焼かないタコボールなのだ
勇者君がランチの軽食に調理してくれたのは、一口大の丸っこい粉物の焼き物だった。
水で溶いた小麦粉の生地の中に、タコやイカ、海老、ホタテなどの貝類、ハムやチーズなど味の良い様々な具や紅生姜や野菜を入れて、丸い窪みがたくさんある鉄板で丸く丸く焼き上げたものだ。
具は中に入れるだけでなく、焼き上げた生地を外側から包み込んだタイプのものもある。
海老や生ハムなどはこのタイプだ。端っこからちょこんと飛び出た海老の赤い尻尾がなかなか可愛い。
「元は茹でたタコを中心に薬味を加えて焼いた〝タコ焼き〟が中心なんだ。それだけだとつまらないから、美味しい海の幸バージョンも入れて焼いてみたのだ」
勇者君が解説してくれるが、海辺で遊びまわってお腹ぺこぺこの子どもたちにはわりとどうでもいい話だ。
地元ではあまり見たことがない料理だったけれど、鉄板で香ばしく焼き上げられる調理の実演と匂いに子どもたちは皆浮き足立っている。
盛り付け方がまたお洒落だった。
平たい丸皿に盛るのではなく、子どもたち一人一人にグラスを用意して、好きな具の入った焼き物や、揚げ物を自由に選んでもらって提供する形だったのだ。
勇者君のオススメは甘めのソースだというが、他にもハーブやサラダなどを一緒に詰めていくと、なかなか豪華なお食事パフェの出来上がりだ。
子どもたちの好きな唐揚げやポテトサラダ、それにスモークサーモンを薔薇の花のように巻いてのせた盛り付けは、子どもの目からも素敵に見えたようだ。あちこちで歓声があがっている。
「ぷぅ」
ふんふん、と小さな鼻を鳴らして料理の匂いを嗅いで、ピアディは残念そうにちょっと俯いた。
まだ幼いウーパールーパーのピアディは加熱した食材が食べられない。小麦や米などの穀物原料もまだ未熟な胃腸では消化しきれなかった。
「ぷぅ……(せめて人間になれれば食べられたかもなのだ……)」
「ご安心を、ピアディ様」
にっこり麗しく微笑んで、鮭の人が透明な樹脂製の型を取り出した。
鉄板と同じような半円の丸い窪みがたくさんある、四角い型が二枚。
そこにタコ焼きその他と同じように、ただし茹でていない生の海鮮や海ブドウなどの海藻、星型やハート型に小さくカットした生野菜を少しずつ具として入れていく。
「ぷぅ?」
最後に、レードルで薄っすら褐色の液体を注ぎ込み、一枚ずつ傍に準備してあった氷水で外から軽く冷却した。
二枚とも終わった時点で、型を重ねて球形のゼリーに形成する。
あとはヘラでゼリーをボウルに取り出すと、ぷるんと透明な、シーフードボールの完成である。
「ピアディ様が食べられるように、昆布だしを使って、でも味付けはしてないんです。ただ、それだと他の皆には美味しくないので……」
ガラス製のスープマグにゼリーのシーフードボールを三つ。そこに、すかさずスタッフに徹していた勇者君の親戚のお兄さんが寸胴からレードルで冷たいスープを注いだ。
「海鮮の寒天ジュレ入り、冷製コンソメスープです。ジュレを崩しながらスープと一緒にどうぞ」
おおおお、と子どもたちは沸き立った。
「すごいわ! お店のおりょうりみたい!」
サナちゃんが感激している。「お店だよー」と周りの友達に突っ込まれていたが、満面の笑顔だ。
「「「「「いただきます!」」」」」
「ぷぅ!」
待ちきれなかった子どもたちと一緒に、ようやくお昼の時間だ。
「あつっ、……ふわとろしてるー!」
「次があれば、カリッと系も楽しみにしててほしい」
「ソースおいしい!」
「ネギやおろし……はまだ早いか。卵多めで出し汁で食べるのも、次の機会に」
ピアディ用のシーフードボールは、見た目の涼しさを阻害しないようガラスのスプーンにのせて。
小さく短い前脚で、ちょんちょん、と寒天ゼリーの表面を突っつく。
ぷるん、と震えるも、ピアディの力でも簡単に前脚が沈み込んでいく程度の柔らかさだ。
かぷ、と大きく口を開けてかじりつくと、昆布の海藻の風味。細かく切られたタコや海老など海鮮系の具は食べやすい。
「ぷぅ(ゼリーから海の気配がするのだ)」
「深層水から塩分除去したもので出汁を引いてあるんだ。ミネラル分の比率が海と同じ」
「ぷぅ?」
工夫は料理だけではない。
「この型、ジューアお姉様が作ってくれたんですよ。ゼリーならピアディ様でも食べられるものが作れるだろうって」
「ぷぅ? ――ぷう!(おばばが? ――しまった、おばばへのわいろ探しを忘れてたのだ!)」
「えー。ピアディさま、いまさらすぎー」
ルシウス君やユキノは「いつ気づくかなって思ってた」と笑っている。
わかっていたなら指摘してほしかったのだ!