その頃、おうちで待っていたあの子は……
一方、本体(?)の聖剣の聖者様はやれやれと苦笑しながらエアウルフに乗ったマキノ君に近寄った。
「君、マキノ君といったか?」
「は、はいッ」
大柄な大人に近寄られてビビるマキノ君に対し、聖剣の聖者様はニコニコ笑顔だ。
「いつもうちのピアディと遊んでくれてありがとう」
「えっ」
聖剣の聖者様はやっぱりニコニコ笑顔だ。圧を感じる。
いつもと彼は言うが、ピアディとマキノ君が冒険者ギルドで会うのは今日がまだ二回目だ。
当然ながら、聖剣の聖者様はピアディや子守りドラゴンのユキノ君だけでなく、冒険者ギルドからもいじめっ子のことを聞いてしっかり相手のことを把握済みである。
「これからも仲良くしてやってくれるかい?」
「は、え、あ、あのっ」
聖剣の聖者様は引き続きニコニコ笑顔だ。周りの、参加者の子どもたちのお母さんたちが麗しの微笑みに照れて顔を赤らめるほど良いお顔である。
「よろしく頼むよ」
「……はい」
「いい返事だ。この聖剣の聖者ルシウスとの約束だよ」
にっこり聖者様に笑いかけられ、髪をかき混ぜるように大きな手で撫でられて、さすがのいじめっ子も陥落した。
それどころか、ヒョイっとエアウルフの上から片手で抱き上げられ、ピアディを乗せている側とは反対側の右肩に乗せられて大はしゃぎだ。
「ぷぅ(おとうたんがぜんぶいいとこ、持っていったのだ……)」
とはいえ、これでいじめっ子との対決はピアディの勝ちで決着がついた。
その後は、冒険者ギルドが管理する海辺の海水プールで泳ぎの勝負をしてピアディが『無敵(海限定)』のステータスの威力を見せつけて勝利をおさめたことで気も済んだ。
ただ、ピアディの『弱体化(陸上限定)』だけはどうにもならない。
互いに勝ち負けを繰り返しているうちに、あっという間に夕方、冒険者教室の終わりの時間が来してしまったのだった。
「ピアディちゃーん。迎えに来ましたよ、おうちに帰りましょう」
金髪の彼氏と手を繋いた聖女様が迎えに来てくれた。
彼氏が編みカゴの手提げを持っている。中からは野菜や果物が見えた。商店街に夕方の買い出しに行った帰り道に寄ってくれたようだ。
「さあ、お友達にさよならを言ってくださいね」
聖女様に促され、ピアディはサナちゃんを始めとした冒険者教室の皆にお別れを言い合った。
「ピアディさま、またね!」
「ぷぅ(サナたんもまたねなのだ)」
一人、また一人と家族と一緒に帰っていく友達を見送り、最後に残ったのはいじめっ子のマキノ君だったわけだが。
「ぷぅ?(おまえ、おむかえはどうしたのだ?)」
「そんなんいらねえってば。おれ、一人で帰れるもん」
ヒソヒソと冒険者ギルドの職員が聖剣の聖者様に耳打ちする。
マキノ君の冒険者の両親は今日は任務で郊外に出ているため、帰るのが遅いそうだ。
夜までギルド併設の託児所で預かるとのこと。
ただ、今日の預かり児童はマキノ君一人だけとのことで……
「ぷぅ(おとうたん。ねえやー)」
抱っこしてくれる聖剣の聖者様と、隣の聖女様を見た。
二人は微笑んで頷いてくれた。
「ぷぅ(マキノ、われらのおうちに遊びに来るとよいのだ。このピアディがお招きするのだ)」
「えっ!?」
「ああ、夕飯もうちで食べていくといい。今日は確か」
「「カレーの日です!」」
聖女様と彼氏が嬉しそうに声を合わせている。料理番のオヤジさん渾身の、お野菜たっぷりカレーの日だ。
「ご両親には我が家に行くとギルドに言付けておこう。何だったら泊まって行っても良いぞ?」
あれよあれよという間に、マキノ君を連れていくことが決まった。
当のマキノ君本人はちょっとだけ慌てている。聖剣の聖者様と聖女様も一緒なことに緊張しているのだ。
「い、いいのかよ?」
「ぷぅ(かまわないのだ。たーだーし!)」
ピアディは愛らしい顔に似合わない凄みをのせて、マキノ君を見た。
「ぷぅ(おうちには怖い怖い魔王おばばがいるのだ。おまえみたいな生意気な子どもは食べられてしまうかもなのだ)」
「!?」
それから、必死で逃げようとするマキノ君を綿毛竜のユキノ君がもふもふのお手々でしっかり捕捉して、皆で聖剣の聖者様のお屋敷に帰った。
初めてピアディがおうちに連れてきたお友達はいじめっ子だったけれど、一緒にごはんを食べておしゃべりしているうちに、まあまあ仲良くなった。
結局、その後はサナちゃんも交えて長い長いお付き合いになるのである。
ただし。
「ピゥ……(ピアディ、ぼくのことわすれてない?)」
大好きなピアディを取られたと、〝うんめい〟の雛竜が恨めしげにジェラシーを燃やすまで、あと少し。




