聖女様のお呼び出し
ある日、ピアディの日常に激震が走った。
季節は夏。
子どもたちが夏休みに入ったばかりの頃、ピアディは保護者の一人である 聖女様に呼び出されてこう言われた。
「ピアディちゃん。魔王のお姉様といつも喧嘩ばかりですね」
「ぷぅ(われ悪くないもん。おばばが怒りんぼなのが悪いのだ)」
「どうか、仲良くしてもらえませんか?」
「ぷぅ(あんな怖いおばばと仲良しはいやなのだ)」
「そうですか……」
仕方ありませんね、と黒髪オカッパの若い聖女様は溜め息をついた。
「ならば、魔王様と仲直りするまでは、おやつ抜きです!」
「ぷぅ!?(なんですと!?)」
「期限は夏休みが終わるまでです。それまでにできなかったら、お説教しますからね」
「ぷぅー!(やーだー!)」
聖女様のお説教は圧が強めだ。こんこんと、本当に反省するまで許してくれない厳しさがある。
仲直りなんかしたくなかったけど、おやつには代えられない。
最近、料理番のオヤジさんや、料理上手の勇者君がますます腕を上げた。
ピアディは毎日のごはんやおやつの時間を楽しみに日々を生きているといっても言い過ぎではなかった。
「ぷぅ(魔王おばばはとても怖いひとなのだ。どうやって仲良くなればよいのだ?)」
ピアディがおばばと呼ぶのは、女の魔王様だ。
青みがかった長い真っ直ぐな髪と、湖面の水色の瞳のとても美しい〝少女〟なのだが。
「ぷぅ(われはだまされぬ。あのおばば、まちがいなく若作り!)」
本人に聞かれたらきゅっと捻られそうなことを呟きながら、住みかの海上神殿の回廊をよちよちと歩いていった。
魔王おばばは魔法剣士の元締めでもある。
怒るとたくさんの光る魔剣をぶっ放してくるので、『決してご機嫌を損ねてはならない人』としても知られていた。
「ピュイッ(ピアディがいつもジューアさまを怒らせるから悪いんだよ?)」
「ぷぅ!(われ悪くないもん)」
ピアディの子守りの、真っ白ふわふわ羽毛を持つ綿毛竜のユキノ君がめっと叱ってきた。
だがピアディにだって言い分はある。
(おばばはおばばなのだ!)
そう、魔王おばばのジューアは一万年は生きている、魔人族の長様なのだ。
ピアディの魚人族とはまた違った進化した種族の一族出身である。
「ピュイッ(ちゃんと仲良くしないと聖女様にまた怒られるよ。お説教だよ)」
「ぷぅ(それもやーなのだ……)」
しかし、ピアディにとって魔王おばばは、すぐに怒って意地悪をしてくる天敵のようなもの。
仲直りするとはいっても、簡単にはいかないだろう。
戦略を練る必要がある。