書く事
書くことがない。
白紙を前にそう思った。ペンを握る手の汗が鬱陶しい。
(書かねば)
別に書く事は嫌いではない。だが「好き」というにはとても苦しい。無数の知識は渦巻いているのに、いざ文字に起こそうとすると形にする事ができない。嫌だ。目の前の紙を見る。最初の1文字書くことを拒む。
(とにかく書かねば)
適当にペンを走らせてみる。ハッと気づいた。
インクの向こうに他人の顔が見える。つまりは何も考えずパクった。
(いけないいけない)
紙を丸めて後ろに放る。白紙を前にまた悩む。
なぜ書くのか。
最初は楽しかった。ただ言葉を並べるだけで世界が広がる。それも今やどこまで書いても、本当
に書きたい事を書けず、頭との乖離を見せる。書けば書くほどその都度己の限界を突きつけられ
る。
「才能がなんだなぁ…」
独り言を言う。部屋の静寂が肯定してくる。
白紙を見るとさらに辛い事がよぎりそうになった。
(辞めるかぁ?)
一瞬やめようとしたが、ペンは離れてくれなかった。
「おっといけないいけない」
切り替えて握ったままのペンを走らせる。逃げて後悔した記憶をおでこに貼って、今の現状を紙
に染み込ませる。
「楽しい」
ペンを握る手から少し力が抜けたようだった。
筆者はPCで書いてるし、こんなに熱心でもない……