激おこの保護者たちなのだ
「チッ。あのカエルもどきも竜の卵も海の中かよ」
「パパぁ。さすがにこんな夜中に海へは入れなーい」
彼ら曰く、〝ピンクのカエルもどき〟が落ちていった海の中は真っ暗だ。
「仕方ねえ。神殿の中を探索して別のお宝ゲットだぜ!」
「でもぉ、それって不法侵入ってやつじゃない? 大丈夫かなあ?」
「問題ねえって。人の気配もしねえし、もしかしたらあのカエルもどきだけでも浮いて戻ってくるかもしれねェ……」
神殿の中は明かりも付いていない。
「問題大有りですよ。不法侵入者さんたち」
「「!?」」
突如聞こえた若い女の子の声に、恋人たちは飛び上がった。
「うちの子に」
「何をした?」
カーナ神国の二大お説教マンとウーマンがドンと仁王立ちで立ち塞がっていた。
聖女様と聖剣の聖者様だ。
いつも国民たちには優しく頼もしい姿しか見せない二人だが、このときばかりは怒りで魔力を燃え上がらせていた。
聖剣の聖者様は虹色キラキラを帯びたネオンブルー。
聖女様はネオンレッドの赤々。
暗い神殿の敷地の中で、二人だけがギラギラと輝いている。
「貴様ら。生きて帰れると思うなよ?」
聖剣の聖者様は聖剣を出すどころか、こめかみに血管を浮かせたとても怖い顔で拳をバキバキ鳴らして侵入者二人を威嚇している。
「いけません、ルシウスさん。カーナ神国は死刑のない国ですよ。でもあなたたち、……『死んだほうがマシ』って言葉、ご存知ですか?」
「「ヒィッ!?」」
聖女様まで拳をバキボキ鳴らしている。歴戦の猛者のような仕草だ。
と思ったら、近くに生えていたトックリ椰子の木の幹に肘鉄を喰らわせた。
メキィッと軋んで、椰子の木は真っ二つに折れた。
見た目は小柄な聖女様だが、腕っぷしは強いのだ。
「ギャオーン!(生ぬるいよ聖女様! こいつら、このままボクが大海原にぽいっとしてこようか!?)」
「「ヒェッ!」」
振り向くと、二階建ての建物並みに巨大な綿毛竜が恋人たちを見下ろしていた。
ガーネット色の瞳の中の縦長の瞳孔が開いて、ぎょろりと二人を睨みつけている。
夜に見ると血の赤のように縁起の悪い色に見えた。
「ギャース!(ボクとお嫁さんの卵も盗んでいったな!? その愚行、万死に値する!)」
ユキノは殺る気満々だ。
「よりによって、叔父様の家に不法侵入するとはね。その上、我が国の守護者、歌聖ピアディへの暴力、殺害未遂? そう簡単に償えるとは思わぬことです」
勇者君たちを伴った鮭の人が、少し遅れて合流した。
青銀の髪の麗しの宰相様の言葉に、恋人たちの顔色が青ざめる。ちなみに鮭の人は笑顔だったが、目がまったく笑っていない。
隣にいる勇者君などはマジ顔で聖剣の鞘に手をかけている。
「し、守護者? あのピンクのカエルもどきが!?」
「やだあああ! あたしたちマジで終わったー!」
この世界では、王様のいる王政の国、国民の代表者を選ぶ民主制や、皆で会議で政治を決める共和制の国などたくさんの国がある。
どの制度の国でも、守護者がいる国もあれば、いない国もある。
守護者と呼ばれる者は国王や首相、宰相などとは性質が違う。
必ず、進化した種族が務め、害した者はどの国どの場所にいても厳しく罰せられると国際法が定めている。
「わかるわけねえよ! あんなピンクのカエルもどきが守護者ってなんの冗談!?」
「……やはり早めにピアディ様のお姿を周知徹底させねば……」
そのための、ピアディの冒険者ギルドへのお出かけだったり、海の家でのピアディ焼きもといウパルパ焼きなどでの告知活動だったりしたのだが。
ひとまず不法侵入者二人は首都へ連行だ。
しばらく牢屋の中から出られないとみた。




