お夕飯どきに閃いたのだ!
次に向けてやる気満々のピアディに、聖剣の聖者様は少しだけ困ったなあという顔になっている。
「ピアディの攻撃や防御スキルの低さはわかっていたのだ。ステータス値もアンバランスだし、口で言うより、身をもって体験すれば理解するかと思ったのだが」
「進化した種族が全員戦えるってわけじゃないんですねえ」
「でも大丈夫だったんですか? 今のピアディの小さな身体だと装備も何もできないのに」
鮭の人と勇者君の疑問には、聖女様がピアディを撫で撫でしながら答えた。
「ピアディちゃんには私や聖剣の聖者様の加護や祝福を山盛りしてます。スベスベのお肌が傷ついたらかわいそうですもの」
「て、鉄壁の過保護……」
あれこれ仲間たちが話している間、ようやく涙の引いたピアディの大きな目は食卓の料理に釘付けだった。
今日の夕食はフライものだ。
シーフードの小海老と、タコで作ったカツがメインである。
他にも夏野菜のナスやズッキーニ、カボチャ、トウモロコシのフライなどもある。
ウスターソースの他にタルタルソースや、カーナ神国でよく使われている野菜たっぷりのサルサも数種類。特にトマトとタマネギをみじん切りにしてライムと塩で和えたものはいつも食卓にある。
もちろん塩であっさりいただくのも有りだ。特産のライム果汁だけをキュッと絞るのもよい。
それに、鮭の人や聖剣の聖者様の故郷の名産品のスモークサーモンを使ったマリネサラダ、チキンスープなどはいつものメニュー。
「ピアディちゃん、どれ食べたいですか?」
「ぷぅ!(おやさい!)」
まだまだ子どものピアディは火の通った食べ物が苦手なので、皆が食べるものと同じものの、生の物を別に用意してもらっている。
一番好きなのはお魚さんなど海のものだが、最近野菜の瑞々しさにも目覚めた。歯ごたえが良くて水分たっぷり、おいしい。
ナスやキュウリなどピアディの口に合わせて細くカットされたものを、聖女様に食べさせてもらってもぐもぐ。
「お、タコのカツ美味いな!?」
「キャベツや酢漬けの生姜と合わせてカツにしたんだ。ソースで食べるとなかなかだろ」
「これは……ビールが欲しいやつだな」
勇者君が作ったタコカツに皆が舌鼓を打っている。
「ぷぅ」
「おっと、ピアディはまだ揚げ物は駄目だったか。おまえ用にタコの足を残してあるんだ。食べるか?」
「ぷぅ!」
しかし、勇者君から貰った生ダコの足はピアディには大きすぎた。
果敢に挑もうとかぶりついたものの、新鮮な吸盤が口の端っこに吸い付いて酷い目に遭った。
「ぷぅううう!」
「ああ、すまんすまん。薄くスライスしようか」
笑ってピアディからタコの足を取り上げた黒髪黒目の勇者君は、ささっと厨房に向かって薄切りにして戻ってきた。
びろーんと薄く輪切りに切られたタコならピアディの口でも入れられる。
あーん、と大きな口を開けたところに切り身を勇者君が一枚ずつ食べさせてくれる。
もぐもぐもぐ。
「ぷぅ(新鮮でよき。母なる海のちからを感じるのだ)」
なんだかんだで一本分の生ダコを食し終わった時点で閃いた。
「ぷぅ(ダンジョンがダメなら海にするのだ)」
「「「!???」」」
ざわ、と和やかだった食堂がどよめいた。