ダンジョン行けるかなのだ?
「ぷぅ(ユキノたん。魔石はどこにあるのだ?)」
「ピュイッ(いちばん多いのはダンジョンだね。ここの首都の地下にもあるけど……)」
カーナ神国の地下には、先日大きな地震の後に巨大なダンジョンが発生している。
ところが、ランクがまさかのSSS。とてもじゃないがその辺の冒険者や騎士では太刀打ちできないレベルの高さだった。
今の幼いピアディどころか、そこそこ強い竜種のユキノでも挑戦は難しい。
ピアディもそれを知っていたので、半透明でぷるぷるのお顔を難しめにしかめていた。
「ぷぅ(たしか馬車で一時間ぐらいのところにもうひとつダンジョンがあるって、聖女様の彼氏がいってたのだ)」
言って、ピアディはユキノの大きな口の中から這い出て、もふもふのユキノを地面から見上げた。
ユキノは綿毛竜というドラゴンの種族だ。
知性の高い竜種で、信頼関係が築けた相手とはふつうに意思の疎通が取れる。
鱗があるはずの皮膚には羽毛が生えていて、真っ白でふわふわ。ふかふか。もふもふ。
夏にもふもふは暑苦しいと思われがちだが、とても魔力の高い種族なので、魔法が使える。
夏の今、もふっと抱きつくと、羽毛の中にはひんやりした空気が流れている。
身体を冷やすための冷え冷え魔法を使っているのだ。オールシーズン対応もふもふなのである。
大きくて丸いお目々はガーネットのような深い赤色。
全体的にとても優美なドラゴンだった。
特に小型化したときは幼体の丸っこいフォルムになるので、聖女様をはじめとして愛らしさにメロメロな者は多い。
今、カーナ神国ではピアディとユキノが二大アイドルとして君臨しているといっても過言ではなかった。
ただ、本来なら背中にある翼も羽毛でふわふわのはずが、ユキノは生まれたての頃に悪い人間に翼をむしられてしまっている。
代わりにあるのは、魔法で作った透明な樹脂の翼だ。もちろんちゃんと飛べる翼である。
「ぷぅ(ユキノたん、ダンジョンつれてってー)」
「ピュイッ(おっけー)」
再びユキノにぱくっと口にくわえられたところで、待ったがかかった。
「待て待て待て! 勝手に遠出しようとするんじゃない!」
「ぷぅ(おとうたん)」
慌てて引き留めてきたのは、ピアディの一番の保護者、聖剣の聖者様だ。
あの魔王おばばの、年の離れた弟君である。
そのわりに、見た目は聖者様のほうが年上に見えるから不思議なものだ。
ギリギリ、お兄さんと呼べなくもない背の高いイケメンおじさんである。
青銀の髪に、 湖面の水色の瞳は、ピアディの鮭の人とも同じ。
三人は性別や年齢が違うだけの麗しのそっくりさんだ。魔王おばば一族の恐るべきところだ。