げる。
プルプルと体を震わせるルリハ。
「あたしを追い込んで、文化遺産の美しい青い町を破壊させるなんて」
艦橋で竜子が「クソがぁ!」と、怒りをあらわにした。
そこに子供を追って、クサレ・クソが走ってきた。
「このガキ! 手間取らせやがって……町に行って計画をバラされる前に、わたしの手でひねり潰して……はッ⁉ 鵜ノ目 ルリハ?」
クサレ・クソは、ルリハの姿に腰を抜かす。
そこに、シルバーと甲冑汎用人型怪獣の騎士たちが追いついた。
勝ち誇った表情でクサレ・クソが言った。
「鵜ノ目 ルリハを待ち伏せる手間がはぶけた、ここでルリハを町へ追い込んで……」
その時──疾風のように走って来た、ルビーの抜いた剣が、怪獣騎士団に装着されたコントロール装置を破壊する。
それを見たシルバーのメガネに亀裂が走る。
「ひえぇぇぇ、あたしのコントロール装置が!」
慌てて、上半身と下半身に分離して飛び去っていくシルバー。
自我を取り戻した、甲冑汎用人型怪獣たちが、ルビーに向って膝まづく。
「騎士団長!」
剣を鞘に収めてルビーが言った。
「わたしは、もう騎士団長ではない……おまえたちも、こんなクソの国王に仕えるのは辞めたらどうだ……目を覚ませ」
顔を見合わせた甲冑汎用人型怪獣たちは、甲冑に付いていた騎士団の紋章を外して、地面に投げ捨てると。
クサレ・クソをスタンピングで踏みつけはじめた。
「この、この、この、クソがぁぁぁ!」
「今までよくも、コキ使ってくれたな!」
踏みつけられて悲鳴を発するクソ。
「ぐぇぇぇぇぇぇ!」
クソが、ペシャンコになったのを見届けたルリハは。
子供の案内で青い文化遺産都市の近くで、伏せて観光をした後に進行を再開した。