卵たんはわれが守る!
「ぷぅ……」
夜の海を見つめて昔を思い出しているピアディを、むんずと無遠慮な手が掴んだ。
「見つけたぜ。カエルもどき。うっわマジでピンクだし。これ大丈夫なのか? 変な病気持ってたりしない?」
「ぷぅ(しつれいなのだ! だれぞ!?)」
慌てて振り返ると、昼間何度もピアディにビーチボールをぶつけてきたパリピ男女ではないか!
もじゃもじゃの黒い癖毛と無精髭の中年男性と、二十歳ぐらいのピンクブロンドの髪のイケイケ風のギャルだ。見た感じ年の差のあるカップルのようだが……
「今日はお得な日だったなあ。お高く売れそうな生き物に、ドラゴンの卵! 旅行代を余裕でペイだぜ」
「ぷぅ!?(た、た、卵たんー!?)」
男が小脇に抱えている小さなカゴに気づいて、ピアディは大きな青い目がスポーンと飛び出そうになるほど驚いた。
聖剣の聖者様のお屋敷にあるはずの卵がなぜここに!?
「ぷぅ!(おのれ、このふらちものめ!)」
攻撃力ゼロとはいえ、サラマンダーのピアディには幼体ウーパールーパーながら小さな尖ったたくさんの歯がある。
がぶりと、掴んでくる男のムダ毛の生えた手を齧った。思いっきり、噛みちぎるイメージで。
「いってえ! 何しやがる、このカエルもどきめ!」
「……ぷぅっ」
突然の反撃に驚いた男が手を離したので、ピアディはすかさず卵のカゴに飛び移った。
カゴを持つ側の男の腕にも、思いっきりがぶり。
「くそ、やめろ、やめろ痛い!」
「ぷぅ!」
ピアディは卵の入った小さなカゴごと地面に叩きつけられた。
幸い、カゴの中には柔らかなタオルと羽毛が詰まっている。卵への衝撃は緩和されたようでホッと安堵した。
しかし男が大きく足を振り上げて、カゴごと踏み潰そうとしてきた。
迫り来る男の靴裏を見て、ピアディは咄嗟に卵に抱きついた。
「ぷぅ!(だめなのだー!)」
「エッ。ち、ちょっとパパ! あたしのカエルちゃんに酷いことしないでよ!」
「うるせえ、黙ってろ!」
彼女に宥められるも聞かず、何度も何度も踏みつけてくる男から、ピアディは必死で卵を守った。
ピアディは弾力のある、ぷにぷに半透明の肉体を持っている。
それに、聖剣の聖者様や聖女様が日頃から防護の祝福を何重にも重ねがけしてくれているから、ちょっとやそっとの衝撃では傷つかない。
特に今日は昼間、鮭の人やルシウス君に保護ジェルもぬりぬりしてもらっているから、いつにも増して防御力は増し増しのはず。
けれど、大の大人の男の力で何度も何度も繰り返し蹴りつけられて、次第に防御の付与が剥がれていくのがわかった。
「ぷぅう!(ぜったいぜったい、まもってみせるのだ! ユキノたんのこなら、われの甥っ子たんも同然なのだ!)」
だが、繰り返し繰り返し蹴られ続けて、卵からミシッというヒビの入る音が聞こえてきた。
「ぷぅ!?(卵たんー!?)」
ハッとなって顔を上げたところで、ついには海へとピアディたちは蹴り飛ばされてしまった。
「ぷぅ!?」
ばしゃん、とカゴごと水面に叩きつけられる。
「ゲッ! しまった、卵まで落としちまったぜ!」
「ちょっとパパぁ!? 何やってるのよー!」
カゴから飛び出た白い卵が、水の中に沈み、どんどん夜の海の深いところへ落ちていく。
「ぷぅ!(待って! 待つのだ卵たんー!)」




