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第5話・ルリハが発情するにはまだ早い

 緑色の鉱石の大地が広がる【グリーン・タフ平原】を、黒いマイクロビキニ姿で尻尾を振りながら、四つ這いで進むルリハが艦橋にいるキャプテン・竜子に質問する。

「そう言えば、前から疑問だったんですけれと……あたしってお風呂に入らなくてもいいんですか?」


 艦長椅子に座って、片手を恐竜の鋭い鎌爪手に変化させた竜子が、鎌爪の手入れをしながら答える。

「怪獣に風呂なんて必要ないだろう」

「そうなんですけれど……あたしも、一応女の子ですから、お風呂くらいは」

 竜子が面倒くさそうに答える。


「イルカという生物は、海中で古い表皮を二時間に一回脱皮して、新しい表皮に変わると言われている」


「はぁ、そうなんですか……それと、あたしのお風呂とどんな関係が?」

「ルリハも四つ這いで歩きながら、ポロポロと脱皮をしているんだよ……気づいていないだけだ」


「えっ⁉」

「ついでに、四つ這いで歩きながら、ルリハは無意識に排泄もしている──黒いビキニを少しズラして……鹿のフン形態のウン……」

「聞きたくない、聞きたくない! そんなコトまで聞いていません! 知らなきゃよかった!」


 鎌爪にエナメルを塗り終わった竜子が、人間の手に戻して言った。

「心配するなルリハ、おまえの排便は、植物や昆虫に豊かな恵みを与える……栄養豊富な球体に植物怪獣が生えて、球体自体を食料にしている昆虫怪獣もいる」

「そんな知識、どうでもいいです」


  ◇◇◇◇◇◇


 ルリハの前に進行を阻む、流れる砂の大河が現れた。

 困惑するルリハ。

「どうしょう、流れが急で河幅があるから……泳いで渡るには、そもそも……あたしって泳げるんですか?」

 椅子から立ち上がって、舵輪(だりん)をつかんだ竜子が言った。


「最大の難所の一つ……流砂の河、おもしろき渡ってやろうじゃないか! ルリハ、ゴチャゴチャ考えていないで心の勢いで渡れ!」

 竜子がアクセルを踏み込む、ルリハの進行速度が速まる。

「ち、ちょっと待って! あたしの身体能力も少しは考えて! ひえぇぇぇ!」


 ルリハの悪い予感は的中した、背中に要塞戦艦を乗せたルリハの重量は、当然のように流砂の河に沈む。

「あぁ、やっぱり……あたし重いから沈むぅ」

 ルリハの体は、砂に飲まれて見えなくなった。


  ◆◆◆◆◆◆


 次にルリハの意識が戻った時──ルリハは地下の巨大洞窟の砂山の上に、うつ伏せで倒れていた。

 天井の亀裂から太陽の明かりと、砂時計のように砂が落ちているのを、ぼんやりと見ていたルリハが顔を上げる。

「あたし、生きている」

 天井を見上げると、巨大な穴が空いていて、穴の上を砂が流れていた。

 地下には支流のような砂の流れが、幾本も流れていた。

 戦艦の甲板に出ていた、竜子が双眼鏡で天井を見ながら呟いた。

「これが、伝説の流砂河の下……地下の砂支流が磁場の影響で、地表の砂大河に逆滝の流れで循環している……スゴい」


 ルリハが興奮している、竜子に訊ねる。

「ずいぶん、詳しいんですね」

「少しはリム・ストーン大陸の地層も艦内の書籍で調べたからな」

 竜子は甲板に山になっている砂を、ひと舐めして言った。

「思った通り、塩分が含まれていて少ししょっぱい……ここは太古の海の底だったのか」


  ◇◇◇◇◇◇


 その時──ルリハは、前方の暗闇に怪獣独特の気配を感じた。

 暗闇に光る二つの眼光──暗闇の中から古い城塞都市が現れる。

 城塞都市の下の方から、若い男性の声が聞こえてきた。

「こんにちは君、上から地下世界に落ちてきたの?」


 のっそりと現れたのは、四つ這いで背中に城塞都市を乗せた童顔の怪獣少年だった。

 黒いビキニパンツを穿いた、童顔少年が言った。

「ボクの名前は『ヒスイ』……見ての通りの、地底怪獣少年だよ」

「あたしは、鵜ノ目 ルリハ……ここから出る道を知らないかな?」

「この地下世界から出る? どうして?」

「どうしてって、それは地上の方がココより明るいし」


 ヒスイが体を揺すると、城塞都市から白骨化した人骨が転がり落ちてきた。

「地上は危険だよ……ずっとボクと一緒に、この地下世界で暮らそうよ」

 その時──別の男性の声が地下世界に響いた。

「そいつの言葉に耳を貸すな!」

 ルリハとヒスイがいる位置よりも少し高い台形の場所に別の四つ這い怪獣少年が見下ろしていた。


 虎柄の体で、背中にニ門の砲台が乗っている。

 燃えるような髪をした、二体目の怪獣少年が言った。

「オレの名前は『アンバー』……オレの嫁になれ」

 台形の高台から黒いビキニパンツ姿で飛び降りてきたアンバーは、ルリハやヒスイと三角点の位置に四つ這いで立つ。


 アンバーにヒスイが威嚇をするような口調で言った。

「邪魔しないでくれるかな……この地下世界でメスの怪獣少女に出会うのは、希少(きしょう)なんだから」

「それは、こっちのセリフだ……地下世界でメスと出会った、このチャンスを逃すか!」


 ルリハが戸惑っていると、ヒスイとアンバーがほぼ同時にルリハに向って言った。

「じゃあ、どちらかを選ぶのかルリハに決めてもらおう」

 ヒスイとアンバーが、体を左右に揺すって奇妙なダンスをはじめた。


 ヒスイの城塞都市から人骨がこぼれる。

「なかなかやるな、でも地下世界でメスを奪うのはオスの繁殖本能……譲れない」

「こっちだって、繁殖したくてビンビンに溜まっているんだ」

 最初はなぜ、踊っているのかわからなかったルリハだが、体が火照ってくるダンスの目的を理解した。

(求愛行動? あたし、求愛されている)


 ダンスは次第に激しさを増していき、ヒスイとアンバーの口からケチャのような求愛声が聞こえてきた。

「チャチャチャチャチャチャ……さあ、交尾相手にどちらを選ぶんだルリハ」

「ボクの方だよね、ルリハ……チャチャチャチャチャチャ」


『交尾』という言葉にハッとするルリハ。

(求愛されて……その次は……交尾⁉ ひぇぇぇ!)

 ルリハは、慌てて逃げ出した。

「交尾なんて早すぎる! ごめんなさい!」

 ルリハから見て年下の、ヒスイとアンバーはまだ恋愛対象怪獣では無かった。


 一日後──四つ這いで洞窟を通って地上に出たルリハは、また歩きはじめた。

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