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灰墨の碑  作者: ゴミ
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さらば!、レベルの低い故郷を離れ向かうは王都

はいぼくのひ

旧題:「クムルカルのほのぼのスクールライフ」

藤澤清造先生の「刈入れ時」と西村賢太先生の「疒の歌」が面白かったので書きました


「哀れだな」


つい、同情してしまう


基礎学校の教員と生徒が数十人

ぽかんと口を開け此方こちらを見つめる様は実に滑稽こっけい


こいつらには魔法学園を出て国家の中枢で活躍するなど

遥か想像の彼方かなたの事だろう

こんなところにとどまる事しかできず

下らない農場主や地方官吏として生きるのだろう

人参を掘り出し書類をめくり

やぶれた衣服をつくろって一生を過ごすのだろう


「ククク」


つい、笑いがこみあげてくる


トゥール校長がうつむき加減に進み出る

私”アルクトゥース・クムルカル”をミスラ魔法学園に推薦したのはこの人物である

なんでも、セヌウラート中の貴族に頭を下げて回ったとのこと、ご苦労な事だ

まア、こんな基礎学校であっても校長になれるだけあって

少しは”見識”という物があるようだ


校長が言った

「さあさあ皆さん、クムルカル君の壮行会ですよ、笑って笑って」


「アハ」


「アハハ、ハ」


何人かがぎこちなく笑う

あまりの事に、呆気あっけにとられているようだ

それはそうだろう


4年生でミスラ魔法学園に進学できるほどの才能

それを目の前にするという驚愕

矮小な自分自身とは比べる事すらおぼつかないのだろう


それとも、ミスラ魔法学園を知らないのだろうか?

それは十分にありうる事だ

遥か王都にある最高学府のことなど

こんな田舎の田吾作たごさくどもには想像の彼方かなたの事に違いない

村の外に広い世界があることすら理解できはしまい


今度はレグアル教頭だ、卑屈な笑いを浮かべ言葉を並べ立てる

「まさに呆然自失ぼうぜんじしつとはこのことです、まさかこの学校から

あなたほどの傑物が出てくるなんて思ってもみませんでしたよぉ」


セッタオルシェ

「初めて会った時に確信したのです、”これはッ!、ただものではではないゾ”と

いずれすごい男になる、ゆくゆくは大臣、いや、もしかしたら王に

なるかもしれないぞ、と、確信したのです

いやぁ期待通りです、貴方あなたならば魔法学園の者たちを

驚愕させる事ができるに違いない!」


生徒たちは訳がわからないといった表情で周りの大人たちを見回している

まア無理もない

このくらいのお子様たちが真の才能とは何かを理解できるはずもない


これは悲劇である、本当に悲しい事だ


彼らは”本物”に接しながら何を得ることもあたわず大人になっていく

そして老境にいたってようやく、自らのかたわらにあった

宝玉のまばゆい光とその偉大さに気づくのであろう

老いてしなびたしわだらけのかいなを薄い陽光にかざし

まなこを見開いて自らの経てきた年月としつき空虚からっぽさを知るのだろう


それを思うと涙が出てしまう


ヘダンガル

「そうです、そうです、私はずっと貴方あなたの王都への進学を

方々(ほうぼう)にお願いして参りました、だって、もったいなじゃありませんか

これほどの才能がこの小さな町に留まっていて良いはずは無い

ここで貴重な時間をついやしていて良いはずが無い

遅まきながら今回の決定が下されたことは

この村にとって、いやの国にとって大いなる幸いです」


まったくだ、この国の教育制度の愚劣さが此処ここに表れている

”教育”とは本来、真の強者を見つけ出し育てる事である

”強者”とは実質のともなわない”お勉強”の得意な人々ではない

まいにち何時間も机に向かい書物を暗記しようとする人々ではない

真の観察眼を持った者はサラリと本をめくりの本質を見抜く

物事の中にある真理をとらえ自らのものにする

枝葉末節しようまっせつとらわれ無為に時を費消ひしょうする愚はおかさない


”強者”とは周囲に友達をはべらせ

ぴゃあぁぁーーなおしゃべりを繰ひろげる者ではない

なぜなら、”愚かさ”は伝染するからである

低能は周囲を低能に染める、低能に接した者は低能となり

新たな低能の感染源キャリアとなる

”強者”はそれに近づかない、”強者”は群れることなく

他の誰にも成し得ないことを実現する


このような希少レア才能ギフテッドしかるべき舞台ステージに送り込む

これこそが”教育”というものである


校長が言う

「王都の貴族、そう、あの大貴族の・・・・・・・・ヘグナトアビス・・

ヘグナトアビス様も是非ぜひクムルカル君を

招きたいと言って下さいました


それから・・・・・、あの御方おかた、・・偉大な・・・

あの偉大なナザンペルス・・・、ナザンベレス?

様もクムルカル君を招きたいと言って下さったのです


クムルカル君は我々の誇りです

魔法学園ではいったいどんな驚くべき働きをしてくれるのか

今から楽しみでたまりません」


「哀れなものだな」


つい、哀しくなってしまう


こいつらは自分たちが”宝玉”

を手放そうとしていることに気づいているのだろうか?

このさき一生涯、出会うことなき輝きを

密林と山河の果ての遠き王都に

行かせようとしていることに気づいているのだろうか?


いや、こいつらに其処そこまでの知能は無い

ただ、金になるから、名誉になるから、大貴族{あるいは王族か?}

の言う通りに動いているだけなのだ


まア、私にとっては都合の良い事である

王都にはどの程度の才能がいるのか、どの程度の異才がいるのか

いずれにしても此処ここよりはマシであろう

楽しみでないと言えばウソになる


「王都に集まる”神童”

たちが俺を楽しませてくれる水準レベルであれば良いのだがな」


颯爽さっそうと白馬に乗り、歩を進める

この村に振り返る価値は無い

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