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鴉は少女と肉を喰らう。  作者: 詩徒
第二章 人間回帰への旅
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第十八話 工房

今話はかなり駆け足になっています。ご了承ください。

 余計なひと悶着を終えて情報屋と別れた鴉頭たちは未だべイルムの通りを歩いていた。

 鴉頭の性格からして真っ先にケルンの町に向かうと踏んでいた赤頭巾は、肩透かしのような気分で鴉頭の後を半歩後ろから追従する。

 

 飲食店が並んでいた華やかな大通りを過ぎて行くと、やがて黒煙が空にチラつく煤臭い景色に変わっていく。

 背景にいた通りすがりの人間も煌びやかな貴族から薄汚い平民に様変わりしており、区画まるごと別の場所に訪れたかのようになっていた。


「鴉頭さん、ケルンの町には行かないんですか?」


 いよいよ行く先が分からなくなってきた赤頭巾は不安から鴉頭に尋ねる。

 沈黙を貫いていた鴉頭は赤頭巾を一瞥しながら足を止めず道を進んでいく。


 もしや自分は疑問に思っただけで声に出していなかったのではと赤頭巾が納得してしまいそうなほど見事に彼女を無視した鴉頭だったが、暫くしない内に熱気の残る建物の前で立ち止まった。


「着いたぞ『工房』だ」

「……工房?」


 狩人協会は狩人を支援するために様々な施設を建てており、その最たる例の一つが工房である。

 

 獣と相対する上で必要不可欠なものとは武器の存在だ。

 そして流石に武器を打てる狩人など存在しないので、獣にも通用する武器を手軽に入手する施設として工房が発足することになった。


 もともとは人間同士に扱われる武器を鋳造していた鍛冶師の中でも獣を憎むものや、人間相手では満足の行く武器を造れなかった一部の変態が工房に従事する形になっている。

 その成果は意外にも馬鹿にならず、血液瓶の発明に今や狩人の全般が使用する特殊な武器などは偉大な功績として残っている。


「お前も狩人になったんだ。武器の一つでも持っておけ」

「武器って……私、ナイフぐらいしか使ったことありませんよ?」

「初めは誰でもそうだろ」


 会話を交わしながら工房と呼ばれる施設に足を踏み入れた赤頭巾はその光景に息を吞んだ。


 天井にぶら下がる無数の刃物。奥に構える煌々と光を放つ炉。そしてその前の鍛冶台に居座る無愛想な男性。

 少女が見るには異様な内装の工房に鴉頭が侵入した事に気付いた偉丈夫は唸るような低い声を発した。


「ガキなんざ連れて何をしに来た。鴉頭」

「俺の武器の点検と、こいつに合う武器を見繕ってほしい」


 鋸鉈を無造作に渡された鍛冶師は露骨に嫌そうな表情を作って悪態を付く。


「調整ならともかくガキに武器を打てだと?おままごとに付き合う気は無いぞ」

「これでもれっきとした狩人だ。お前は黙って仕事をこなせ」

「あのぅ、お二人の口喧嘩に併せて私の悪口言うのやめてもらえませんか……」


 何故か早々に言葉の応酬を始めた二人に流れ弾を喰らっていた赤頭巾が仲裁に入った。主に自分の名誉を守るために。

 その甲斐もあってか男二人は会話をやめると鍛冶師が赤頭巾に声を掛けた。


「あー、嬢ちゃんは……戦闘経験なんてあるわけねぇだろうしなぁ」

「は、はい……すみません」

「別に謝る必要はねぇよ。ちょっと待ってな」


 どうやら鴉頭だけに刺々しいらしい鍛治師は落ち込む赤頭巾を見兼ねて励ますと何かの模型を持ってくる。

 それらは剣や槌、鎌などさまざまな武器の形をしていた。


「これは……?」

「素人に武器を聞いても仕方ねぇからな。この模型を渡して俺が適正を見極めるんだよ」


 なるほど、と思いながら赤頭巾が模型に手を伸ばし持ち上げようとするが、一向に模型が机から離れる事はない。


「あ、あれ?お、重いっ……!」


 刀剣から槌に至るまでが赤頭巾の背をゆうに越しており加えて尋常ではない程に重たい。

 獣でありながら人間と変わらない膂力の赤頭巾に持ち上げられる筈がなかった。


「こりゃ参ったな」

「包丁ぐらいの大きさの物は無いのか?」

「包丁って……料理するんじゃあるめぇし」


 飽くまで日常使いする刃物ではないのだ。

 現に鴉頭の鋸鉈には拭いきれない血の跡が残っているし所々は錆びてしまっている。


 しかし工房の抱えている既存の武器が赤頭巾に扱えそうにないのは火を見るよりも明らかだ。

 どうすべきかを悩む鍛冶師に赤頭巾は頭を下げる。そしてそれが決め手となった。


「その……お願いします」

「はぁ、仕方ねぇか。分かった。そこで座って待ってろ」


 赤頭巾の懇願も相まって断りきれなかった鍛治師は渋々ながらも了承すると金槌を持って鍛治台へ向かった。

 手持ち無沙汰になった鴉頭と赤頭巾は並んで備え付けの椅子に座る。


 燃える炉に燃料を更に加えた鍛治師は何処からか持ってきた黒い鉄の延べ棒を焚べた。


「黒い鉄……?」

「あぁ、特殊隕鉄だな」


 特殊隕鉄とは、今から十数年前に発見された謎の金属の事だ。

 これら鋼と同等の硬度を持ち、狩人の武器にも使われているのだがそれ以上の特徴を有していた。

 

 それは次元干渉能力の無効化である。

 特殊隕鉄は獣と狩人が持つ特異な能力を乱し、その対象に唯一含まれない。

 この効力は対獣戦で大いなアドバンテージとなるため、今となっては用いられない武器は無いほどである。


 ただしこの星に元からあった金属では無いため非常に希少価値が高く世界連合政府の管理下にあるので、一般人が手にする事は殆どない。

 また大変高価であり延べ棒一つで金貨十枚は下らないほどである。


 鴉頭が特殊隕鉄について話して数時間後。


「終わったぞ」

「ありがとうございます!」


 疲弊を隠せない鍛治師から包丁を受け取った赤頭巾はぺこりと頭を下げた。

 市販の物よりも少し重い包丁を鞘に入れて腰に装備した赤頭巾をよそ目に鴉頭も鋸鉈を受け取る。


「お前はもう少し丁寧に扱え」

「使える時に使ってるだけだ」


 錆も血の染みも消え去り、研がれた事で切れ味を増した鋸鉈を鴉頭も同じく腰に装備する。


「それじゃあな」

「おう。死ぬなよ」

「失礼しました」


 工房でやるべき事を終えた鴉頭たちは鍛治師に見送られながら施設を出る。


 これで準備は全て終わった。

 向かう先はケルンの町である。

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