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03.続く成長

「おい鍛冶屋、これも頼むぞ」

「ああ、明日の昼にはなんとかしておくよ」

「…………いいのか?」

「いいのかって、どういうこと?」

「いや、急な話だからよ」

「次からは気をつけてくれよな」

「お、おお……」


 首を傾げながら去って行く冒険者。

 夕食も迫ろうかという時間の、急な追加依頼だ。

 文句の一つも言われるかと思っていたのだが、思いがけずあっさり受け取られたことに冒険者は虚を突かれたのだった。

 しかしそれは、ルカが一つの可能性に気づいたためだ。

 ……これ、鎧鍛冶の仕事がレベル上げの鍵になってそうなんだよな。

 そう。忙しい仕事がそのまま【魔装鍛冶】のレベル上げにつながるのなら、これだけ『おいしい』場所は他にない。

 ギルドの冒険者たちが毎日次々と『経験値』を運び込んできてくれるのだから。


「なんか最近、すごく元気だね」


 そこに受付業務の隙を突いて、トリーシャがやって来た。


「そうか?」

「うん、そう見えるよ。それと今日はお昼もまだでしょ? はいこれ」


 受付カウンターの上に置かれたのは、サンドイッチトースト。


「これなら作業しながらでも食べやすいかなと思ったんだけど……」


 ただし、トリーシャの顔くらいの高さがある。


「すげえ……」


 こんがりと焼かれたトーストの間には、牛や豚、鶏肉を焼いたもの。その間に色とりどりの野菜やら目玉焼きやらが、とんでもない高さで積み重ねられてる。

 そしてそれらをまとめて上から鉄串で刺すという、壮観な見た目に思わず声が出た。


「栄養のためにっていろいろ挟んだら、こんなになっちゃった」


 てへへ、と笑ってみせるトリーシャ。


「ありがとな、トリーシャ」

「無理はしないでね」

「ああ、もちろん」

「おーい! 受付さーん!」

「はいはーい!」


 いつも通りの軽やかなステップで、仕事へと戻って行く。

 その可愛らしい笑顔と見事なスタイルに、冒険者たちの目が奪われる。

 受付嬢トリーシャは今日も、ギルドの人気者だ。


「さ、今日の仕事もあと少しだ」


 鍛冶場へ戻ったルカはさっそくサンドイッチにフォークを差しながら、持ち込まれたばかりの鎧の修理を開始する。

 選んだ具材の選定がいいためか、意外と美味いサンドイッチを食べつつ約一時間。


「はい今日の分終わりィ!」


 仕事道具をインベントリに戻して、ルカは声を上げた。


「ああ、今日もなかなか忙しかったな」


 肩と首を鳴らしながら、鍛冶場を閉める。


「……さて、お楽しみはここからだ」


 実は先日から、【魔装鍛冶】について色々と試していた。

 それによって少しだが、スキルの載り方なんかも分かってきていた。

 ルカはここで改めて確認しておくことにする。

 まずは先日【パワーレイズ】で作った右腕のガントレット。

 この効果からだ。


「ガントレットを単体で装着した場合、着けた部分だけが強化される」


 これは先日のガントレットであれば、右腕の力だけが強くなるということだ。


「ただし、ガントレットと同時に全身鎧を装着した場合は、全体の筋力も上げることができる」


 これをルカは、スキルの【全体化】と呼ぶことにした。

 ちなみに【耐衝撃】は、最初に作った胸部に搭載されていた。

 これも単体で装着した場合は、胸にのみ【耐衝撃】の効果が反映。

 他のパーツと同時に装着した場合は、【パワーレイズ】の右ガントレットも含めて【全体化】を起こしていた。


「要するに【魔装鍛冶】ってのは、『各パーツ』ごとにスキルを載せていくものってことだな。そのうえで【全体化】するっていうのが【魔装鍛冶】スキルの基本だ」


 これが、今の時点でルカが出した見解だった。


「よし、それじゃ今日もやりますか」


 ルカは一人、さっそく水見を開始する。

 水面に、ゆっくりと文字が映し出されていく。



【――――魔装鍛冶LvⅢ.耐魔法】

【――――魔装鍛冶LvⅣ.滑走跳躍】



「二つもレベルが上がってる!? ……いやちょっと待て、耐魔法ってマジかよ……」


 その文言に、思わず息を飲む。

 つい先日、【耐衝撃】の異常な効果に驚かされたばかりだ。


「もしもこの【耐魔法】まで【耐衝撃】レベルなら、とんでもない防御性能になるぞ……」


 想像して思わず、身体がブルッと震える。


「いや落ち着け。【耐魔法】の効果は俺一人じゃ確認できない。まずはこの【滑走跳躍】からだ」


 水面に書かれたスキルの説明文には、以下のように記されている。


【――この技を持って作製された防具は、大地を自在に駆け、華麗な跳躍を可能とする】


「……跳躍はまだしも、地を自在に駆けるってなんだ?」


 さっそくスキルを発動し、鉄製の靴を作ってみることにする。

 これも廃棄鎧を使っての作り直しだったこともあり、時間はそうかからなかった。


「よし、軽く試してみるか」


 さっそく鍛冶場の外に出て、完成品を装着。


「行くぞ。まずは滑走からだ! 行けー!」


 そう叫んで一歩踏み出した瞬間、上半身を置き去りにするほどの勢いで鉄靴が前進を始める。


「お、うおおおおっ!?」


 それは歩行ではない。

 まるで氷の上を滑るがごとく、鉄靴が地上を滑走しているのだ。

 しかも……予想以上の速度で。


「ちょっ、まっ」


 砂煙を起こしながら猛烈な勢いで進むルカは、後方へ持って行かれそうになる身体をどうにか起こす。

 すると目の前に現れる、一本の樹木。


「お、おおおおい! と、止ま、止まっ」


 その太い幹は、もう目の前まで迫っている。

 もちろんこのまま行けば、激突する他にない。

 ――――跳躍だ!

 だがここでルカは思いつく。

 そう、新たなスキルの名は【滑走跳躍】

 考えている暇はない。

 ひざを曲げ、溜めた力を一気に解き放って全力で跳躍する!


「……う、おおおおおおおおっ!!」


 すると予想通り、常人にはとても不可能な跳躍力を発揮。

 そのまま星の輝く夜空に羽ばたいて――。


「ぐぎぇっ!」


 木の中腹に激突した。

 そのままズルズルと地面に落下してきたルカは、木の根元で仰向けになったまま動かない。

 しかし。

 身体をしたたかにぶつけたにもかかわらず、その身体は震えていた。

 全身を駆け抜けていく、強烈な予感で。


「……このスキルも、使いこなせればかなり強力だぞ」


 この移動速度と跳躍力は、間違いなく武器になる。

 そして何より。


「どうなっちゃうんだ……これ。【耐衝撃】に【パワーレイズ】そして【滑走跳躍】とまだ見ぬ【耐魔法】。これらの全てを搭載した鎧は一体……どうなってしまうんだ!?」


 本来であれば、そんな重装備で戦うことはほとんどない。

 フルプレートには、それだけ欠点があるからだ。

 ただ、それら防具全てにスキルが付くというのであれば話は別だ。

 あまりに異色ではあるが、むしろフル装備の方がいい。

 その方が強くなる。さらに。


「それだけじゃない……! インベントリが活きてくる!」


 これまで『倉庫くん』と呼ばれてきたルカ。

 鎧鍛冶としての仕事を支えてきたスキルが、一気にその意味合いを変えてくる。

 全身鎧最大のデメリットである着脱の手間や、体積や重量による運搬の苦労は、まるでない。


「早く、早く作ってみたい……っ!」


 興奮が高まっていく。

 高鳴る鼓動と、止まることのない武者震い。


「いくつもの驚異的スキルを乗せた鎧。そんなの……とんでもないことになるぞ……っ!」


 ルカは意気込みながら立ち上がる。


「でもまずは……【滑走跳躍】の練習からだな」


 これまでの全スキルを乗せた鎧。

 それを扱うには、この【滑走跳躍】という特殊なスキルは是非ものにしたい。

 ルカはさっそく、鎧を装着した状態で滑走の練習を再開する。

 上がる意気、血が沸き立つような感覚。

 ワクワクが止まらない。そして。


『――――とんでもないことになる』


 そんなルカの予感は、すぐに現実のものとなる。

お読みいただきありがとうございました。


【ブックマーク】【ご評価】いただければ幸いです。


本日中にもう1話掲載。

何卒よろしくお願いいたします。

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