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第7話 学園 二年目が始まる ④

「魔法学園を卒業したら、王国か学園が運営する魔道具工房の所属になるって聞いてましたが違うんですか?」


 だから生まれ故郷の村には帰れないよな、と俺は思い込んでいたわけで。まあ帰ったところで家があるわけじゃないし。

 血の繋がった家族もいない。修道院の皆も、それをいうなら村の住人全員家族みたいなもんだけど。

 でも一度村を出た血縁でもない子供のことなど皆すぐに忘れるよ。俺もそうだったし。誰ひとり俺の帰りを待っていやしないだろう。

 戻ったってロクな仕事もないのは身に染みている。


 それよりも魔法学園を無事卒業したら、身寄りのない平民女子でもきちんとした後ろ楯のある──王国とか!学園とか!今世では最強の後ろ楯だよ──職場に就職できるって聞かされてたんだけど?んでもって俺はそいつを信じてたんですけど?嘘だったの?


 はっ!そういう巧い話(ことばたくみ)に魔力持ちの平民の子や孤児を集めて、魔法学園卒業(おとしごろ)になったら王家や貴族家の性処理(ハーレム)要員として囲い込む、つーエッチな罠だったってこと!?

 んー、異世界転生あるある、っちゃあありよりのあり?

 いわれてみれば俺のいる平民クラス、男女共無駄に顔面偏差値高いわー。みんなモブなはずなのに。不思議だと思ってたんだ。そーゆー理由があったんかーい。(ナタリー)、貞操の危機?


「基本はね。というかこれまではね」

 アボット先生は、赤くなったり青くなったりと忙しない俺に、まずは席に着くよう促し紅茶を勧めてくれた。蜂蜜色の紅茶はハニーティーという。俺コレ好き。お茶の色も味も香りも()()()蜂蜜。輸入品だがお手頃価格で、お茶菓子無しでも()()()()()()()()()が得られるおサイフとダイエットの味方。少しとろみがあるから寒い季節には(あっ)たまるんだよねー。

 ありがたくはふはふしながら頂く。


「今はね、人類全体の魔力向上を最優先に、八王国が協力して大陸中から魔力持ちを探しだして魔法学園で教育していこう、という方針なのね。だから各国も王族貴族の教育は何よりも魔法学園への入学が重要視されていてるのね」


 アボット先生の話をざっくりまとめるとこうだ。

 現在はどの王国の王族でも、魔力量の多さが序列に影響を与えているという。

 一番重視されるのはもちろん血統だ。だけど例えば老王が退位を考えた際、最も有力な後継者と目されるのは、王自身の直系の子供世代孫世代だけでなく、兄弟姉妹の子供世代孫世代を含めた中から選出される。

 国によっては女子や女系の子供達を排除することもあるけれど、同世代の中で一番魔力量の多い者を国王に、という方針に違いはない。

 国王が戦いの最前線に出るなんてことはないが、そもそも国王ってのは、その国土の内で最も魔力の含有量の多い地に在って、淀み偏在しがちな魔力を円滑に領土内に行き渡らせる役目を担っている。新王が即位後、各地の諸侯の城を訪ねる行幸は、王自らが移動することで魔力の移動経路を強化補強する意味があるのだそうだ。


 一般に高位貴族の間では、当主や次期当主は何よりも血統の正統性が重視されている。魔力量については考慮に値する要因ではある、という程度だ。

 一方で、特に軍事関係の高位貴族家──国境を守護する公爵家とか辺境伯とかだな──では元来、武門の当主には魔力量の多さであるとか、強力な攻撃魔法の使い手であるとかが重視されるあまり、瑕疵の無い嫡男を廃してでも分家や傍流から養子に迎え入れる──なんてことももう、珍しい話ではないらしい。


 それでも流石に平民を養子に、というのは無いらしい。これは差別意識というよりも、高位貴族家の養子に入れるほどの魔力量の保持者はそういないというのが理由だそうだ。稀にいな……地方の測定会で、貴族子弟を凌ぐ数値を叩き出す子供がいるそうだが、その場合ほぼ100%、高位貴族の胤……隠し子なんだって。貴族家側が存在を認知していなかったり、放置していたりと、しもじもの預かり知らない、知らなくていい事情があるらしい。測定会の関係者のその後の地位というか僻地に飛ばされたりしてたら「あ~(訳あって放置してました、見つけんじゃあねーよ。報告してくんな、ってヤツだったんだ)不運だったね」って慰められるらしいよ?

 ただ高位貴族家の寄り子貴族、つまり配下の家に養子に入れるというのは時折あって、そんな彼らは平民出身ながら軍では下士官スタート。現場の主戦力だ。


「でもね、平民特待生って少ないでしょ?八カ国合わせても一学年に百人もいないわ。戦闘職クラスは特に少ないでしょ?だから国内くまなく測定会を行う費用対効果に疑問を持つようになったの」

「誰が」

「各国の貴族。一部とは言えない数の多さよ。王族にもそういう意見が出始めているらしいわ」


 私の実家も大半が()()()()なのよ、とアボット先生は寂しそうに笑った。

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