われ歌聖なり
「ふむ。なるほど、当時の王と王妃が死期を前に、魚人族を代表する偉大な子孫をゆりかごで創ろうとしたわけか。どこが偉大かはわからんがなあ……?」
マンゴーの甘いジェラートを口に含み、じーっと魔王おばばが 湖面の水色の瞳で聖剣の聖者様に抱かれて眠ってしまったピアディを見た。
「そして生まれたのが、泳げもせず、戦えもしないカエルもどきだったと」
「姉様。それピアディが起きてるときには言わないでくださいよ?」
「ふん」
思っていても誰も遠慮して言わなかったことを、あえてぶち込んでくるのが魔王様だ。
ちなみにピアディはカエルではなく、サラマンダーのうち水生環境に適応した種族と思われる。
陸生なら火を吐くこともあるが、ピアディが吐くのは傲岸不遜な言葉だけ。
「ピア!(じゃあピアディをお部屋につれていきますね!)」
綿毛竜のユキノが聖剣の聖者様からピアディを受け取り、ぱくっと大きな口でくわえて食堂を後にした。
「ピュイッ、ピュイッ(ピアディ。ピアディ。お部屋についたよ、カゴの中入る?)」
「ぷぅ……(ねむねむなのだー。……むー。ユキノたん、バルコニーつれてってー)」
もう半分以上は夢の中だったが、何とか堪えて海が見えるバルコニーまで連れていってもらった。
「ピュイ……(わあ……真っ暗だね)」
海の上にある神殿は、首都のある陸地からだいぶ離れている。
遠くに陸地の明かりが見えていたが、何があるか視認できるほど明るいわけでもなかった。
バルコニーの手すりの上にユキノがピアディを置く。
「ぷぅ~ぷぅぷぅ~♪」
ピアディの半透明の身体から、虹色のキラキラを帯びたネオンイエローの魔力がぶわっと吹き出し、バルコニーから神殿をまず包み込んだ。
「ぷぅ~♪」
まだウーパールーパーの姿のままではしゃべることができないピアディだが、空気の抜けたような音で鳴き声だけは出せる。
ぷぅぷぅ鳴き声を連ねた歌声で、神殿の周囲の海と、陸地の本土カーナ神国を魔力で祝福するのが守護者ピアディの日課なのだ。
「ピュアア……(すごいね。いつ見てもきれいだね)」
神殿を中心に海、そして陸のほうまでネオンイエローの魔力が浸透しきって、おしまいだ。
「ぷぅ(うむ。これで明日もみんな元気なのだ)」
「ピュイッ(歌聖さま、おつかれさまでした!)」
そう、ピアディは可愛いだけのウーパールーパーではない。
歌で世界を祝福する、聖なるサラマンダーなのだ。