おうちに帰ってアロエぬりぬり/卵と一緒にもふもふのお昼寝
ピアディの友達のサナちゃんたちも、今日はもう海遊びは終わりにして帰るそうだ。
鮭の人があらかじめ連絡していたようで、お父さんやお母さんなどのご家族、あるいは冒険者ギルドの職員のお迎えで皆帰っていった。
「ぷぅ!(腹ごしらえはじゅうぶん! いざ、海のお宝さがしにゴー!)」
「ピアディ。日中は暑いし日焼けしちゃうからね、僕たちもおうち帰ろう」
「ぷぅ」
鮭の人に日焼け止め、乾燥防止の保護ジェルを塗ってもらってはいたけれど、暑さだけはどうにもならない。
海の家から窓の外を見ると、浜辺で遊んでいる人たちの数も少なくなっていた。ピアディたちと同じようにお昼を食べに行ったり、休憩したりしているのだろう。
「また夕方、涼しくなってから来ようよ」
「ピュイッ(そうだよピアディ。むりしちゃダメー)」
「ぷぅ(それもそうなのだー)」
お昼の特別なシーフードボールを、少々食べ過ぎてしまった。ちょっとだけ眠い。
今の時刻は海上神殿に戻っても誰もいないので、首都の聖剣の聖者様のお屋敷に戻ることにした。
大きくなったユキノのふわふわの前脚でルシウス君と一緒に抱っこされて、浜辺からひとっ飛びだ。
「ただいま戻りましたー!」
「お帰り。……って、半日で随分焼けたなあ。ルシウス君」
玄関まで出てきて出迎えてくれたのは、料理番の初老のオヤジさんだ。いつも美味しいごはんやおやつを作ってくれる飯ウマさんである。
「熱冷ましにはアロエ。中に入る前に塗っておこうか」
オヤジさんは料理人というだけでなく、薬師スキルも持っているできる男だ。
庭のあずまやのベンチに誘導されて、これまた庭に生えている幅広のアロエを一枚ちぎって、中の果肉を潰して汁を搾り出した。
「Tシャツ脱いで」
「はーい」
直射日光に当たったルシウス君の白かったはずの両腕は、日焼け止めを塗っていたのに赤くなっている。
「うわーぬるぬるするー」
「外に出て遊ぶってわかってたなら、ジェル加工して準備しておいたんだけどねえ。まさか子どもになっちまうとは」
「それは姉様に言ってくださいー!」
「はははは」
笑って誤魔化された。オヤジさんも魔王様はちょっとだけ怖いようだ。
「ピアディ君もね」
「ぷぅ」
海の家で鮭の人に保護ジェルをぬりぬりしてもらっていたが、上からアロエ汁を塗り直しても問題ないようだ。
「あのジェルにはアロエも入れてあるからね。主要成分が同じ」
熱冷ましのアロエ汁を塗ってもらい、冷んやりしたところでようやくおうちに入ることができた。
「冷たいおやつを準備してあるよ。食べるかい?」
「海の家でごはんを食べてきたばかりなんです。お昼寝の後でお願いします!」
「了解」
料理番のオヤジさんに見送られて、ピアディはユキノの大きなお口でぱくっとされて、ルシウス君の部屋に連れて行かれるのだった。
まだ午後の一時を少し過ぎたぐらい。夏の一番暑い時刻だろう。
「うわ、部屋暑いなー」
むわっとする熱気にげんなりして、ルシウス君はお部屋の冷房装置を稼働させた。すぐに室内は冷んやり快適な温度になってくる。
日差しが強いので、お昼寝する寝室のカーテンも閉めることにした。
「二時間ぐらいお昼寝しよう」
ユキノにぱくっとされていたピアディを受け取ろうとすると、するっと避けられてベッドの枕元にぴょんと飛び乗られた。
「ぷぅ(卵たんにごあいさつするのだ)」
そこには、小さなカゴに一個の卵が入っている。
大きさはピアディよりちょっとだけ大きい。重さは同じぐらいだろう。
ふわふわのユキノの羽毛をクッションにして、ちょこんとカゴの中に収まっている。
綿毛竜のユキノと、お嫁さんとの卵だ。
「ぷぅ(卵たんはまだおねむなのだ?)」
「ピゥ……(まだまだ孵化しそうもないね)」
この卵はお寝坊さんなのか、他のユキノの子どもたちが孵化して大きくなっても、全然生まれる気配がないのだという。
仕方ないから、聖剣の聖者様が有り余る聖なる魔力を注ぎ込んで、孵化を促している最中なのだ。
「ピアディも魔力をあげてくれるかい?」
「ぷぅ(ならばいっしょにおひるねするのだ)」
これ、これ、と短い前脚で卵の入ったカゴを叩く。
そのカゴをルシウス君は持ち上げて抱え込んだ。
あとは卵に衝撃を与えないよう気をつけながら、ユキノのふわふわの胸元にダーイブ!
「んー! ベッドで寝るのもいいけど、涼しいお部屋でユキノ君のふわふわの中でのお昼寝も最高!」
「ぷぅ!」
聖剣の聖者様のルシウス君は、虹色キラキラを帯びたネオンブルーの魔力。
ピアディは、虹色キラキラを帯びたネオンイエローの魔力。
特別な魔力をたくさんまとってのお昼寝は、不思議な夢の世界への入口となった。
以前も試した、夢見の術が発動していることに気づかないまま、ピアディもルシウス君もユキノも夢の世界へと旅立ってしまったのだ。