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鴉は少女と肉を喰らう。  作者: 詩徒
第二章 人間回帰への旅
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第十九話 滅んだ町

もう少しで二章完結します。

 他にあった些細な準備を済ませた鴉頭たちは首都ベイルムの関門近くで立ち往生していた。


「やっぱりケルンの町に行く馬車は無いですね」

「織り込み済みだ。当初の予定通り徒歩で行くぞ」


 首都近郊の町と言えど馬車での運輸は皆無に等しい。

 だがこれも致し方ない事だろう。

 

 【大獣害】以降、運送業は格段に減った。特に人間の国家や都市間での移動は無くなったと言っていい。

 人を運送する需要が消え去ったことで残ったのは物流のみであのホスニッポですら元々は物を運ぶ商人だ。


 ましてや首都は物資の送られる最終拠点だ。

 荷を下ろし切った商人たちが相乗りする人間を待つ筈もなくまた直ぐに首都を出てしまう。


 つくづくギーセン村の手前でリパッチと出会って果ては馬車の手配までできたのは奇跡に近い事だったのが分かる。


 普段から徒歩での移動が基本である鴉頭はともかく、赤頭巾も鴉頭との行脚は苦痛ではないので改めて二人並んでケルンの町を目指す事になった。


「今までの道に比べたら何倍も整備されてますね」


 首都を後にした二人が道を進むこと数時間。

 景色こそ変わらないものの道の整備具合も変わらない事に赤頭巾は感嘆を漏らした。

 

「【大獣害】が起きる前は人の往来は多かったらしいからな」


 赤頭巾の故郷であるアルスフェルト村とギーセン村の道路は最早ただ木の生えていない隙間みたいなものだったが、首都が近くなるにつれ平坦で整備された道が広がっている。

 それは今の道中でも同じでご丁寧に案内の看板すら立てられていた。


 これはひとえにケルンの町が貴族の本領地である証左だろう。


「お前の村の上納先もケルンの町らしいからな」

「えっ、そうなんですか」

「知らなかったのか……」


 ケルンの町は首都近郊という立地も相まってそれなりに規模が大きい。

 【大獣害】以前は不明だが、少なくとも以降からはアルスフェルト村やギーセン村の管轄も担っていたらしい。

 親族のシプラムがギーセン村に送られたのも監視と管理が容易になるからだろう。


 それらの事実を踏まえるとなおさらケルンの町が滅んだという事実が重くのしかかる。

 規模が大きいという事は人口が多いという事である。

 そして人口が多ければ必然として警備も増える。

 

 その警備を少なくとも十数人抱えていた町が滅ぼされたのだ。

 恐らくだが死者の数は赤頭巾の経験した二つの村を遥かに凌駕しているだろう。


「赤頭巾、そろそろ町に着く。警戒を――」


 鴉頭が横にいる赤頭巾に向かって注意を促したその時だった。


「グルゥオオァァァァァァァァ!!!!」


 道沿いに茂る森林から獣が飛びかかってきた。

 町に足を踏み入れた瞬間に訪れた強襲。

 身体を完全に宙に浮かせて大口を開いた獣がその牙を覗かせ、赤頭巾は瞳に獣を写して呆然とする時の中。

 

 だが、鴉頭は既に迎撃の準備を終えていた。


「伏せろ!」

「ひぇぇ!?」


 獣の牙が鴉頭に到達するその前に、彼の右手に収まった【鋸鉈】が獣の首を両断した。

 慣性に乗って飛んで来た獣の生首を避けた鴉頭は、未だ宙に浮いている獣の身体を蹴り飛ばす。


 頭を失い生首から血を噴き出しながら背後の木に打ち付けられた獣が咄嗟に上体を戻そうとするも、鴉頭の追撃で脊椎を切られると呆気なく身体を灰へと変えた。


「き、奇襲ですか……?」

「……ああ」


 表情にこそ出さなかったが鴉頭は内心で驚いていた。


(俺が獣の奇襲に気付かなかっただと?)


 自惚れとも取れる鴉頭の心中だがそれは決して単なる驕りではない。

 鴉頭を含む狩人は異常な身体能力を誇る。

 例外ではない聴覚も獣の吐息こそ聞き取れないが、木の上に乗る際に出る草木の振動程度なら判別がつく。


 しかし道が綺麗などと宣って無警戒だった頭お花畑の赤頭巾と違って、鴉頭は首都の壁を越えてから一切気を抜いていなかった。

 赤頭巾と会話をしていたとは言え、最低限の警戒を行う狩人の聴覚を欺いた?

 

 いいや違う。

 あの獣はただの雑魚だ。

 鴉頭に感知されなかったにも関わらず大声を上げて攻撃をしたのが良い例である。

 これでは奇襲の意味を為せていない。

 つまりあの獣は鴉頭たちが通るまで()()()()()()という事だ。


 そもそも鴉頭たちが首都から出る前にあの場で止まり続けていたのならば説明がつく。

 そしてそれはあの獣が導き出した作戦ではなく、恐らく他の何かが意図したものだ。


「赤頭巾。俺から離れるなよ」

「は、はいっ」


 決して楽観視していた訳ではないが最早ケルンの町は獣のテリトリーと化していた。

 そしてそこに足を踏み入れた鴉頭たちは敵陣に侵入した排除すべき獲物だという事だ。


 より一層の警戒、もう二度と獣風情に出し抜かれないようにと気を張った鴉頭に対して。


 それから何の襲撃もなく二人は町の中心部に辿り着いてしまった。


「ええっと……誰も居ませんね」

「軽はずみに口を開くな。気が散る」

「……はぃ」


 鴉頭から強めの語気で制されて落ち込む赤頭巾に悪いが、鴉頭の心中は察するに余りあった。

 何故なら警戒を強めた鴉頭たちを嘲笑うかのように最初の奇襲を契機に何の攻撃も無かったからである。

 これの意味する事はつまり奇襲の目的が鴉頭を警戒させる事にあったという事だ。


(随分と小賢しいのが紛れてるな)


 その点ではあの奇襲は成功していると言っていい。

 鴉頭の意識外から奇襲を加え、警戒を最大限に高めたところで攻撃を止める。

 明らかに鴉頭の消耗を狙った作戦。おおよそ知性を失った獣が可能な芸当ではない。


 そして獣害によって壊滅したにも関わらず死体すら存在しないもぬけの殻となったケルンの町並み。

 死体はともかく獣は何処に行ったのか?

 鴉頭の予想では――


「お?本当に来やがったぜ」


 鴉頭たちが町の中心部にある広間に入った瞬間だった。

 その広間の奥にある屋敷、恐らくゴードン家の本宅から浅黒い肌に服の上から筋肉を浮かばせる一人の男が現れた。


「鴉頭さん、あの人」

「あぁ、恐らく」


 鴉頭たちを待っていた様子の男は下卑た笑みを浮かべながら軽い足取りで彼らに近づく。

 ようやくその姿が鮮明に見えてくると赤頭巾はある事に気付いた。

 男の服がべっとりと赤い血に染められていた事に。


「あー、お前が狩人で……隣の肉はなんだ?」

「赤頭巾、家を避けて下がっていろ」

「家に入るのは駄目なんですか?」

「ああ」

「分かりました……!」


 男を無視して赤頭巾に指示を出した鴉頭は血の滴る【鋸鉈】の柄をそっと握る。

 そして赤頭巾が無事に下がったところで男に向き直ると、男は涎を垂らしながら眉間に皺を寄せていた。


「俺、質問したよな?狩人ってのは言葉も通じねぇのか?」

「おい」

「あ?」

「この町を滅ぼしたのはお前か?」


 憤懣やる形なしと言った様子の男を無視して最後通牒を送った鴉頭に、男は口角を千切れんばかりに上げた。


「ああ、そうだ」

「……では、死ね」


 殺意の込めた言葉を吐き出して鴉頭が一歩を踏み出す。

 その時だった。

 

 男がぱんっ、と手を叩いた。

 それは合図だ。ようやく餌が来たと伝える狼煙だった。


「ただし、()()()だがな」


「「「グルオオオオオ!!!」」」


 静寂を貫いていたケルンの町。

 そこに並ぶ民家の壁をぶち壊して十を超える数の獣が現れる。


 奇襲に次ぐ奇襲の中で狩人一人と徒党を組んだ獣どもの戦いの火蓋が切られた。

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