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鴉は少女と肉を喰らう。  作者: 詩徒
第二章 人間回帰への旅
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第十七話 情報屋と深まる謎

「欲しい情報もクソもあるか。さっさと進捗を教えろ」

「やだなぁ焦っちゃって。あ、私には紅茶とフルーツタルトお願いね」

「フルーツタルト……おいしそう」

「はぁぁ……」


 アンゲルと名乗った黒い髪に小汚いローブを羽織った猫のような縦長の瞳孔が目立つ女性は、鴉頭の苛立たし気な声を華麗にスルーして通りがかったウエイトレスに注文を頼む。

 相変わらず話を聞かない情報屋と、ついでに新たな菓子の存在に目を輝かせる赤頭巾に鴉頭は深いため息を吐いた。


「まぁそんなに怒んないでよ。私も驚いてるんだ。久々にあったお得意先が幼女と一緒にケーキ食べてるんだからさ」

「あ、私は鴉頭さんに」

「おい、こいつの前で迂闊に口を開くな。盗まれるぞ」


 情報屋と初対面の赤頭巾は自己紹介もかねて鴉頭との出会いを話そうとしたところで鴉頭に制される。

 自称得意先の取引相手にも警戒を隠さない鴉頭にアンゲルは目を細めて、愉快そうに笑った。


「盗むなんて人聞きが悪い……傷ついちゃったな。くすん」

「チッ」


 手を眦に当てて大袈裟な泣き真似をする情報屋に鴉頭は鬱陶しそうに舌打ちをする。

 不機嫌な鴉頭を見てオロオロと心配そうに目配せをする赤頭巾をよそに、情報屋はあっけらかんとした表情で話を続けた。


「ま、冗談は置いといて。特ダネを持ってきたよ」

「特ダネ?珍しい表現だな」


 情報屋の妙な言葉遣いは今に始まった事ではないが、自身の持つ情報の価値を左右する物言いは珍しい。

 不機嫌より興味がの方が勝った様子の鴉頭を見て、情報屋はニンマリとご満悦な表情になって饒舌に語り始めた。


「四日前ぐらいに首都近郊のケルンの町が獣害で全滅。生き残りはナシ。どう?旨い情報でしょ?」

「生き残り無し?鐘鳴らしは?」

「だから全滅だってば」


 念押しに尋ねてくる鴉頭に呆れ気味の情報屋だったが本来鐘鳴らしが獣害で死亡する事は滅多に無い。

 鐘鳴らしとは世界連合政府が各地に配置した目であり、耳であり、欠かせない要なのだ。

 その為戦闘能力自体は皆無に等しいがおいそれと獣に殺されるほど馬鹿でもない。

 その鐘鳴らしごと、町一つが滅んだ。

 特ダネどころの騒ぎではない。由々しき事態だ。


「次の目的地が決まったな」

「毎度あり〜」


 鴉頭の次の獲物がケルンの町に決まったという事は、つまり情報屋の売り込みが成功したという事である。

 鴉頭は金払いが良い。情報屋も命懸けで調査した甲斐があったというものだ。


「……実はお前に調べて欲しい事がある」

「なんだよ改まって。さては私の好きな異性のタイプが知りたいのかな?残念だけどそれは企業ひみ」

「獣化した人間を元に戻す方法が知りたい」


 鴉頭がそう言った瞬間、情報屋の時が止まった。

 つい先ほどまで陽気に鴉頭を揶揄っていた情報屋は無表情を顔に貼り付けて縦長の瞳孔を狭窄させる。


「あっはははははははははははは!!」

 

 感情を読み取れない情報屋は長い沈黙を終えると、手を叩いて爆笑し出した。

 捩れる腹を抑えて涙を拭う仕草をする情報屋に、赤頭巾は驚き鴉頭は冷静に見つめている。


「いやぁ、なかなか面白い冗談だったよ。……取引相手が君じゃなかったら金輪際関わらない程度にね」


 そこで赤頭巾は初めて軽薄そうな情報屋アンゲルの素を垣間見る。

 あの無表情、そしてわざとらしい笑顔。どれも心中の怒りを隠すための行動だった。

 そう、彼女は激怒しているのだ。

 情報屋(わたし)を舐めているのか、と。


 だが鴉頭という狩人が他者の感情によって行動を変えないことも理解していた。


「冗談ではない」

「だったら笑えないなぁ。獣を人間に戻す?そんなのは世界中の人間が初めに求めて、もう諦めた希望だよ」


 【大獣害】のあと獣という存在が人間のなれ果てだと判明して全ての人類が追い求めたものは、獣を人間に戻す方法だった。

 だがそもそも何故人間のみが獣に変異するのか?

 病なのか、それとも人為的なものなのか、それらが判明することは無く、故に獣を人間に戻す方法も解明される事は無かった。


 だからこそ不可逆の暴走を止めるために狩人と呼ばれる存在が許容されているのだ。

 狩人は人を殺している訳ではない。

 もう人ではない獣を殺しているだけだと。


 そう考えなければ殺された獣たちがあまりに哀れだろう。人間に戻る可能性を孕んでおきながら殺された者たちが。

 ましてやその獣を手にかけた狩人が、獣を人間に戻したかったなどと思うのは傲慢に過ぎている。


「戻す必要が……違うな。俺が人間に戻したいから知りたい」

「それが急にちびっ子ちゃんを連れ回し出した理由?」

「さぁな」


 露骨にはぐらかしている時点で答えを言っているようなものだが、その曖昧な言い方は最も情報屋に効いていた。

 例え赤い頭巾の少女が獣だろうと情報屋に核心的な情報はない。

 この場で強引に確認することは……目の前の狩人が許さないだろう。


「わーったよ。私の負けだ」

「報酬は弾む」

「それはあたまえ。大体、獣を人間に戻す方法なんて連合政府に流せば世界の救世主になって億万長者になってるよ」

「間違いない。だが何も独占したい訳じゃない。優先的に流してくれるだけでいい」


 狩人の最終目的は獣の根絶。

 獣が人間に戻れるようになることは鴉頭にとっても願ってもない事だ。


「でもその手の話なら私よりも適任がいるよ」

「俺はお前より優秀な情報屋は知らない」

「にゃはは、いきなり口説くなよ。公然猥褻罪で訴えるぞ~?」

「なんでだよ……」


 口説いたつもりも、なんなら褒めたつもりも無かった鴉頭は完全なとばっちりを画策する情報屋を半目で睨む。

 職業柄ポーカーフェイスを崩さなかった情報屋はゲフンとせき込んだ。


「兎に角、獣に関してなら専門家がいる。君だって心当たりがあるんじゃないの?」

「いや、無いが」

「ランカーⅣだよ」

「……あいつか」


 情報屋の言葉に鴉頭は仮面の下の顔を嫌悪に変えた。

 鴉頭の反応も気になるが何よりもランカーという単語に蚊帳の外にいた赤頭巾は興味を引かれ声を上げた。


「ごめんなさい。ランカーⅣというのは……?」

「あり、協会で教えて貰わなかった?」

「教えて貰う前に鴉頭さんが」

「な~るほど」


 赤頭巾の話を聞いた情報屋は口の端を邪悪に歪める。

 まるで悪戯を思いついた子供のように笑うと鴉頭を見ながら彼にも聞こえるような声で赤頭巾に耳打ちをした。


「そっか~。教えてくれなかったんだ~。ひどいな~」

「うるさい」

「フフフ、じゃあ特別にタダで教えてあげようちびっ子ちゃん」

「あ、ありがとうございます……?」


 赤頭巾の肩に手を回した情報屋は上機嫌で話し始めた。


「ランカーⅣってのは獣の討伐数じゃなくて協会への貢献度だけで上位ランカーになった天才だよ」

「貢献……?」

「特殊隕鉄の発見から運用、次元干渉能力に関する研究とか」


 ランカーⅣ、つまり上から四番目に数えられる狩人がほぼ知識のみで成り上がったのだから驚きなのだと情報屋は語る。


「ま、上位ランカーってのはどれもこれもイロモノ揃いだけどね。骨だったりバケツだったり……鳥だったり?」

「え?」

「ね、ランカーⅨさん?」


 ニヤけ面で視線を移した情報屋の瞳には今すぐにでも帰りたそうに珈琲を啜る鴉頭が写っていた。

 

「ランカー、Ⅸってことは……」

「鴉頭は九番目に強いってことだね」

「ランクと強さは関係ないだろ」

「にゃは、気にしてら」

 

 情報屋は嘲笑っていたが赤頭巾の方はショックに近い感情が渦巻いていた。

 赤頭巾にとって鴉頭とは初めて出会った狩人であり、最強であり、救世主である……彼女の英雄だ。

 そんな彼が狩人の中で九番目という事実は余りにも衝撃だったのである。


「私が上位ランカーになるのは不可能なんじゃ……」

「まぁまぁ努力あるのみだよちびっ子ちゃん」

 

 あの受付の女性は随分朗らかな笑顔で途方もない目標を薦めてきたという事である。

 知りたくなかった事実をまた一つ海馬に刻んだ赤頭巾は情報屋に頭を撫でられながら遠くを見つめていた。

 

「ランカーⅣの所在については?」

「知らない。ほらあの狩人、五番目と仲悪いから。ずっと移動してるみたいなんだよ」

「なら探してくれ」


 それだけ吐き捨てると鴉頭は席を立つ。

 相変わらず動くと決めたら他人の都合を考えない狩人だ。鴉頭は自由な狩人なのである。


「次に落ち合う場所は?」

「折角ケルンの町に立ち寄るからな。……フラウニースに向かうつもりだ」

「じゃあ首都のアーバリで」

「ああ。それで頼む」


 次の予定地を決めた情報屋は鴉頭に倣って立ち上がる。

 赤頭巾も置いて行かれないようにと腰を上げた瞬間、情報屋は入れ替わるように座ってしまった。


「アンゲルさん?」

「まだタルト食べてなかったや!」


 赤頭巾に名前を呼ばれた情報屋はテーブルの上に取り残されたタルトを指差す。

 仮面の下の表情を呆れに変えた鴉頭だったがまだ聞くことがあったと思い出して上半身だけで振り返り、タルトにフォークを突き刺す情報屋に声を掛けた。


「もう一ついいか?」

「ん?()いよ」

「シプラムという貴族に聞き覚えは?」


 咀嚼を終えて紅茶を呷る動作をたっぷり数秒使って、無駄を厭う鴉頭を焦らした情報屋は口に手を当てると削られたタルトにフォークを刺した。


「おい」

「ごめんって。ただどっかで聞いたような……特徴とかない?」

「最近左遷された若い貴族だ」

「あ!それってゴードン家の……待てよ」


 鴉頭の言った備考が決め手になったのか、シプラムの家元の貴族に目星が付いたらしい情報屋は持っていたフォークすら置いて考え込んでしまった。

 唸っていた情報屋だったが思考の整理を終えて鴉頭を真っ直ぐ見つめる。


「その貴族の話は何処で?」

「首都に来る一週間前に立ち寄った村の獣害に関与していた」

「……そのシプラムって奴の家名はゴードン。そんで、ゴードン家の本領地は()()()()()だ」

「え?ケルンの町って……」


 そう、ケルンの町は既に滅んでいる。

 これの示すところはつまり、獣となったメイドと共に息子を田舎に飛ばした貴族の本家が後を追うように獣害に遭ったという事だ。


「先を越されたな」

「偶然にしちゃ、出来過ぎだよねぇ」


 鴉頭の予想通りやはり裏で誰かが糸を引いているのは間違いないらしい。

 問題なのはシプラムの親元が黒幕では無かったという点だ。若しくはゴードン家が何かしらの目的で組んでいた獣と仲違いをしたか。

 どちらにせよ、ケルンの町に向かう理由が増える事になった。


「この件は俺で片付ける。お前は予定通りランカーⅣを追ってくれ」

「りょーかい」

 

 漸く情報のすり合わせを完了した鴉頭が赤頭巾を伴ってカフェを後にしようとしたその時だった。


「あっ!待って鴉頭!」

「どうした」

「今お金持ってないからスイーツ奢って♡」

「……チッ」


 似たようなやり取りを繰り返す二人を見て羨ましいなどと些かズレた事を赤頭巾は思うのであった。

狩人のランクってそれハン○ーランクなんじゃ……というツッコミは無しでお願いします。

補足ですがランクにローマ数字を使う理由はカッコイイからです。特に綿密な設定とかはないです。

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