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第5章 錬金装置の発見と解除

「奥から、錬金術の力が流れてきている。」

キラはゴーグルを装着し、洞窟に流れ込む水を注意深く観察する。他の場所とは異なる異様な光が、水流に混ざり込んでいたのだ。

水に濡れながら奥へ進むと、内部に広がる空間の中央にそれはあった。

「森の泉で見た装置より、ずっと大きい……」ティアの声が震えを帯びる。

洞窟の中心には、黒い鉱石――カラスタイトを幾何学的に組み合わせた巨大な装置が鎮座していた。

装置を囲むように、管が壁に沿って滝の水源に繋がり、その管を通る水は濁り、腐敗した匂いを放っていた。

「これが……大滝を汚染している装置。」キラは息を呑む。

「森の泉の装置とは比べものにならない。規模も、精密さも……」

キラはゴーグル越しに装置をじっと観察する。力の流れが、ゴーグルの視界に青と紫の光となって映し出される。浄化の力がカラスタイトに吸収され、そこから腐敗の力が放射されているのが明らかだった。

「浄化の力を吸収して、腐敗の力を生み出しているんだ。滝が持つ膨大なエネルギーを利用して、水を汚染している……」

「じゃあ、どうする!?装置を壊すしかないだろ!」焦りを隠せないリュイが声を上げた。

「ダメだ!力が暴走する可能性が高い。破壊したらどうなるかわからない!」キラはリュイを制し、目を閉じて考え込む。

父が残したノートの一節がふと脳裏をよぎる。

『青の力は浄化の力。正しい流れで全てを鎮める』

「流れ……水の流れ……力の流れ……」

キラは再びゴーグルを通して装置を見る。無数のカラスタイトの破片が、浄化の力を吸収している。そして、その全てが核となるカラスタイトの塊に力を集中させていた。

「そうか……逆の流れを作ればいい!」

キラはティアとリュイに向き直ると、確信に満ちた表情で言った。

「今、この装置は浄化の力を腐敗の力に変換している。その流れを反転させるんだ。」

「具体的にはどうやるの?」ティアが真剣な眼差しで問いかける。

「僕が浄化の力を直接、装置の核であるカラスタイトに流し込む。そして、力の流れを逆転させる。成功すれば、周りの破片から浄化の力が放出されるはずだ。」

「でも……もし失敗したら?」ティアの声に、不安が混じる。

「だからこそ、君たちが必要だ。装置がどう反応するかわからない。何が起きても対応できるように、備えていてくれ。」

ティアとリュイは、彼の決意に圧されるように頷いた。

「任せろ、キラ。俺たちは全力でサポートする。」リュイが胸を叩いた。

「気をつけてね、キラ。」ティアは祈るような表情で彼を見つめる。

キラは装置に一歩ずつ慎重に近づいた。洞窟内は冷たい湿気で満ち、息苦しいほどの静寂が支配している。ゴーグル越しにカラスタイトを睨みつけながら、手袋をきつくはめ直した。触れた瞬間、鉱石は微細な振動を起こし、冷たく硬いはずの表面が脈打つように反応する。

「……これ、本当に人間が作ったものなのか?」キラは息を呑む。

「どれだけ時間かかるんだ?」リュイの声が震えていた。彼の手は剣の柄を握りしめ、緊張が肌に伝わる。

「わからない。でも、これを止めなきゃ…。」

キラの声は静かだが、その瞳には強い決意が宿っていた。

青色の虹光が彼の手から放たれ、装置に注ぎ込まれる。その瞬間、カラスタイトが震えを止め、異様な鈍い音を立て始めた。

「待て、何かおかしい!」リュイが叫ぶ。

次の瞬間、装置の中央部から黒いエネルギーが爆発的に噴き出した。重く濁った霧が洞窟全体を飲み込み、視界が一瞬で真っ暗になる。霧は息苦しいほどの重圧を伴い、肌にまとわりついてくる。

「っ!これは装置の自衛機能か……!」

キラは青い光を必死に制御しながら、歯を食いしばった。「くそ……まだ終わってない!」

「ティア、大丈夫か!?」リュイが叫ぶ。

ティアはとっさに周囲に浄化の幕を張って霧を防いでいたが、その顔には明らかな疲労が滲んでいる。

「この圧力……長くは持たないっ……!」ティアの声が震える。

「早くしろ、天才虹光師!」

「文句言うな、集中させろ!」

キラは余裕のない苦笑いを浮かべると、さらに青光を注ぎ込む。

「もう少し……もう少しで……!」

カラスタイトは反応を激化させ、轟音を伴い振動が増す。洞窟全体が揺れ始め、岩の割れる音が響き渡る。

キラの額には汗が滲んでいたが、彼の目はゴーグル越しにカラスタイトのエネルギーの流れを捕捉していた。「今だ……!」

青色の虹光を最後の一滴まで注ぎ込むと、装置が青白い閃光を放ち、洞窟全体を一瞬で照らした。

「っ!」

閃光が消えると同時に、黒い霧は完全に晴れ渡った。滝壺の水が、みるみるうちに清らかな透明さを取り戻していく。濁りは消え去り、澄んだ冷たい水音が洞窟内に心地よく響いた。

「……やった……!」

キラは膝をつき、肩で息をしながら呟いた。その目に浮かぶのは、成功への安堵とわずかな疲労の色。

「やったな、天才!」リュイはキラの肩を力強く叩いた。

「もう少しで自衛機能にやられるところだったけどね。」キラは苦笑いしながら、立ち上がる。

ティアが駆け寄り、2人を強く抱きしめた。「私たち、すごいわ!」その瞳には、達成感と安堵の涙が浮かんでいる。

難局を経て3人は確かな絆で結ばれたようだった。

「でも…」キラが周囲を見渡しながら呟く。「これで終わりじゃない。こんな装置を作れる技術力があるなんて、中央島の力がどれほど大きいか…」


3人は滝を後にし、青水島の危機は、まだ終わっていないのだと胸に刻みながら。帰路に着くのだった。


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