ついに始まる兵棋演習、そのルールとは?
「地図に間違いがあったのが大きかった
図書館にはもっと沢山の地図があるはずだし
見比べて進出ルートを決めるべきだった」
「自由日に下見を出すべきだった」
「絵がうまくて地図をかける人が適任だよな」
「メガラまでで、麦を685ギル消費していた
だから912ギルは必要だった」
「全て船で運ぼうとしたのが間違いだったんじゃないかな
この砂州からオンパリオンまで14エノクはあるし、それに
ストイコバジンとセネケクでは町や村にいって物資を調達しなければいけなかった
結局、ロバを調達するはめになったじゃないか」
「でも912ギルを運ぶにはロバが32頭、半分だとしても16頭は要る」
「ロバはだめだよエショーニクとストーンヘルムには
ヤツメイグサが生えていない、牛車がいいと思う」
「船と牛車で川沿いを併進すれば8日でオンパリオンに着けたはずだ」
「王国史にはポショムルが2千の兵を引き連れて
モサからコピスまで3日で進んだとある」
「どうやったんだろう?」
「・・・・・・・・・」
”神童くん”たちは遠足の不首尾を嘆いているようだ
”兵棋演習”の初回は今日である
二つの組み、赤と青に分かれて対戦し
大半の兵が動けなくなった側の負け、との単純なルールである
研究の成果を試してやろう
勿論、”演習”が私の研究を生かせるほど高度なものであれば
の、話ではあるが
練兵場に人の背丈ほどの山が立つ
魔法によって地形が変えられていく
谷ができる道ができる砂の川ができる、向こうから黒い川が進んで来る
小さな小さな人馬の群れである、「キャー」「ワー」と高い声を上げながら
糸のような戟をひゅんひゅんと振り回し小さな手足をふいふいと振るい
乱雑な群れを成して行進してくるのである
傍らで”神童くん”たちが
「ちっちゃーい」「キャワーー!」「カワイイでごわす!」
と、如何にもお子様らしい嬌声を発する
ラカヌニントスが言った
「死者の魂を定着させたこれらテラコッタゴーレムは
さほど知能は高くありませんが、一定の人格と呼べるものを備えており・」
「バカトハナンダー」
ゴーレムたちが叫び始めた、ある者は腕を突き上げ
ある者はピョンピョン跳ねながら
「ヒッコメロー」「サベツハンタイ」「テッカイヲヨウキュウスルー」
「オレタチヲバカニスルナー」「オマエモシシャノクニニツレテイッテヤロウカ」
「えー、これらのゴーレムは高い知性を備えており
ある程度の自主性を有するほか訓練によって行動を変える事も出来ます」
ダイゴローとレイレイはキラキラした視線をゴーレムの群れに注いでいる
「えー、彼らは陶器でありますので衝撃が加わった場合、割れます
また、長時間連続で稼働させ続けた場合
活動に伴う微細なひび割れが拡大して、割れます
しかし通常の陶器と異なる点として次の三つがあります
第一に見ての通り動き回ります
そして自己修復能力を備えておりますので
微細なひび割れ程度であれば自動で修復されます
つまり普通に動き回っている分にはそれほど割れません
そして活動には酒が必要です
彼らの活動が停止するのは次の場合です
第一に割れた場合、第二、には酒が切れた場合です」
「以上が彼らの基本的な特徴になりますが
質問のある方はいらっしゃいますか?」
ティトウスが言った
「連続で活動できる時間はどのくらいになりますか?
また、休息は必要ですか?」
「えー、個体差はありますが人間のそれに準じます、休息も同様です」
ヘロディアが言った
「酒はどのくらいの量が必要ですか?」
「100ベール時当たり8から13テキロップが必要です」
レイレイが深刻そうな顔で言った
「割れたら彼らは死ぬんでしょうか?」
「えー、彼らは既に死んでおりますので、再び死ぬ事はありません
消滅するのかと言う事であれば其れもありません
彼らの肉体、つまり陶製の人形が破壊された場合
彼らの魂はそれを離れて彷徨う事になります
つまり元の状態に復すると言うことです」
「・・」
「えー質問は出尽くした様なので東陣営と西陣営の”最高司令官”を決めましょう」
「我こそはと言う方はいらっしゃいますか?」
「最高司令官か」
響きは悪くない
まア、最初に”現実”を示し”神童くん”たちを
絶望の底に沈めてやっても良いだろう
だが、それでは彼らが余りにも不憫である
ほわほわぬくぬくの温室育ちである彼らは打ちのめされ
二度と立ち上がれないだろう
それに・・・・
あらゆる英雄伝説に於いて、”真打”は最後に現れる
圧倒的な力によって膠着した盤面をひっくり返し
物語の終章を荘厳な輝きで飾る
ニィと口端を吊り上げる
「実力は最後に示してやろう」