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リプレイ03 とある発狂システムについて(語り部:MALIA)

 はじめましての方は、はじめまして。

 “HEAVEN&EDEN”のプレイを見てくださった方は、おひさしぶりです。

https://kakuyomu.jp/works/16817330652568484264

 わたしはMALIA(マリア)と申します。

 HARUTO(ハルト)さんやLUNA(ルナ)さんとは、前にプレイしていたゲームからのお付き合いです。

 

 実のところ、前にプレイしていた“HEAVEN&EDEN”を去る時に、このゲームに移住することをHARUTO(ハルト)さんに提案したのは、わたしだったりします。

 彼にはこのゲームのプレイ経験があるらしく、なんと、あのクトゥルフと戦ってやっつけたことがあるそうなんです。

 もちろん、一人や二人ではムリです。

 その“時代(サーバー)”のプレイヤーがほぼ総出で挑んだ、まさしく世界大戦の様相だったそうです。

 ちなみに、やっつけたクトゥルフはアヒージョとかカルパッチョにして、みんなで食べたそうです。

 わたしも“妖神グルメ”という小説は読んだことがありますが、リアルにそんなことをする人がいるなんて、おどろきでした。

 リアルに、といってもVRゲームの話ではあるのですが。

 とにかく、その話を聞いて俄然クトゥルフものに興味のわいたわたしは、先の提案をした次第です。

 そしてHARUTO(ハルト)さんは、わたしと出会う前に知り合っていたゲームの仲間を一人誘い、そこからさらに、このゲームでパーティを募集していたMAO(マオ)さんが加わり、今に至ります。

 

 さて、わたしたちは今、千葉にあるラヴクラフトリゾートに向かって移動している最中です。

 この間に、LUNA(ルナ)さんたちが説明しそびれたゲームの仕様について、補足させていただきます。

 先ほど、HARUTO(ハルト)さんが何度か「正気を削られる」というようなことを言っていたのは覚えていますか?

 クトゥルフものでは、戦って横死する以外にもーーいえ、むしろ直接死ぬよりも多いくらいにーー発狂・廃人という結末がつきものです。

 重ね重ねいいますが、これはあくまでも“ゲーム”です。

 どんな邪神や宇宙的恐怖と対面して、筆舌につくしがたいヒドい目にあったとしても、それはVRでしかありませんから、現実の肉体には何の影響もありません。

 とはいえ、それではクトゥルフもののVRゲームを全否定することになります。

 だから。

 ゲーム内でクトゥルフ神話的な恐怖に遭遇した場合、その心的外傷を「無理矢理VRで体感させられる」のです。

 極端なたとえ話をします。

 雑な布切れをかぶった人が「おばけだぞ~」と言って立ちふさがったとして、あなたはどう感じるでしょうか?

 まあ「ふーん」としか言いようがないでしょう。

 けれど、ゲームのイベントとして「おばけに恐怖を感じて発狂した」と判定された時。

 おばけが耳元でささやくような幻聴だとか、おばけが常にまとわりつくような幻覚を、強制的に体感させられるというわけです。

 ほら、あのHARUTO(ハルト)さんが、ちょうどいいモデルになってくれるはずです。

 彼自身はもはや、クトゥルフとガチンコしても動じない鉄のメンタルを誇っています。

 けれど、またクトゥルフと対面して《《アバターの》》正気度が一定数減ると、本人はいたって平気なのに「精神的ショックによる幻覚や幻聴」を見せられるのです。

 大抵、どんなVRMMOゲームでも、大悪魔に遭遇しただとか、敵に負けて戦死したりとかの経験がトラウマになってしまうことはめずらしくありません。

 それによってどんな精神疾患をわずらったとしても、メーカーや運営の責任を一切負わないという誓約書はプレイ前に必ず書かされます。

 そしてこのゲームは、誓約書の文面が他のゲームよりも圧倒的に念入りなものとなっています。

 能動的に精神疾患を体験させてくるようなゲームですから。

 それだけ“中の人”にとって危険なゲームだということです。

 

 さて。

 具体的に、どのようにしてVR発狂の判定がくだされるのか、という話に移ります。

 これは、原型となったクトゥルフTRPGとだいたい似通っています。

 プレイヤーひとりひとりに“正気度”というステータスが設定されており、ゲーム中に“精神的ダメージ”を受けるたびに、その被害に応じて数値が減ります。

 ご推察の通り、0になると完全に発狂、あるいは自我が壊れてしまって、二度と元には戻らなくなります。

 つまり、ゲームオーバーです。

 また、この正気度が一度に5ポイント以上減った時“閃き判定”というものが行われます。

 これはなにかというと「狂気に襲われたさい、世界の真理の片鱗に気づいてしまうかどうか」という判定を意味します。

 またまた、つたないたとえ話をさせてもらいます。

 もしも、アリさんが、わたしたち人間の存在を正しく理解してしまったら、どう思うでしょうか?

 ……それ以降、いつ踏みつぶされたり、子供が巣穴に水を流し込むかわからない恐怖を、四六時中感じながら生きなければならなくなります。

 たとえば、クトゥルフ神話のアザトース。

 わたしたちが生きるこの世界は、このアザトースという神さまの見ている夢にすぎない、という説もあります。

 つまり、アザトースが起きてしまったら……わたしたちも消えてしまう。

 仮にそれが真実であり、なおかつ、それを正しく理解できてしまったとしたら。

 アザトースが目覚めるのは、いつなのか? 明日なのか? 百年後なのか?

 誰ひとり、まず正気をたもてないでしょう。

 たとえ話が長くなりましたが、とにかく閃き判定とは「アバターが、世界の真理に気づいてしまうかどうか」の判定ということです。

 つまり。

 頭がいいひとほど、閃きに成功しやすい=発狂リスクが高いということです。

 その“頭のよさ”を示すステータス【INT】ですが、プレイヤーひとりひとりのそれが、運営AIに決められています。

 たぶん、このゲームに入ってからの言動はもちろん、他のゲームでの行動や発言のログ、ともすれば生まれてから義務教育を終えるまでの一挙手一投足なんかも参照されているのでしょう。

 皆さんも、SNSとかで自分の好きそうなコンテンツとか紹介されてぎょっとした経験はありませんか?

 正気度も同様で、精神力の強さを運営AIの評価にもとづいて設定されているようです。

 わたしたちパーティメンバーの正気度とINTは以下の通りです。


 HARUTO 正気度:85 INT:17

 LUNA  正気度:55 INT:9

 MALIA 正気度:80 INT:18

 JUN  正気度:75 INT:12

 MAO  正気度:60 INT:8

 

 正気度の上限は理論上99で、INTは20が最大です。

 プレイ開始当初、LUNA(ルナ)さんはこの判定にたいへん落ち込んでいましたが……。

 まあ、所詮は機械的に貼られた一方的なレッテルですので、信じすぎないほうがいいと思います。

 人の知性がたった20ぽっちで測れるはずがないですもの。

 それに、原型となったクトゥルフTRPGには、知性のステータスと教養のステータスは分けられていました。

 教養ステータスの存在しない仕様がLUNA(ルナ)さんにとっては不利にはたらいた、というのがわたしの見解です。

 わたしやLUNA(ルナ)さんがひとつ前にプレイしていたゲームでは、魔法や必殺技が各々自由に作れるシステムでした。

 彼女はとても複雑な大魔法を自在としていて、“死蒼天(しそうてん)のカーネイジ・シュテルン”とか“虚偽のニブルヘイム”とか“|至高にして無限の体現たる宝石インフィニティ・クライノート”とかを自作したほどのインテリジェンスを持っているのです。

 あのゲームでスキルを自作するというのは機械言語(スクリプト)を書く、ということなのですが、少なくともその記述を読んだわたしには、何がなんだか、ちんぷんかんぷんな程に難しい文面でした。

 一方で、このゲームでいうINT(知性)は、そうした“左脳的な強さ”を正当に評価していません。

 とにかく、具体的な計算式として閃き判定はINT×5の判定となります。

 つまりHARUTO(ハルト)さんであれば、閃き判定に見舞われた時点でゆうに85パーセントの確率で発狂させられ、LUNA(ルナ)さんであれば、それが45パーセントで済みます。

 もちろん、このINT、および閃き判定は宇宙的恐怖だけでなく、ゲームクリアのためのヒントをもらえるかどうかの判定にも使われるので、まさに一長一短です。

 またさらに、ダメ押しなのですが。

 正気度が一時間以内に現在値の20パーセント以上減少した場合、重症と見なされて閃き判定も無く無条件でVR狂気が発症します。

 しかも、発症の候補となる病名の種類も倍増して、より重篤な症状に罹る危険が出てきます。

 とにかく、このへんの発狂まわりのことは、これから実際のプレイを見ていただくのが一番早いことでしょう。

 

 あと、これはVRゲームですから、アバターが亡くなったり廃人となっても、プレイヤー自身は生きています。

 これらの“ゲームオーバー”を迎えた場合、アバターを新たに作り直してパーティに再加入するのがセオリーだそうです。

 ……もうイヤになって、そのままフェードアウトするケースもそれなりにあるそうですが。

 

 今、わたしから言えるのはこれくらいでしょうか。

 電車にのっていたわたしたちは、舞浜駅を経て、いよいよラヴクラフト・リゾートラインへと到着したのです。

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