リプレイ08 ヒ~ラ~のツラいところ(語り部:JUN)
精神ダメージの数値と、発狂結果が出た。
僕はスマホの画面に目線を滑らせて、瞬時に状況を判断しなければならない。
回復役のツラいところだよ。
HARUTOとMALIAが、短期(1~3時間程度の)精神疾患を喰らった。
HARUTOの症状は【マシンガントーク癖】
MALIAは【人間不信】だ。
もちろん、この間に処置室のキットをかっぱらう事は忘れてなかった。
さて。
これらは勿論、彼らの本心ではない。
VRで無理やりこじつけられた、症状だ。
つまり、額面通りに推理しきれない所はあるが……危険なのはMALIAのほうかな?
「えー、MALIAさーん? 僕の声がわかりますか? 今すぐ【精神科医】スキルを使ーー」
「っ……!」
彼女が、僕のアゴめがけて殺す気満々な掌底を繰り出してきて、これを辛くも回避した。
「なにすんだよ!?」
「JUNさんこそ!?」
……なーるほど。
僕は、そして僕のリアクションを見た彼女も恐らく、状況を大方理解した顔をした。
VR人間不信、か。
視界が「全ての他人が自分に襲いかかってくる」と言う、フェイク映像にでもすり替えられてるってとこだろうか。
彼女は人間不信になるようなタマじゃないってのは、HARUTO達の紹介や、この短い付き合いでわかったつもりだ。
だが、理屈の上で全然他人を疑っていなくとも、現実同然のビジョンに襲われたら……ましてこんな敵地の只中じゃ、わかっていても全てに対処しなければならない。
あまつさえ彼女は、ファンタジーゲームの前衛を五年も経験していたと言う。有事の際、理屈よりも反射神経が優勢になりやすい人種だ。
今も、どうにか自分を抑えようとしつつも、キレッキレな動きで僕を撲殺しようとしてくる。
あのすらりとした脚に似合わない、野太い烈風を伴ったハイキックが、あわや僕の首を刈りそうになった。
返す脚で、脳天目掛けての踵落とし。ジェイソンの斧じみた威力だ、大体避けられたけどちょっと上腕を掠めて痛い。
いや、本当に仕方なくやってるヒトの動きか、コレ!?
HARUTOが助けに入ってくれた。
「……MALIAよ我々に任せろ君が今非常に自制困難な感覚に見舞われて居る事は百も承知であるから我々の君への心証が損なわれる事は無いと思って頂きたい可能であれば今すぐJUNの【精神科医】を受けて欲しいのだが無理強いはしない安心しろ共に良い方法を探そう協力は惜しまない」
当然彼女は、僕より遥かに厄介な彼へと矛先を変えた。
ーー即断即決。
僕は、処置室からついでにガメていた、注射タイプの精神鎮圧薬を彼女にブッ刺した。
彼女はたちまち脱力し、その場にへたりこんだ。
そして意識が落ちたようだ。
軽微なVR発狂の持続時間は最大でも三時間。
それが終わるまで、眠り姫さまでいてもらおう。
「どうしました? 一体何が?」
一見して冷静だけど、あからさまに剣呑な気配をにじませたキャストがやってきた。
「……我々は、我々はっ! 何も悪くない仲間の具合が悪くなったから診て貰いに来たら突然名状し難い奇声を発しつつ襲われたんだ我々が何をしたと言うのだ眩暈がするから診てくれと言っただけだぞそれを急に警棒持って殴り掛かって来てそれ所かそこの女はナイフまで取り出したそもそももう一人のその看護士は一体全体何なんだ胴体が胴体が人間の胴体があんな風に伸びて良い筈が無いこれは夢だこれは夢だこれは夢だここは夢の国なんだ」
さっすが、我らがリーダー様々。
VR発狂を逆手に取っての被害者ヅラだよ。
「わかった、わかったから! とりあえず一緒に来て貰ーー」
「それは困る何故なら我々が秘密裏に葬り去られるのは自分の本意では無いからだ従って君にはここで消えて貰う死に方を選ばせてやれなくて済まないでも窒息死なら曖昧模糊な中で苦しまずに逝けると思うから本当に申し訳無い君の冥福を祈る」
……って言いながら新手のキャストの首を絞めてるよこのヒト。
流石の長口上で疲れたらしく、息継ぎをしたんだけど、その頃にはもうキャストは死んでいた。
あーあ、結局こうなるのか。
さて、僕らはうまく人混みに紛れてバックレるとしますか。
で。
四人全員かなりの正気度を削られてさ。
あまつさえ二人もVR発狂しちゃったのって……どう考えても“コイツ”のせいじゃないの?
生体イタズラ。
まあ、狙える部位がランダムにしても、人間相手にはそりゃ絶大な攻撃ではあるよ?
でも、パーティの仲間すら狂気に巻き込むリスクとは釣り合わないよね。
結局、乱暴な要約をするなら「一人ぶっ殺すだけ」なんだから。
それじゃ、ブロックとかバットで叩き殺した方がよほどエコで、大差ない結果が出せるよ。
ま、判断が甘いのは若いってのもあるんだろうけど?
それを差し引いても、だよ。
やらかした当人は何のペナルティもなく、二人が発狂してもぼさっと棒立ち。
何かしなきゃって、ポーズだけ。
ーー気づいてないとでも、思ってんのかな。
別に僕らを巻き込んだのは、純粋な浅慮からで敵意はないのだろう。
それより、敵であったキャスト達に対する“目付き”だよ。
コイツ、どこかイキってるわ。
率直に言わせてくれ。
僕はMAOが嫌いだ。
義務教育終われば、まして、VR勢として“仕事”してんだからさ。
お前も立派な大人だろうよ。