王都到着、そこは虚栄の都
「まア、壮麗ではあるな」
二階建ての家々、広い街路、石造りの巨大な神殿
王やら貴族やらが自らの権力と富裕とを誇示するには
これが最もお手軽な手段なのだろう
生まれついての地位、特権、そして金
その他には何ら誇示するものを持たぬ者にとって
これこそが唯一おのれを慰める手段であるに違いない
自らの無能さを糊塗し空辣なるを埋め合わせる
滑稽にして惨めな壮麗さ
「かわいそうな人たちだ」
つい、憐れみを覚えてしまう
瀟洒な邸宅も黄金を散りばめた装飾も
彼らを真に幸福にはしないであろう
無能であるという事は、それほどまでに致命的、かつ、絶対的である
いくつかの街路を過ぎると視界の端にしょぼくれた邸宅が入ってくる
豪壮ではあるが何処か色褪せた
王都の隅に押しやられた粗大ごみ感のある佇まい
ナザルベレラス男爵邸
元の持ち主は5年だか10年だか前にくたばって
ヘナグアトビスなる貴族が買い取ったは良いが持て余し
誰にも見向きもされぬまま時を経た負け犬物件
「まア、悪くはないな」
こんなところに真の才能があろうとは誰も思うまい
思慮の足りない愚かな人間、空虚の頭蓋に海綿を詰めただけの人間は
美麗な邸宅にこそ贅を凝らした園庭にこそ
真の才能がいると思っている
光の当たるキラキラとした場所に真の才能がいると思っている
しかし、そこにいるのは着飾る事だけがお得意の
金ぴかピカピカの木偶人形どもである
くるくると舌を回しておべっかを使い
権力者の周りを跳ね回ってピイピイと
さえずる事しか出来ない道化役者たちだけである
”真の才能”は静謐で密やかな場所にいる
軽薄な流行に流されることなく
世界の辺縁にて、ひっそりと牙を磨いている
ニイ、と口端を吊り上げる
この場所こそ私の新たなる前途にふさわしい