第4話・古代遺跡を爆破解体せよ……怪獣ならタメ息よりも熱線を吐け
しばらくは、何事もなくルリハは第三新大陸【リムストーン】の大地を、四つ這いで進んだ。
両側の山肌に奇妙な穴が、いくつも空いた乾いた渓谷の場所に来た時──ルリハの進行前方に、甲冑を着た巨大な人型怪獣が四体横並びに出現した。
人型の甲冑怪獣は、それぞれ手に、斧や剣や盾を持っていた。
竜子が呟く。
「甲冑汎用人型怪獣か……厄介な国に入ったな」
逃げ場のない渓谷で、甲冑人型怪獣の一体が両手持ちの手斧をルリハに向って振り上げる。
竜子が叫ぶ。
「やべぇ! 狭い渓谷で砲撃準備が間に合わない! 斧で叩っ斬られる」
その時──岸壁の穴から、小型のカニ型怪獣がゾロゾロと現れて甲冑人型怪獣に襲いかかった。
全身にカニに群がられた甲冑人型怪獣は、必死にカニを払い落とそうとする。
甲冑人型怪獣から、男女の悲鳴が聞こえてきた。
「うあぁぁぁ!」
「きゃあぁぁぁ!」
甲冑汎用人型怪獣は怪獣少女と怪獣男だった。
男の声が聞こえた方の二体に群がる、小型のカニ怪獣が口から溶解の白い泡を吐く。
「ぎゃあぁぁぁ! 溶ける! 溶けるぅ!」
甲冑の隙間から入り込んだ泡が、怪獣男の中の人を溶かして甲冑の残骸が転がった。
怪獣少女の方に群がっていたカニ怪獣は、甲冑の剥がしに取りかかった。
「い、いゃぁぁぁ! 鎧を剥がして脱がさないで!」
次々と剥がされて落下していく装甲。
甲冑の中から、黒いマイクロビキニ姿の巨人少女が現れ。胸を押さえて座り込む。
小型カニ怪獣が、少女声で言った。
「失せろ……このまま、我々のエサになりたいか」
「ひぃぃぃ!」
甲冑を剥がされた、二体の人型怪獣少女は、悲鳴を発しながら逃げていった。
残された甲冑を、資源物として再利用するために解体しているカニ型怪獣少女の一体が、ルリハに向って言った。
「大丈夫ですか? ルリハさん」
カニ怪獣の甲羅部分がパカッと開いて、中から唇にピアスをした少女の顔が現れる。
カニ型怪獣少女が言った。
「自己紹介しておきますね……あたしたちの名前は『 コーラル』見ての通りのカニ型怪獣少女です」
甲冑が見る間に細かく解体されて、穴の中に運び去りていくのを見ながら、ルリハが子カニたちに訊ねる。
「助けてくれて、ありがとう……でも、どうして助けてくれたの?」
「母コーラルは、ルリハさんの大ファンで進行を応援しているんです……もちろん、あたしたち子供のコーラルもルリハさんの大ファンなんです」
カニ型怪獣少女は、どこからか取り出した色紙と巨大なペンを、ルリハに差し出して言った。
「良かったらサイン、お願いしてもいいですか」
前下がりの肘押さえ姿勢になったルリハが、色紙にサインと簡単なイラストを描く。
ルリハのサインを受け取ったコーラルは、嬉しそうに笑って言った。
「母コーラルも、ルリハさんのサインを見たら喜びます……それでは、ご安全な怪獣進行を」
そう言って甲羅を閉じたカニ怪獣少女は、仲間たちといっしょに、岸壁の穴へと帰っていった。
◇◇◇◇◇◇
艦橋でモフモフの恐竜尻尾を手に持って、グルグル振りながら竜子が言った。
「渓谷を抜けた後の進行方向はどうするか? この国の国王の城が谷を抜けた少し前方にあるが……このまま、突っ込んで城を破壊するか? ルリハは怪獣だから」
ルリハが慌てて否定する。
「それは、ダメでしょう……この小国を縦断するんですから、一応国王に挨拶して通行の許可をもらった方がいいと思いますよ」
竜子が電声管を通して誰かと相談している声が聞こえた。
「そうだな……甲冑汎用人型怪獣を従えているのが国王なんだから……ここは、穏便にコトを進めた方がいいな」
「誰と相談したんですか? 怖い……キャプテン・竜子の他に何人いるんですか?」
◇◇◇◇◇◇
要塞型超巨大怪獣少女『鵜ノ目 ルリハ』は、城の横側に伏せたポーズで止まって。
城のバルコニーに出てきた国王と謁見した。
国王の後方には、どう見ても魔王にしか見えない、側近の男性が控えていた。
国王が戦艦の甲板に立つキャプテン・竜子に向って言った。
「噂は聞き及んでいます……よいでしょう、この国の怪獣通過を認めます」
「感謝します、クサレ・クソ国王」
国王のクサレ・クソが言った。
「ついては、交換条件では無いのだが……一つ頼みたいコトがある、少し寄り道になるのでムリにとは言わないが……ムリにとは」
「頼みたいコトとはなんですか、クソ国王」
魔王のような側近が広げた地図の場所を指差して、クサレ・クソが言った。
「この場所にある古代遺跡を爆破解体したいのだが……一気に爆破させる火力が足らない、そこで遺跡内に仕掛けた爆薬を、怪獣の火炎で爆発させてもらいたい」
「お安い御用です」
◇◇◇◇◇◇
数十分後──ルリハは岩山を削って作られた、古代遺跡の前にいた。
甲冑汎用人型怪獣の手の平の立ったクサレ・クソ国王が、遺跡の入り口を指差して言った。
「さあ、あの立派な門の穴に向って怪獣に火を吐かせてください──遺跡内に仕掛けた爆薬が連鎖爆発して、遺跡は炎に包まれるでしょう」
ルリハが頬を膨らませて、火炎放射の準備に入った時……竜子が叫んだ。
「ちょっと待てルリハ、どう考えても変だ! こんな立派な遺跡を爆発破壊する意味がわからない、ルリハ火を吐くのをやめろ」
ルリハは、喉近くまで上がってきていた炎を呑み込む。
涙目でルリハが言った。
「げはっ、いきなり止めないでください……ムセます」
火炎放射が中断されたのを見た、クサレ・クソが横を向いて小声で舌打ちをして呟いた声がルリハの耳に届く。
「チッ、あと少しだったのに使えねぇ怪獣小娘だ」
「今、クソ国王……チッって舌打ちした」
「チッ、怪獣は耳だけはいいな」
「また、チッって言った」
「いちいち、うるさい! 甲冑のデカブツ人型怪獣、四つ這いの怪獣をカエルみたいに踏み潰して火を吐かせ……」
国王が最後まで言い終わる前に、甲冑汎用人型怪獣は、クサレ・クソを指でつまみ上げた。
「なにをする! 離せ! でかいだけのウスノロ巨人!」
甲冑汎用人型怪獣が、顔の覆いを上げると中から女性の顔が現れ巨大な顔の女性がクソに向って言った。
「やっぱり、あんたみたいなクソな王様についていけない……今日限りで『怪獣騎士団』の騎士団長を辞めて、この国を出る……だからぁ」
騎士団長の人型怪獣が、大きく振りかぶってクサレ・クソ国王を彼方へ投げ飛ばした。
「山の彼方に飛んでいけぇ!」
国王の姿が山の向こう側に消えると、甲冑汎用人型怪獣の女性は、ルリハに一礼をして走り去っていった。
◇◇◇◇◇◇
ルリハが、急な展開にどう対処したらいいのか困惑していると、遺跡近くの山肌を崩して、コーラルママと子コーラル怪獣たちがゾロゾロと現れた。
コーラルママの甲羅が二枚貝のようにパカッと開いて、唇にピアスをした女性の顔が現れる。
コーラルママが言った。
「あの遺跡と、私たちの巣穴は繋がっていてルリハさんが火を吹いたら、大変なコトになるところでした……あのクサレ・クソの国王は、わたしたちみたいな怪獣が大嫌いで『怪獣は滅んでしまえ』と考えているんです」
子コーラルがコーラルママの言葉を続ける。
「クサレ・クソ国王は、焼きガニを作ろうとしていました……あたしたちにとっての天敵です、どうせまた城にもどってくるとは思いますけれど」
コーラルに別れを告げたルリハは、四つ這いの少し恥ずかしい格好で歩きはじめた。