第8章 希望の誓いと新たな謎
侯爵の館は深い静寂に包まれていた。淡い青のステンドグラスから漏れる光が、床に水面のような揺らぎを映し出している。その中でリュイは深く息を吸い、心を落ち着けようと努めていた。
「リュイ、あなたが話したいこととは?」
侯爵――フルーメ・メルクリスは、優しく、そして穏やかな声で問いかけた。
リュイは何度も深呼吸を繰り返しながら、小さく頷いた。
「……俺は、中央島のスパイとして、この島を裏切る行為をしてきました。」
その言葉が館内に響いた瞬間、空気が一瞬凍りつくようだった。キラやティアも、固唾を呑んでリュイの言葉に耳を傾けている。
だが、侯爵の反応は予想外だった。彼女は動揺することなく、静かにリュイの目を見つめた。
「理由を話してくれますね。」
侯爵の声は優しく、だが揺るぎなく、リュイに対する信頼が感じられる。リュイは目を伏せ、震える手で拳を握りしめた。
「姉が……中央島に囚われている治癒師の中にいるんです。姉が人質に島を汚染するよう脅されて……。」
侯爵は静かに目を閉じ、しばし沈黙した。その沈黙は、リュイを責めるものではなく、彼女自身の無力さを悔いているようにも感じられた。やがて、侯爵はゆっくりと口を開いた。
「リュイ……私の力が及ばないばかりに、あなたに重荷を背負わせてしまい、申し訳ありません。」
その言葉に、リュイの目から涙がこぼれた。彼はかすかな声で答えた。
「侯爵……どうか、もう謝らないでください。僕は、これから全力で島の浄化に協力します。それが俺にできる唯一の償いだから……。」
侯爵は静かに微笑みながら、リュイの肩に優しく手を置いた。その手の温かさが、リュイの胸に深く染みわたった。
「ありがとう、リュイ。あなたの決意を信じています。そして、これからも共にこの島を守りましょう。」
その言葉には、これからの戦いに向けた確かな意志が込められていた。リュイは少し安心したように深呼吸をすると、侯爵に向かって強く頷いた。
「青水島は、中央島からの圧力に対抗するために、ポーション供給の優先権を譲ることで、赤炎島との軍事支援の取り決めを結びました。まもなく、治癒師たちの安全も確保できる見込みです。これで、島に少しでも平穏が戻り、希望の光が差し込むことを信じています。」
「…よかった…よかっ…。」侯爵の言葉に、リュイは心からの感謝と安堵が溢れ涙ぐむ。だが、安堵の表情が消えぬうちに、彼は真剣な顔つきで続けた。
「でも……僕が設置した汚染装置は三つだけです。それをすべて破壊したのに、島の浄化力が完全には戻っていません。」
その一言が、再び新たな疑問を生み出した。キラが眉をひそめて思案し、やがてひとつの仮説を口にする。
「もしかしたら……島全体の源泉、大山の泉にある遺跡に異変が生じたのかもしれません。」
キラはその場を引き締めるように、侯爵に頭を下げた。
「僕に遺跡の調査をさせてください。」
侯爵はしばらく悩んだ末、静かに頷いた。
「頼みます。もともとあなた達の目的を黙認する形でしたしね。今まで青水島を救うために動いてくれていたのですから、あなた達を信じて島の未来を託しましょう。」
「ありがとうございます!」キラは侯爵に頭を下げた。
「お礼を言うのは私たちの方です。キラさん、ティアさんありがとう。」
侯爵にお礼を述べられ、キラとティアは照れくさそうに笑った。
「それにしても、リュイ、今度は邪魔しないで、ちゃんと協力してくれよな!」
ティアも続けて、軽く笑いながら言った。
「そうよ、リュイ!しっかりサポートしてね!私綺麗な景色の中で美味しい薬茶が飲みたいな〜」
リュイは困ったように、笑うしかなかった。
「えぇ?!山の中にポットやカップを持っていくのかい?勘弁してくれよ」
侯爵は、そんな3人のやり取りを見て、優しく微笑み見守っていた。