潜入! 魔王おばばの工房
魔王おばばは、ピアディの保護者の〝おとうたん〟な聖剣の聖者様と一緒に大きなお屋敷に住んでいる。
おばばと聖者様はなんと姉弟なのだ。
「ぷぅ(おとうたんは頼りになるけど、おばば怖いもん。負けてしまうのだ)」
聖者様は、魔王おばばの姉に幼い頃、お尻ぺんぺんされた思い出を今でも涙ぐみながら語る。
おばばは、庭に工房を持っていて、そこにこもっていることが多い。
魔導具という魔法の道具をそこで作っているのだ。
「ぷぅ(いざ、おばばのねじろに潜入!)」
ログハウス風の平屋の建物に、綿毛竜のユキノと一緒に、そーっと侵入した。
「ぷぅ(ごちゃごちゃしてるが、意外ときれいなのだ)」
壁際には天井まで届く棚があり、道具類や素材類の入った大瓶小瓶でぎっしりだ。
肝心のおばば本人は、奥の作業部屋で何やら物作りをしている。
「ぷぅ(きっと呪いの魔導具なのだ。おそろしいのだ)」
ぷるっと半透明の身体を震わせながらも、ピアディは工房の中を探索した。
「ピュイッ(ピアディ、早く行こう。ジューアさまに見つかったら怒られ……)」
床に置いてある宝箱によじ登り、中身を覗き込んでいるピアディをたしなめようとして。
ピャアアアアア!?
と驚いたときに出る鳴き声をあげかけて、慌ててユキノは悲鳴を、もふもふの前両脚で大きな口を塞いだ。
魔王様が見ている!
いつの間にか奥の作業部屋から出てきたようだ。
白いワンピース姿で青銀の長い髪の麗しの美少女が、じーっと 湖面の水色の瞳でピアディとユキノを見下ろしている。
無表情だ。こわい!
宝箱によじよじしているピアディは、まだ見つかってしまったことに気づいていない。
魔王様の目がピアディを捉えた。
その後、再びじーっとユキノを見下ろしてくる。
(ど、どういうことか説明しろってことですねジューアさま?)
うむ、と小さく頷きを返された。
良かった、まだお仕置きフェイズ手前で済んでいる。光る魔剣を出してないのがその証拠だ。
「ピュイッ(あ、あー、ピアディ、ピアディ。ジューアさまと仲直りするためのヒントは何か見つかったかなー?)」
ユキノが人間だったら冷や汗をだらだら流していたことだろう。
続けろ、と魔王様に無言で顎で促された。
「ピュイッ(ジューアさまが持ってない珍しくて貴重な物が良いんだもんね)」
「ぷぅ(そうなのだ。おばばがわれの威光にひれ伏すような、すぺしゃるでぐれーとな貢ぎ物がひつようなのだ)」
「ピュイッ(何か思いついた?)」
「ぷぅ(在庫は鉱物と金属が多いのだ。宝石と魔石がねらいめかも!)」
ユキノはすぐ近くで仁王立ちしている魔王様を見上げた。
魔石、のところで頷いている。それだ!
「ピュイッピー(ピアディ。相手は魔王と呼ばれるほどのお方だよ。魔石を探しに行こう)」
「ぷぅ(ユキノもそうおもう? われもそうおもった~)」
よし、これでもうこの場所に用はない。
ぱくっと、まだ宝箱のへりにしがみついていたピアディをくわえて、慌てて魔王様の工房から逃げ出した。
「ぷぅ~(フハハハハ、待っているが良いおばばよ! 驚くような品をみせてくれるわ!)」
「ピュイッ(おじゃましましたー! ジューアさま、お仕置きはごかんべんー!)」