第2話 転生 ①
俺が転生した本の中の異世界、それは魔法が存在する世界アバロン。
世界の中心には宇宙とりねこと呼ばれる巨大な聖樹がそびえている。
その樹木の下に世界を構成する八つの国があり、更にその中央には物語の舞台となる魔法学園があった。
この場所に、各国の王族貴族の子弟と、魔力の質と保有量で選抜された平民特待生達が集められ互いに切磋琢磨しながら親睦と信頼を深める為の六年間を過ごす。
王族貴族はそれぞれの国で将来の国政国防を担うことになる次世代エース級だし、平民特待生は各分野の各種製造生産業を支える大黒柱候補達。
あれだな、前世で例えるなら中高一貫エリート養成校って感じだ。
王族貴族は十二歳の誕生日を迎えて最初の春、三月の魔力考査試験に合格して四月に入学する。
最も王族貴族の入学は義務で、卒業してなきゃ貴族とは認められず身分は平民となる。さすがに王族をいきなり平民には出来ないから、男女共子供が出来ない処置をしたうえで世界の外縁にある神殿に幽閉されるんだとか。
一方の平民特待生はその年の王族貴族の生徒数によって受け入れ人数が増減するので、随時……だいたい三ヶ月に一度の間隔で選考試験がある。こちらは十二歳以上なら何時でも受験の機会があるんだが、魔力量は十四、五歳で安定するというか固定されてしまうので、二十歳を過ぎて入学が認められる生徒は、いない訳ではないけど少数だ。
もちろん俺は、平民特待生。
魔法学園の東に在る王国のそのまた東の端っこの村出身の十二歳。
生まれたときから父親は亡く、母親も俺が二歳の誕生日を向かえる前に亡くなった。父親は領主の対魔族戦に徴兵されて戦死。母親は心労や栄養不足やその他諸々が産後の肥立ちの悪さが重なっての衰弱死。
他に身寄りの無かった俺は修道院に引き取られた。この世界の女神様に仕えるため生涯独身を貫く修道女になるためだ。俺が生まれた村では身寄りの無い子供は修道院に入るか軍に入るしか道が無かった。
修道院はともかく子供なのに軍って、前世日本人の俺には違和感しか無いが、軍の砦内で掃除や食事の支度、日用品備品食料品の購入、運搬、搬入、管理なんかの雑用を仕事にする軍属ってのになれるらしい。どちらも衣食住が確実に確保されるし、神殿や国軍が後ろ楯になるから身分証明も信用もばっちり。修道院や軍の施設はどんなに王都から離れたど田舎にもあるから、親の無い子供を取り零すことも無い。修道院や軍にとってもお手軽な人員確保の手段と認識されているらしかった。
貧しい村にしても即労働力とならないお荷物な子供を養う必要も無い。孤児、村、神殿に軍。
みんな嬉しいWinWinの関係だ。
素晴らしい。
さらっと流したけど、おわかりいただけただろうか。
そう、俺、修道女になる!って言いました。
俺、何にも間違ってないからね?
前世日本人、男子高校生だった俺。
今回は女の子に生まれました!
名前はナタリー。徴兵された父親が考えてくれたんだって。ちなみに男の子ならヘンリーになってたんだと。平民なので姓は無いのよ。
ふわふわした栗色の髪にキャラメル色のおっきな瞳。ぷっくりした唇はさくらんぼ色。もちもち頬っぺは桃色だぁ。髪色と瞳の色は父親似、容姿は母親似なんだと。
転生特典かな?ナタリーはとっても可愛い。村の住民大人も子供も、他所から来る行商の人も、一年で交代する近くの砦の軍人さんも。俺を見た九割の人が三日月みたいに目を細めて「可愛い」と口にする。
俺の母親は近隣の村にも知られた美人さんだったと教えてくれたのは修道院の力仕事を一手に引き受けてくれている大工のタウトさん。
母親は村から三日ほど馬を走らせたここより少し大きな村にある領主様の別荘でメイドとして働いていて、領主様御家族の護衛騎士達のアイドルだったとか。その母を射止めたのが護衛一のイケメンで領主様の遠縁で魔法学園出身の魔法騎士じゃなく、鍛冶屋の跡取りだった父だとか。
俺が顔も知らない両親のなれ初めを語って聞かせてくれたのだ。屋根の修理や、裏手の畑を手伝いに来てくれたその作業の合間に。
まるで恋愛小説みたいな話だなー、なんて思ってさ。
ン?レンアイショウセツ何それ。
それがきっかけでもう、ぶわあっ!と。俺の頭の中に前世の記憶が溢れてきたんだよ。
そこからはもう、お察しの通り。十日間高熱出して寝込んだ。これも異世界転生あるあるだよね?修道女さん達もタウトさんも、他の修道女見習い──年齢差はあれどもみんな俺と同じで身寄りの無い人達。今世の俺の家族達──はみんな、薬湯を飲ました以外は女神様に祈る他成す術もなく。だって村にお医者様はいない。村どころか王都にだってお医者様なんていない、庶民を診るようなお医者様は。さいわい、というか神殿は薬草の知識が豊富で、土地に合った薬草の栽培も行っていた。僕が飲まされた薬湯は解熱と整腸効果の高い、見た目が野蒜や蓬に似た割りと一般的なヤツでとにかく無茶苦茶苦かったのは覚えてる。
お医者様ってのは、王族貴族が専属に雇用するもので、例外は軍医と校医。国民皆保険の前世日本の基準からするとあり得ねー!って叫び出しそうなくらい悲惨な社会保障制度だろ?
そんな世の中だから、十日もの間、薬湯以外飲まず食わずでひっくり返ってうんうん唸ってるだけの俺はこのまま死んじゃう、ってみんなが思ったらしい。
だから寝込んでから十一日目に、ケロッと目覚めて、ペロッとお粥を鍋一杯平らげた僕を見て、家族達はポロッと歓喜の涙を流しながら慈愛溢れる女神キーレに感謝の祈りを捧げたのだった。
それが僕、十歳の時の出来事。
この翌年の誕生日、僕は王国主宰の魔力測定会で見出だされて魔法学園への入学が認められたのだった。




