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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

元・殺戮ロボがメイドロボになって子育てをするまで

作者: ヒロモト


朝の充電を終えた私はメガネをかけて日常になっている朝の散歩に出掛けた。今日はスクラップ置き場に行こう。

この星には人間を食べる巨大昆虫や人を襲う元人間の化け物が溢れているが私には関係ない。

私はメイドロボ『リイン』。

今でこそパーツを変えて普通の人間とさほど変わらない身体能力だが何年か前まで『殺戮ロボSSSシリーズ』として戦争に参加していた。


「ここに来ると懐かしいという感情があるような気がします」


このスクラップ置き場は博士との出会いの場所。

長い戦争は終わり。その戦争で傷つき、スクラップになった私はここに捨てられた。兵器はもういらない時代になったのだ。

私の体のパーツは少しは金になるらしく人間達は私からパーツを取り外しバラバラにして持ち去った。私は頭だけになってしまった。

そこで博士と私は初めて出会った。

人間が人間を信じずどれだけ自分だけが得をするかというこの時代。

博士はある意味異常だった。


『なんや君。ステゴザウルスかいな!』


博士は頭だけの私を研究所に持ち帰り、博士の『宝物』であるクリアー・メタルを使い私に新しい肉体を作ってくれた。

ステゴザウルス。が『捨て子』と古代生物をかけたダジャレという高度な言葉遊びだったのは後から博士に教えてもらった。


博士に訊ねた事がある。


「なぜ私を助けたのですか?」


『そりゃ君。人が困ってたら助けるのが人っちゅーもんや』


博士は何も考えずにそう言ったのだろうが『兵器・機械』として扱われてきた私は初めて『人』と呼ばれたのが『嬉しかったような気』がしたので私は彼のメイドとして生きることを決めた。


博士はシティーの住人から『メガネのおっさん』と呼ばれていた。

顔も性格も印象が薄く。『メガネ』しか個性がない事が原因だったと推測する。

博士は格安。時に無料で機械修理や医者をしていた。

博士を利用しようとする市民ではなく金を持っている裏の人間や王族と仕事をしていればもっと裕福な暮らしが出来ていただろう。


『しゃあないで。恵まれた人間は楽をする。恵まれてない人間は苦労する。当たり前やな。俺は苦労してる人間を助ける方がおもろいねん。人生楽しんだもん勝ちやで』 


そんな博士だから生命活動の限界を迎えるのも早かった。

博士は何日も何週間も何ヵ月もベッドから起き上がれなくなっていた。


『……リイン。遺言聞いてなぁ?』


「はい」


『俺の死体は燃やして灰にして海にでも流してくれや』


「お断りします」


『お?なんや?お前初めて俺に逆らったのう?』


「い……いえ。承諾しました」


私はなぜか博士が死んだら博士が腐ろうが干からびようが側にいたいと思っていた。

エラーだったのだろうか?私は博士の命令を聞くことにした。私は彼のメイドロボなのだから。


『ほんで俺の物はぜーんぶみんなにくれてやれ』


「……はい」


これも返事をするのに間を空けてしまった。

博士に関わる物を全て失う事に強い理不尽を感じたのだ。


『ありがとうなぁ。お前は最高の娘やで』


「私が……あなたの娘ですか?」


娘。親子というのは『血の繋がり』があって初めて成り立つもので私には血の一滴も流れていないのでそれはおかしいと素直に博士に告げた。


『アホやなぁ。ここやここ』


博士は自分の胸を叩いた。


『心が繋がってりゃ親子やで!』


「私には心もありません」


『ないって事はない。お前は優しい子や。感情をまだ理解してないだけや。何千何万とロボを見てきた俺が言うんやから本当や。うっ……悪いなリイン。俺はもう限界や。多分俺がいなくなったらお前は『寂しい』って気持ちを知る事になる。『怒り』もかな?その感情は長い目でみれば悪いもんちゃうよ?ふぅ。……ほなな』


「……博士。人生。お疲れさまでした」


『サンキュー&アイラブユーやでぇ……』


何百とロボを破壊し、何万と人の命を奪った私が初めて死という物を意識した。





博士のいう通り『寂しい』と思われる感情は毎日毎日長時間私を襲った。

博士を燃やした日。博士の灰を海に撒いた時の事を何度も思い出す。

毎日博士との思い出の地を歩き、何もなくなった家に帰り充電して休む。

『怒り』という感情はまだ分からないがいつか分かるのだろう。博士の言うことに間違いがあると思えない。

今日もいつもと変わらない日になる……ハズだった。


「あわー!」


スクラップ置き場の奥で人間の子供が大男につまみ上げられている。

あの男……大分改造している。体の半分は機械だろう。

私はとりあえず男を止めた。


「るせえ!こいつは俺が先に見つけたんだ!へっ!子供の内蔵は高く売れるぜ!」


三度拒否されたらこの場を去ろうと思っていたら二度目で男は私の頬を叩いた。

その衝撃でメガネが地面に落ちた。

……このメガネは博士の唯一の遺品である。

どうしてもこのメガネだけは捨てることも譲ることも出来なかった。


「……殺すぞ!」


「ひいいいっ!」


博士。あなたのいう通りです。これが『怒り』ですか?博士。黙っていましたが、私の目も兵器なんですよ。

私の目からでたレーザーが鉄板を溶かすのを見て男は逃げていきました。


「お姉ちゃん……かな?ありがとう」


不思議な子だ。あの光景を見て逃げ出さないなんて。私が恐ろしくないる

ああなるほど。網膜から推理するにこの子は目がほとんど見えていないのか。


「なぜこんな危険な場所に子供のあなたが?」


「うーん。わからないや。お父さんにここで待ってなさいって言われて。もう2日経つけどお迎え来ないんだ」


ああ。


「つまりあなたはステゴザウルスという事ですね」


「……すてご?」


少年。『フェイ』は物分かりのいい少年であなたは捨てられた。という事を説明しても泣いたりはしませんでした。

自分でも何となく分かっていたのでしょう。

頭は良いのか悪いのか?私が「私はロボットです」と言っても信じません。 


「まあいいです。私の家に来なさい。育てます」


「なんでそんなに優しくしてくれるの?」


「そりゃ君。人が困ってたら助けるのが人っちゅーもんや……です」


「???」


博士のメガネをフェイにかけさせてあげるとフェイは『はじめてこんなによく見える』と喜んだ。

私はあの日博士が私にしてくれた事をフェイにしていました。

損得無しで自分の意思で宝物をあげて人を助ける。

誰にインプットされた訳でも博士に命令された訳でもない。

今日。私は本当に博士の娘になれたような気がした。


「お姉ちゃんはやっぱりロボットじゃないよ」


「なぜ?」


「だって笑ってるもの」


理解しました。これが嬉しいという感情ですね?博士。








 








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― 新着の感想 ―
[一言] 素敵な話をありがとうございました!
[良い点] いい話だ…… [一言] ごちそうさま。 とてもあったかくて、おいしかったです。
[一言]  ありがとう。 そう言いたく、私は貴方に感謝する。  ありがとう!
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