われの秘密バレた
ピアディの海宣言に真っ先に慌てたのは聖女様だ。
「ぴ、ピアディちゃん。いけません。まだあなたは幼く小さいのですから、波に飲まれてしまったら戻って来れなくなりますよ?」
「ぷぅ(ねえやは心配性なのだ。われ偉大なるお魚さん王国の末裔よ? 進化した種族ぞ? 海こそがわれの生きるフィールド!)」
なぜそこに最初から気づかなかったのだろう? とばかりに、自信ありげにテーブルの上で胸を反らせたピアディ。
ぽんぽんのベビーピンクのお腹を張る姿は大変可愛らしかったものの。
だが、横から聖剣の聖者様の大きな手にそっと掴まれて、じっと大きな青い目を覗き込まれた。
「ピアディ。そんなことを言って、浜辺で遊ばせたらヤドカリに突っつかれていたではないか?」
「ぷぅ!(あれは引き分け! 最終的に友情がめばえたので勝敗はノーカウントなのだ!)」
ぷぅぷぅ憤慨するピアディだったのだが。
「はは、その頃から既に最弱モンスターだったと」
「ぷぅ!(ねえやの彼氏、よけいなつっこみ不要なのだ!)」
「はいはい」
ともあれ、ピアディはやると言ったことは必ずやる有言実行タイプのウーパールーパーである。
「まあ子守りのユキノ君がいれば大丈夫……か?」
「ピュイッ(もうひとり! もうひとり応援おねがいします!)」
すべての責任を自分だけで負う羽目になりそうなユキノは、必死に道連れ増員を訴えた。
「うーむ。誰を付けるか」
「ぷぅ!」
そんな会話を聞いているピアディには心に決めた人がいる。
「このタコカツ、パンに挟んでタコカツサンドやタコカツバーガー、どうだろうか?」
「良いと思います。食べやすいですし、広場の屋台でテスト販売を……」
「バーガーならやはりポテトフライも欲しいな。野菜フライも添えれば多少ヘルシー」
「冷えた果汁や炭酸水も併売しましょうか。クラフトコーラやビールは飛ぶように売れそうですね」
「海老カツやイカカツ、サーモンカツはどうだろうか? アッ、サバ焼きを挟むのも良いな!」
「お店で食べるなら良いメニューですけど、ファストフードですからねえ。やはりテスト販売……」
勇者君と飯テロ談義で盛り上がっている、〝さいあい〟だ。
「ぷぅ(さいあい、さいあい~。あす海遊びいっしょにいこ?)」
「オレを誘ってくださるのですか? ピアディさま」
「ぷぅ(とももいっしょする? あっ、ねえやも!)」
海より空より青いウルトラマリンの瞳で、うるうると訴えかけるように鮭の人と勇者君をじーーーっと見つめた。
この必殺技は聖女様なら一発だ。
聖剣の聖者様も結構弱い。
魔王おばばはまったく通用しないのがちょっとだけ悔しい。
だが、麗しの鮭の人に食卓からよじよじよじ登ろうとしたピアディは阻止された。
「ぷぅ!?」
何とおばばが、いつの間にか食事を終えて近くに来ていた!
「こやつらは仕事があるからな。おい弟、お前が付き合ってやれ」
「姉様、私だってやることありますよ!?」
がしっと掴まれ、そのまま聖剣の聖者様に向かって投げつけられた。
「ぷぇっ」
何とか受け止められたものの、潰れかけたカエルのような声が出てしまった。
「そもそも、そやつ魚人の裔にも関わらずいまだ水に潜れぬそうではないか。良い機会だ、泳ぎを覚えさせよ」
「ぷぅ!(おばばが鬼ばばのようなこという!)」
ピアディは必死で抵抗したが、聖剣の聖者様を始めとして聖女様その他皆で「ああ……」と微妙な雰囲気をかもし出している。
そう。ピアディはお魚さん王国の偉大な大王様の子孫でありながら、まだ海に潜ったことのない魚人だったのだ。