第1章 青水島
空と大地の虹物語〜紫重島遺跡の秘密〜 の続編です。
キラとティアの力の詳細などが書かれています↑
キラ:15歳黒髪の少年で、亡き父親が残した遺跡の研究資料から、「大地」の存在を知り、憧れを抱いている。
ティア:14歳のプラチナブロンドの少女。空島の生活を支える虹の力を自由に操ることができる力を持ち、そのために皇帝から追われている。
空島神話
むかしこの世は何もなく光の力が満ちていた。神は光の力を使い、空と空に浮かぶ島をおつくりになられた。
神は光を7色:赤は火、橙は土、黄は雷、黄緑は風、緑は木、青は水、そして紫は重力にわけ、人々へわけあたえた。それから神は自身を8つにわけ眠りについた。それ以来空は虹の民のものとなった。
蒼い空が広がる中、キラとティアは青水島の上空をカイトに乗って飛んでいた。下を見下ろすと、青く澄んだ川が島を縦横に流れ、島全体を青いリボンで包み込むように見える。
「わぁ、青水島ってとても美しい島ね!島中に川が流れて、まるで青いリボンに包まれているみたい!」
ティアは窓の外を見つめ、感嘆の声を漏らした。
だが、キラはその言葉に少し違和感を覚えた。確かに美しい島だが、その美しさの裏に何か不穏な気配が漂っているような気がした。島全体に広がる川は浄化の力を運び、島を守っているはずだ。しかし、今はその輝きにどこか翳りが見えるようだ。
港に降り立った二人を迎えたのは、温かな笑顔の地元の人々だった。しかし、その中にもどこか影があるような、微妙な違和感が漂っていた。
広場に向かって歩いていくと、すぐに激しい言い争いの声が耳に飛び込んできた。
若い治癒師と思われる青年が、数人の商人と中央島の制服を着た騎士たちに囲まれている。青年の顔には疲れが色濃く、商人たちの声が荒れ狂っている。
「これがポーションの質か? こんなものじゃ、他の島々には供給できんぞ!」
「供給が遅すぎる! 俺たちがどれだけ待たされてると思ってるんだ!」
青年は必死に頭を下げ、両手を上げて答えた。
「申し訳ありません。ただ、今の状況ではこれ以上の品質は……」
だが、商人たちの怒りは収まらない。ついには騎士の一人が青年の胸ぐらを掴もうとしたその時——
「やめろ!」
キラの声が響き、続けてティアが素早く水球を放つ。水球は騎士の手を弾き飛ばし、青年を救った。
「何をする!」
騎士たちは怒りをあらわにしてキラたちに向かってきた。ティアは驚き、声を震わせて叫ぶ。
「わわわ! あの人たちすごく怒ってる!」
「そりゃ怒るよ!」
キラは呆れたように言いながらも、冷静に地面に手をつけ、地下に流れる水脈の力を探った。
キラが引き寄せた水脈の力は、予想以上に弱まっていた。
虹結晶を通じて無理やりその力を引き上げようと青の力をこめる、キラの黒髪が力の流れになびき、手元が青く光った瞬間!広場の井戸や噴水、さらには地面の割れ目から水が勢いよく吹き出した。その水流に触れた騎士はすぐに倒れ、他の騎士たちも怯んで動きを止めた。
「君たち、こっちだ!」
青年がティアの手を引いて、急いで広場から離れる。
「おい!」
ティアの手が青年に引かれる様子を見て、慌ててキラは追いかけた。
ーーーー
「助かった……。まるで濡れネズミみたいになっちゃったね。」
青年は肩をすくめ、苦笑しながら息をついた。
「この先に僕の診療所があるから、そこで乾かすといい。」
ティアは握られたままの青年の手を握り直し、感謝の言葉をかけたが、キラは少し不満そうに言った。
「ティアだけじゃなく、俺も濡れたんだけどな。」
「ごめんごめん! 君にも感謝してるよ。」
青年は苦笑しつつ、二人を診療所へと案内した。
診療所で出された温かい薬茶を飲みながら、ティアは驚きの表情を浮かべる。
「わぁ、美味しい! 体が温まるわ。」
「これは薬効がある薬茶だよ。俺の姉さんが作ったものなんだ。」
ティアがその薬茶を楽しそうに飲んでいる様子を見て、青年は優しげな目で答えた。
数種類の薬草がブレンドされており、浄化の効果もあるその薬茶は、花の香りが漂って心を落ち着ける。
キラは少し落ち着きを取り戻し、青年に尋ねた。
「それで、さっきは何であんな風に絡まれてたんだ?」
リュイと名乗った青年は、青水島の現状を語り始めた。
「青水島は浄化の力を使ってポーションを作り、他の島々にも供給しているんだけど……最近、その浄化の力が弱まってきていてね。そのせいでポーションの品質や量が落ち、島の中で不満が高まっているんだ。」
「それなら、リュイに怒っても仕方がないじゃない!」ティアが顔を真っ赤にして怒った。
「でも中央島の商人や騎士たちは、自分たちが優先だと思い込んでいてさ。『他の島の供給をやめろ』なんて平気で言ってくる。それに、中央に派遣した治癒師も戻れなくて……。」
リュイは疲れ切った表情で続けた。
キラとティアは顔を見合わせ、お互いの意思を確認する。
「僕たちが原因を調べてみるよ!」
キラが力強く言うと、ティアも頷いた。二人の間に、確かな意思の強さが漂う。
「えっ、君たちが?」
リュイは驚いた表情を見せたが、その目にはどこか興味深そうな輝きが宿っていた。
「僕たちは各島の遺跡に隠された謎を調べているんだ。青水島の遺跡と浄化の力の低下は関係があるかもしれない。」
キラは微笑みながら、紫重侯爵からもらった紹介状を取り出し、リュイに見せた。
「へぇ、君たちは紫重侯爵の関係者なんだ。その紹介状があれば、青水侯爵は快く受け入れてくれるはずだ。」
リュイは少し驚きながらも、心から歓迎するように言った。
「俺も何か手伝えることがあったら協力するよ。とりあえず、侯爵様に会いに行こう。」
青水侯爵の邸宅に向かう途中、リュイは青水侯爵について話し始めた。
「青水侯爵家は生まれながらに強い浄化の力を持つんだけど、当代の侯爵様はその中でも特に力が強いんだ。でも、驚くべきことに、力が強いだけじゃなく、その力を惜しみなくみんなに分け与えてくれる、優しい方なんだよ。」
リュイの言葉には、青水侯爵への尊敬と誇りが色濃く表れていた。
「侯爵様はそれだけじゃないんだ。彼女は研究にも力を入れていて、元々協力関係にあった緑木島だけじゃなく、紫重侯爵の協力を得て学術的な観点からも浄化技術や医療の発展を追い求めているんだ。彼女は他の島と連携し、島の未来を切り開こうとしているんだよ。」
リュイは語るたびに、目を輝かせ、侯爵の人物像を熱心に語り続けた。
「へぇ、それはすごい。」キラは納得したように言い、ティアも感心した顔をして頷いた。
「青水侯爵様って、すごく素敵な方なのね!」
ティアが目を輝かせながら言うと、リュイは照れ笑いを浮かべた。
「そうだろ? 俺も侯爵様がこんなに素晴らしい人だって思うと、何だか自分も誇らしくてさ。」
リュイは嬉しそうに顔を赤らめながら、侯爵邸に向かう道のりで、青水島の医療や浄化技術がどれほど進歩したかを熱弁し続けた。
途中、キラが突然興味深そうに言った。
「でも、リュイが話していることを聞いていると、青水侯爵様、すごく研究に力を入れているみたいだけど、元々この島の産業はポーションの生産だろ?研究費や治験、症例を集めたり、この青水島だけでは賄えないと思うんだけど。」
キラの言葉に、リュイは少し黙り込んだ。
リュイは考え込んだ後、軽く肩をすくめた。
「そうだな、確かに。侯爵様は外交にも力を入れておられたけれど、ここ最近はポーションの生産と質が低下したために、うまくいっていないと思う。だから…。」
リュイの言葉はどこか慎重で、何かを言いかけてやめたような雰囲気が漂っていた。