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05.検証【魔装鍛冶】

【――――魔装鍛冶LEVELⅤ.審眼】

【――――魔装鍛冶LEVELⅥ.魔力開放】



「……審眼に、魔力開放?」


 キングオーガとの戦いは、とても熾烈だった。

 それはギルドでも話題になるほどの事件。

 しかし冒険者ではなく、あくまで裏方を務めるルカはその事を知らない。

 今夜もいつも通り、水面に映った新たなスキルに目を向けていた。


「ええと【審眼】は素材を見る能力を発揮する。防具の装備は不要。【魔力開放】は個人の持つ魔力を放つ……どういうことだ?」


 説明を呼んでもピンとこない。

 そうなったら、やるべきことはたった一つ。検証だ。


「まずは【魔力開放】から試してみよう。パーツは……左のガントレットだな」


 右には現状【パワーレイズ】が搭載されている。

 また、ガントレットだけ個別で使用する可能性があるかもしれないことを考えると、何かを放つようなスキルは腕にしておいた方が賢明だろう。

 ルカはいつも通り鉄製のガントレットを手に取って、【魔装鍛冶】のスキルを発動する。


「……あれ?」


 しかし、【魔力開放】を載せようとすると効果が切れる。


「どういうことだ? スキルは覚えてるのに、鎧を作れないって……」


 ガントレットを手に取ったり置いてみたり、一度あえて潰してみたりと試してみるが、やはりスキルは発動しない。


「んー、ダメか……」


 なにせ【魔力開放】なんて名称のスキルだ。

 心身ともに充実してる状態でないと発動しないなんて可能性もあるのではないか。

 ルカはつい先日大物と戦ったばかり。

 意外と疲れがあるのかもしれない。そう考えて、大きくを伸びをする。

 すると以前青銅で造った1/8甲冑が、なんとなく目に付いた。


「……これって青銅で作っても、同じような効果が出るのかな?」


 手に取った甲冑をじっと見つめる。すると――。



【青銅】

 耐衝撃:1

 耐魔法:2

 パワーレイズ:1

 滑走跳躍:1

 魔力開放:1



 何かが視えた。


「なんだこれ……いやちょっと待て、これってもしかして!」


 どうやら【審眼】は【魔装鍛冶】自体の強化で、素材を『見る』スキルのようだ。

 ここから浮かび上がる、一つの可能性。


「金属によって、載るスキルに違いがあるのか?」


 あらためて鉄のガントレットを手に取り注視する。


「鉄で作った場合の効果は?」



【鉄】

 耐衝撃:2

 耐魔法:1

 パワーレイズ:2

 滑走跳躍:1



「……やっぱり。【魔力開放】は青銅じゃないと発動しないんだ。しかもこの数値を見るに、おそらくスキルの載り方にはレベル差がある。要は同じスキルでも金属によって効果に差が出るってことか」


 数字がレベルと仮定すれば、鉄の鎧は【耐衝撃】と【パワーレイズ】に秀でていると考えるべきだろう。

 生まれた仮説。

 こうなれば、やるべきことは決まっている。


「さっそく検証だ」


 予想通り、今度は【魔力開放】スキルがきっちり発動する。

 青銅は鉄ほど豊富には余っていないが、それでもガントレットくらいなら問題なし。

 即座に【魔力開放】スキルを載せたガントレットを完成させると、先日タックルをかました岩の前へ。

 ここなら木々も少なく、ある程度視界も開けている。


「さて、どんな効果があるのか……」


 これまで発現したスキルは、どれも強力だった。

 放出という文言がある以上、攻撃スキルの可能性が高いと踏んだルカは念のため鎧を身にまとい、青銅製の左腕を突き出した。

 昂る期待にワクワクしながら、スキルを発動する。


「行くぞ、魔力――――解放!」


 すると次の瞬間、左手に荒々しい閃光が走り出す。


「うおおおおっ!?」


 放出。放たれた強烈な魔力は、夜空へと消えていく。


「これはまた……すごいな」


 感じる疲労感の中で、思わずこぼす。

 見れば岩の上部。魔力光のかすめた部分がごっそり削り取られていた。

 どうやら本当に、魔力をただ放出するスキルのようだ。

 炎を始めとした別元素に変換していない分、威力が高いのだろう。


「これなら用途によってパーツを換装するなんてのもありかもしれないな……そうなると、インベントリめちゃくちゃ便利だぞ!」


 いざという時に瞬間的に換装して攻撃方法を変更する。

 それは間違いなく、強力な武器になるだろう。


「……でも」


 同時に一つ、気になったこと。


「これ、全体化がかかってないな」


 こんこんと叩いた衝撃が、普通に左腕に伝わってくる。

【耐衝撃】がかかっていれば、こんなことはありえない。

 そうなるとおそらく、【耐魔法】も載っていないだろう。

 現状この青銅製のガントレットは、ただの魔力砲だ。

 それでも冒険者、中でも戦士系の者たちはノドから手が出るほど欲しがる一品。

 ルカにしても換装すればいいだけなのだから、そこまで問題ではない……ただ。


「気になる。これは一体どういうことだ?」


 このまま放ってはおけない。


「仕方ない、これも検証しておくか……!」


 今夜も、鍛冶場にはまばゆい火花が舞う。

 しかし飛び散る火花や炉の炎より、燃えるルカの目の方が明るく輝いていたという。



   ◆



「とりあえずはこんなところか……」


 数日後、一通りの検証を終えたルカは息をついた。

 あらためて、メモに記した条件を確認していく。


「まず現状、スキル載せ防具は複数作れない」


 基本一つのスキルを使って作れるパーツは一つ。作り放題とはいかないようだ。

 そしてスキルの【全体化】について。


「後付けの別素材は全体化の恩恵を受けられない。対して同素材なら、後付けでも装備した時点で全体化がかかる」


 現状【耐衝撃】は、鉄鎧の胸部についている。

 よって後造りの装備品で【耐衝撃】の【全体化】を受けるには、同じ『鉄製』の装備品であることが必要になる。

 後作の青銅製ガントレットでは、【全体化】の恩恵は受けられない。


「ただ意外な発見として、最初から『全体鎧の一部として青銅のパーツを作った場合』は【全体化】がかかる……と」


 これは少し予想外だった。

 青銅のガントレットを含むセットの鎧を作った場合は、ガントレットにも鉄パーツに担当させたスキル効果が発動していた。

 要するに。

 一つの鎧として作れば、鉄の各パーツに載せたスキルが【全体化】されるため以下のようになる。



 全身(鉄) :耐衝撃2、耐魔法1、パワーレイズ2、滑走跳躍1

 左腕(青銅):耐衝撃1、耐魔法2、パワーレイズ1、魔力開放1(滑走跳躍も全体化されているが、腕に載っても意味がないので割愛)



 ただし、青銅の装備は鉄より【耐衝撃】や【パワーレイズ】のレベルが低いのは変わらないし、そもそもその素材に載らないスキルは【全体化】がかからない。

 よって右腕の鉄ガントレットで【魔力開放】が使えるようになったりはしない。

 そして。青銅のガントレットが後付けの場合は、素材が違うためそもそも【全体化】が起こらない。



 左腕(青銅):魔力開放1



 鉄部分のスキル構成は変わらないが、左腕はこれだけになってしまう。

「よって万全を期すのであれば、最初から【魔力開放】を載せた左ガントレットを織り込んだ全身鎧を作って【全体化】させる。その上で本体と同素材の鉄製ガントレットも準備しておくって形だな。あとは必要に応じてインベントリで交換すればいい」

 再確認を終えて一息つくルカ。

「さて、それじゃ今日の分を始めるか」

 もちろん今夜も、水見を開始する。



【――――魔装鍛冶LEVELⅦ.感知】



 今回もまた、レベルが上がっていた。


「今度は戦闘系じゃない……いや待てよ、これって」


【審眼】のスキルを発動し、あらためて鉄と青銅のガントレットを手にしてみる。


「そうだよな。このスキルは鉄にも青銅にも載らないよな」


 新たなスキル【感知】は、二つの金属の『搭載欄』にはなかった。


「ということは、他の金属か」


 考える。近いうちに触れることができそうな素材は二種類。


「こうなってくると確認したくなってくるなぁ……よし、明日はちょっと色々試してみるか。うまくやらないと面倒な感じになりそうだけど……」

「……な、なんでニヤニヤしながら困ってるの?」

「うん? ああトリーシャか、なんでもないよ」


 口ぶりは困っているのに表情はまるで困っていないルカに声をかけてきたのは、困惑顔をしたトリーシャだった。


「ほら、今夜も夕食まだでしょう?」

「……あ」

「ダメですよぉ、ルカ君。ちゃんと食べないと大きくなれませんよー」


 まるで面倒見の良い姉みたいな態度でそう言うと、一転。


「一緒に食べよ」


 パッと、明るい笑みを浮かべる。


「そうだな、それならいつものやつで頼む。ここを片付けたら行くから」

「りょーかいっ」


 笑顔のまま「早く来てね」と残し、跳ねるような足取りでギルド酒場へと向かうトリーシャ。

 ルカはガントレットを手にしたまま、その足取りを見つめる。そして。


「……いつもありがとうな、トリーシャ」


 その背中に、そっとつぶやいた。

お読みいただきありがとうございました。


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何卒よろしくお願いいたします。

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