第5話 学園 二年目が始まる ②
食堂は学生寮とは別棟にあって貴族と平民の身分別、学年別に分かれている。
俺達三人が向かった先はもちろん平民二年生用の食堂だ。ここで朝昼晩三食、十クラス二百人が飯を食う。基本ビュッフェスタイルで、何をどれだけ食べても無料という、前世の俺を召喚したい天国のようなシステムだ。
それなのに。
トーストひと切れ(一枚じゃなくひと切れ!)にサラダ、スクランブルエッグをふた匙ぶん。ヨーグルトには蜂蜜、オレンジジュースをチョイスしてトレイに乗っけると、俺達はいつもの指定席に座った。サラダにはトマトとブロッコリー、マッシュしたパンプキンとレーズンに胡桃が入ってる。隠し味にオリーブ油。リコピンビタミンCにE、オメガ3脂肪酸。これで朝から美肌対策はばっちり。
って違ぁう!
なんだよ、この量。少ない少なすぎるだろ、俺!育ち盛りじゃねえか。
と。
前世の俺なら叫んでいただろうけどさ。
だってヨーグルトだってパンプキンサラダだって、カレースプーンならふた匙程度、トマトもブロッコリーもスライス三枚に五房だよ。こんなんで昼までもつわけねーじゃん?て思うだろ?大口開けて食ったら二十口で朝飯終わるっての。
すげーんだよ、この身体。燃費いーい!いや、すげーのはナタリーか?
たったこれっぽっちでもお腹いっぱい、もう食べられない、取りすぎたよぉぅ、なんて半泣きになったりするのだ。一年前の俺は。
村だとさあ、腹いっぱい食うってできなくてさ。常時空腹、満腹感なんて経験ないんだよ。皆で分けて終わり、でおかわりとかもなかったし。
それがいきなり『好きな物を好きなだけ』なんてシステムん中に放り込まれたんだよ?
俺は前世の記憶があったからさ、いやあったんだけども、それでも一年生の時は自分の腹具合というか腹加減というかが把握できてなかったんだ。残すの、もったいなくて泣きながら授業始まるぎりぎりまで食ったっけ。
見かねただろう調理場の人には「持って帰って(隠れて)食べな」って弁当箱みたいな容器に詰めた食べ残し渡されたし。アレきっと、いつまでも片付けらんなくって自分達の仕事終わらないから考えてくれたんだろうな。迷惑かけちゃったよ。ごめんなさい、一年生用食堂の皆さん。二年生になった俺、ナタリーはちゃあんと自分の胃袋の容量、わかる大人になったからね?
フッ(遠い目)。
だってさあ、ビュッフェ全品目制覇って、男の浪漫だろ。まぁ今世の俺は女子だけど。
ひとくちずつなら全品目食えんじゃね?とか思ったりしてさ。
まあこれも若さゆえのアヤマチ、ってやつだ。いわゆる黒歴史だね。
ナタリー少食、すっげー燃費いー!とか思ってたら、キティもラリサも、メニューは違えど量的には俺とどっこいどっこい。ざっと見渡してみたが他の女子生徒も同程度の量だった。男子生徒の中には、いくら育ち盛りとはいえ、もう……ちょっと控えたらどーお?なくらい食ってんのもいる。盛り盛りごはんがさくさく減ってくのは見てると爽快だけどね。
ほーんと、可愛い女の子は胃袋の容量も激可愛仕様だった。自分自身のことであるのにこりゃ永遠の謎だわ。解けん。