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再び夢で神殿の中なのだ

「ピアディ。ピアディ。起きなさい」


 聖剣の聖者様(おとうたん)の深みのある声がする。

 落ち着いた大人の男の人の声だ。


「ぷぅ……(むぅう……まだおねむなのだあ……)」

「ピュイッ(ピアディ。おきて。おきてー!)」

「ぷぅ?(ユキノたんまでぇ?)」


 聖剣の聖者様(おとうたん)もユキノも、何だかとても必死な様子だ。


「ぷぅ?(おとうたん、いつのまにおとなに戻ったのだ?)」


 ピアディは短い前脚で目元をこしこしと擦って、目を開けた。


「ぷぅ!?」


 するとそこは、首都のお屋敷の聖剣の聖者様(おとうたん)の寝室ではなかった。


 肌に当たる感触が冷んやりしている。水の感触だ。

 だが濡れた感触はない。ふつうに息もできている。


 広い空間だが、かなり暗い。

 奥のほうに、ぼんやり青白く光る球体が二機。


「ぷぅ(ゆりかごなのだ。ということは、ここは祭殿の間。われいつの間に神殿に戻ってきたのだ?)」

「どうやら夢の中のようだ。ピアディ、お前いつの間に夢見の術を発動した?」

「ぷぅ~(そなの?)」

「無自覚か……」


 やれやれ、と溜め息をついた聖剣の聖者様(おとうたん)に抱っこされて、ゆりかごへと近づいた。


 子どもを創る、創成のゆりかごが祭壇に二機設置されている。

 右側には既に中身がある。白玉のような丸っこく白い生き物が目を閉じて、ぷぅぷぅ小さな寝息を立てていた。


「ぷぅ(これ、われなのだ。ここから可愛いウパルパに進化したのだ)」

「ピュア!(この頃からピアディ、可愛かったんだね!)」


 ユキノが真っ白もふもふの前脚で、ピアディになる予定のゆりかごを撫で撫でした。


「ふむ……」


 何やら聖剣の聖者様(おとうたん)はゆりかごを前に思案げだ。

 祭壇の前後左右をあちこち動いては、ゆりかごの状態をあれこれ確認している。


「サイズはこのまま……材質はやはり……」




 そのとき、祭殿の間の扉が開く音がした。


 ハッとなって振り返ると、そこには虹色キラキラをまとった、真珠色に光る小さな一角獣がいた。

 長い角で上手く扉を開けたようだ。


 ゆっくりと、白く長い毛を揺らめかせて海水の中を進んでくる。

 一角獣の傍には、その体長の半分くらいの胴体長めの銀色の魚が寄り添っている。シーラカンスに似た魚だった。


「ぷぅ(カーナたん。おにいたま)」


 古の時代の、ピアディの兄王とそのお嫁様だった。



 突如現れた一角獣と魚に、ピアディたちは少し、ゆりかごから離れることにした。


 優雅に歩く仔馬サイズの一角獣と、寄り添う魚は、そのまま祭殿の間を進んでゆりかごの前までやってくる。


 そのまま、すーっと音もなく人の姿に変わった。

 魚は背の高い、金髪の男性だ。アメジストのような紫色の目を持っている。優しげな顔立ちをしていた。年は二十代半ばほど。

 ピアディの兄だ。


 一角獣は平均的な身長と体格の、黒髪ショートボブの若い女性に変わった。琥珀の瞳の、優美な顔立ちをしている。こちらは十代後半ぐらいの年齢に見えた。

 兄のお嫁様、竜人族の国から嫁いできたカーナ姫だ。母方の一角獣人族の血のほうが強くて竜人族の国では冷遇されていたというが、その立ち居振る舞いに卑屈なところは見当たらなかった。



『なるほど、創成のゆりかごか。竜人族所有のものと同じだ、耐用年数をだいぶ過ぎている』


『隣にあるのが僕の弟か妹でね。こっちも多分、生まれたらもう、ゆりかごは次は使えないと思う』


『性別は決めなかったの?』


『設定する前に父も母も身まかられてしまったから』


『じゃあ生まれた後、本人が決めることになる』


 しなやかな手が、将来ピアディになる赤ちゃんの入ったゆりかごを撫でた。

 眠っているはずの白玉の赤ちゃんが、微笑んだ。カーナ姫の気配が心地よいのだろう。


 二人は魚人族の国、お魚さん王国(ポセイドニア)の王様と王妃様という夫婦だが、友人のような気安い口調で会話をしている。



『あなたには悪いことをした。せめて魚人族と近い種族を娶っていたら、ふつうに赤子を作れたのだが』


 申し訳なさそうにカーナ姫は自分のお腹に手を当てた。



「なるほど。魚人族の王と、竜人と一角獣人族のハーフのカーナ姫では子はできなかったか」

「ぷぅ?」


 聖剣の聖者様(おとうたん)が納得したように頷いている。


 ピアディたちが見ている前で、ピアディの兄王とカーナ姫はそれぞれ手の中に大量の魔力を放出させて、ひとつにまとめて球体の塊を作った。


 兄王は銀色の魔力をしている。ミスラルとも呼ばれる銀の上位鉱物に近い、より白色の強めな銀色だ。


 カーナ姫は虹色のキラキラを帯びた真珠色。一角獣の姿のときの角の色でもある。



『性別を決めておこう。王子か、姫か』


『そりゃ王子だろう。昨今、周辺情勢もきな臭い。戦になったら戦うのは王族だからね』



 二人はそっと、魔力の塊をゆりかごに触れさせ、中に封入した。

 魔力の塊はすぐに内部の液体と反応して、キラキラと無数の光を生んだ。



『よし、成功!』


『これで三十年もすれば僕たちの子どもが』


『そんな悠長なことも言ってられないだろう? 毎日魔力を注ぎにくれば生まれるまでの時間を短縮できる』




 それからしばらく、ピアディたちは夢見の世界に留まって、経過を観察した。


 有言実行で、兄王とカーナ姫はどれだけ毎日が忙しくなっても、日付が変わる前には必ず海中の神殿へやってきた。

 そして、ゆりかごの中の自分たちの赤ん坊に魔力を与えては地上に帰っていく。


「ぷぅ(この頃のこと、おぼえてるのだ)」

「ピアディ?」


 何度目かわからない国王と王妃の訪れの後、ピアディはよちよちと二機のゆりかごに近づいて、祭壇の段々をよじよじした。


 魚人族にたった二機残されていた創成のゆりかごで、一機はピアディを。

 もう一機では、国王夫妻の王子が創られた。


 神殿の中で、ゆりかごは隣り合わせで設置されている。


「ぷぅ(男の子を創ると決めて魔力をこめたのだ。このこはわれの甥っ子たん)」


 てしてし、と短い前脚で甥っ子となる赤ん坊の入った透明な球体のゆりかごを軽く叩く。


 ピアディと同じだ。魔力の塊はまず、白玉のような白くて丸っこい生き物として、ゆりかごの中で発生した。

 だが、今の時点で既に甥っ子は、隣のゆりかごの中のピアディよりずっと大きい。


「成長がピアディより早いな。両親が健在で毎日魔力を与えにくるからか」




 夢の世界を移動する夢見の術の特性を利用して、時間軸を何度も操作した。


 聖剣の聖者様(おとうたん)が古代の出来事をもっと知りたいと言い出した。

 なので、ピアディたちはゆりかごの様子を短時間のうちに、半年ほど時間を飛び飛び繰り返して観察し続けてみた。


 すると、ピアディの甥っ子はぐんぐん成長し、ふつうの人間の赤ん坊と同じ十月ほどの期間で生まれてしまったのだった。


「ピィ?(見て。ピアディのゆりかごのほう)」


 ユキノが、生まれる前のピアディのゆりかごをもふもふの前脚で指した。


 何だかとても羨ましそうな、寂しそうな顔をした白玉が、生まれて両親に抱かれている甥っ子を見つめていた。


「ぷぅ(このときわれ、甥っ子たん生まれるの早すぎ、われも一緒にお外にでたかったーって思ってたのだ)」


 産まれたばかりの甥っ子は、サラマンダーの幼体の姿をしていた。即ちウーパールーパーだ。

 祖母にあたる先代王妃様と同じ形を選んだようだ。

 体色はピアディとは違う。薄い緑色で、半透明のボディなのは同じ。


(われも、われもウパルパになる!)


 おにいたまと、お嫁さまに抱かれて幸せそうな甥っ子が羨ましかったのかもしれない。


「ピアディがサラマンダーの魚人になったのは、そういう理由だったか」

「ぷぅ」

「ピュイッ(お父さんと同じお魚さんなら、今ごろ泳げてたかもなのにね)」

「ぷ、ぷぅう……」


 国王と王妃、そしてピアディの甥っ子の三人の姿がかすれていく。


「そろそろお昼寝の時間の終わりだな。戻ろう」




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本作の本編にあたる「聖女投稿」はアルファポリスで書籍化のため、なろう版は削除いたしました。アルファ版ページで連載が続いております。
アルファポリス版「聖女投稿」作品ページ(別窓)
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