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魔を従える少年  作者: ミルク星人
原初の悪魔
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5話 決断

5話 決断


  聖光歴1297年  

 「ス―………、スピーー……」

アルスロットが寝たことを確認したインバは憂鬱な思いでシジンの下に向かった。睡眠薬を作って持って行くだけだが、インバの行為は人殺しに加担しているようなもの。

本心では今すぐにでもやめたいが、かつてはミリオネーラのために、そして今はアルスロットのために死ぬわけにはいかなかった。  

だが本当にそうだろうか? 他人のためにという言い訳をして、醜く生きながらえているだけではないかと心の中で反芻していた。村中から後ろ指を指される覚悟はできているが、死ぬ覚悟はできていない。

この年まで生きたインバにとっても死は、なおも恐ろしく感じていた。

そうこう考えているうちにインバはシジンのアジトに辿り着く。


「インバ!お前の薬のおかげで生贄を王都に運ぶのが楽でよー。いつも感謝してるぜ~、ぶっはっははー」


 奴の笑った顔を見ていると虫唾が走る。そしてそんな奴に協力する自分に腹立たしさを覚える。

怒りで頭がどうにかなりそうなインバだったが、ふと彼の後ろに横たわっている男の死体に目が行く。

あの死体は……去年出産に立ち会ったドームではないか?

一体なぜ死んでいる?ついこの前まで、苦しい生活の中でも元気に暮らしていた。新しく授かった子どもと仲よく暮らしていたのに……

そんな呆然としたインバの様子を見たシジンは、気怠そうに口を開いた。


「あー、この死体が気になるか?実は王国の奴らが生贄に子どもを求めてきてよ。

意味わかんねーんだけど、赤子に近い子どものほうが生贄の質が高いとかなんとかいいやがって。必ず一人は赤子を出せなんて抜かしやがって。本当にめんどくせー」


……は?インバの思考が止まる。今までは村の中でも生産能力が低い順に、生贄にしていたではないか。

村の食い扶持を確保するための口減らしとしての意味合いが生贄にはあると言い聞かせてきた。

せめて最後は苦しまないために睡眠薬を煎じていたのに。そうやってどうにか納得させていたのにも関わらず、赤子を生贄に使うのは……。

インバの中で生贄に協力する最後の言い訳が消えてしまった。もうどうやっても自分の行為を肯定することができない。

インバの顔が死人のように青ざめていく。


「それでよ、村のテキトーな赤子を連れて行こうとしたらこいつが邪魔しやがってよ。つい殺しちまったんだ。けど俺らの仕事を妨害したんだ、正当防衛ってやつだよな。

しかし、周りの奴も最初は忌み子にしようと勇んでいたんだがよー、お前が嫌がると思って止めたんだぜ。感謝してくれよな。ぶっはははははー」   


 ナンダコイツハ?

本当にコイツは同じ人間なのか?

いや違う獣だ。

シジンもシジン達に従ってきた、無言の肯定をしているマルメット村の連中。そしてマルメット村に追いやった王国の人間も!

生贄を要求する国王と貴族も!!

いや神ミスラさえも獣だ、畜生に過ぎない!!!

……そしてこんなやつに協力するわしも畜生の仲間だ。

インバの中で激しい怒りと後悔が渦巻いた。今までは村で生きていくために言い訳をしていたが、もう自分を誤魔化すことはできない。


 村の外には野生の獣や魔物がいる。ただでさえ老人であるインバが生きていくには過酷な環境だ。

しかしこれ以上村に居座って、人の道をこれ以上踏み外す訳にはいかなかった。

人が人として生きるための最後の一線を越えてしまいそうに感じたからだ。

突き動かされるように、インバは生贄を救い出した上でアルと共に村を出る決意をする。綿密に計画立てて行動しようとしている訳ではない。

今から行うことは、ほとんど感情と勢いに任せたものであることはインバも自覚していた。

しかしこの機会を逃すと二度と村を出ることはないだろう。やるなら今しかないのだ。


 村を脱出するとなると、シジンなどの追っ手が差し向けられることは間違いない。

村から脱走して外で暮らしいけるという事実は、村を統治する者達にとってあってはならない。

一つ成功体験があると、それに続こうと今後も脱走者が生まれてしまう。村の規律が乱れてしまうのは想像に難くない。

また、シジンらにも王国から死刑や生贄にするなどの重い罰則が課せられるだろう。そのためシジンらは草の根を掻き分けてでも探しにくる。


 きっと全員で逃げようとすると失敗するだろう。

可能性を少しでも上げるために、逃げる際はバラバラに逃げることにしよう。

もしかしたら全員が捕まってしまうかもしれない。

だが、ほんの僅かでも可能性が広がるのであれば賭ける価値がある。この時インバは自棄になっていた。

しかし、そんなインバの内面を悟られないようにシジンに薬を渡した後、生贄にされる者達がいる小屋に向かった。


 これがインバの人生で最大で最後の決断である。

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