あれから四年
『グルルヴゥ……』
強者の気配を感じた一匹の竜が威嚇を放つ。
その竜は羽を持たず、恐ろしい爪と牙が剥き出しになっている。2本のツノは禍々しく、口からは漏れた吐息によって地面が軽く抉れる。
そんな竜の視線はヒヨコに注がれていた。
そう、ヒヨコに。
「よーし、いつもの行きますかー!」
そう明るく言った小さなヒヨコは竜に向かって軽く走る。
と、言っても異常な速さだが。
竜――名前は凶竜ゲルブローラというのだが、このボスは凶魔の巣窟という上級ダンジョンの最下層レイド裏ボス。
一回とあるパーティによって倒されて弱体化されたとはいえ、その圧倒的な力と状態異常の圧で多くの猛者を屠ってきた。竜の目は人を石に変え、その口は病魔、強酸、猛毒、即死効果の吐息を放つ。スキル【竜のブレス】というスキルを使わず呼吸を吐くだけで辺りに状態異常を撒くこの害竜は、余談だが通称ゲロとあだ名を付けられている。
まぁ、そんな恐るべきゲロ。ヒヨコに向かって視線を固定し、ブルリと体を一回震わせる。【竜のブレス】のスキルの予備行動だ。
「【疾走】」
竜の口から放たれる凶毒のビームを数ミリギリギリで交わし、少しずつ距離を詰め、ゲロから三メートルの距離を保つ。三メートルはゲロの口から漏れる状態異常の吐息の範囲に丁度かからないベストな距離。とはいえヒヨコは近距離攻撃しか持ってないので、ゲロに攻撃することはできない。
が、ゲロが歯を食いしばり地面に爪を強く立てる行動をした途端、ヒヨコはゲロにさらに距離を詰める。
ガチン!
ゲロの【噛みちぎり】。噛みちぎりは息が止まるだけでなく最も隙が大きい技。それは最強のレイドボスとはいえ変わらない。そして息をしていないというのは凶毒の吐息が漂っていない。ヒヨコはずっとこの時を待っていた。
「【蹴り上げ】」
ヒヨコの小さな爪がゲロの喉に炸裂する。ダァン!という小さく、弱々しい見た目には似つかない力によってゲロはひっくりかえる。
「【くちばしドリル】」
【疾走】→【跳躍】→【啄み】の三連コンボによって生まれた技。ちなみにパリィもできるが今回は素早く移動するための手段として使われた。
ひっくり返ったゲロの喉を【啄み】【地団駄】【蹴り上げ】で攻撃しまくる。HPが一割を切った途端、ゲロは姿勢を正し、空に向かって咆哮する。ボスモンスターの最後の抵抗、凶化だ。ボスのHP 以外のステータス――種族値をアップさせる。ボスのステータスの上がり具合はダンジョンの入り口にある模様でわかり、今回は最上位の四倍。ちなみに難易度が高ければ高いほど素材も良くなる。
そんな凶化を遂げたゲロはボスあるあるの咆哮をし、見たものを石化させる赤いレーザーを光らせながら首を地面に近づけた途端【蹴り上げ】で喉を蹴られまた転がされる。何回目か【地団駄】等で踏みつけたとき、ようやくゲロがポリゴンと化する。
世界からのアナウンスが聞こえる。
『おめでとうございます。凶魔の巣窟のクリアが認められました。報酬が配られます…おめでとうございます。激レアの凶魔竜王の心臓×1、そして凶魔竜王の魔石×2を入手しました。続いて凶竜の尾×1を入手しました。…報酬は以上です。
続きまして…経験値を取得……おめでとうございます。レベルが上がりました。貴方は1000レベルに到達しました。伝達は以上です。』
「おぉう、ついに1000レベ…。で、アナウンスさん?進化は?1000レベルになったら進化できるんじゃないんですか!?ねぇー!?アナウンスさんー!!!」
――――
仕方なくゲームをやめる日和。窓を開けて見ると外は真っ暗で、時計を見ると17時を過ぎている。もう晩御飯の時間だ。部屋をでて、階段を降り台所に立つ。今日は両親が共働きの日だ。だから今日はうちが晩御飯を作る係。
そして明日は誕生日。お父さんもお母さんもこの日は休んで3人でうちの誕生日を祝ってくれる。
そんな期待に馳せながら料理をした。
名前:ヒヨリ
【種族:ヒヨコ】
進化状態:未進化
Lv:1000
HP:1820/1820
MP:0/0
SP:789/789
腕力:55
耐久:32
敏捷:113
技量:14
知力:0
幸運:10
スキル:【疾走】【啄み】【蹴り上げ】【跳躍】
【くちばしドリル】【地団駄】【空中跳躍】
【二度蹴り】