02.新たな力は
【――――魔装鍛冶LvⅠ.耐衝撃】
そこに書かれていた説明は、こんな内容だった。
【――この技を持って作製された防具は、全ての物理的衝撃を著しく減衰させる】
新スキル発生の翌日。
ルカは仕事を終えると同時に、ギルドの書庫で【魔装鍛冶】について調べ始めた。
しかし、どれだけ調べてもそんなスキルの記述はない。
「こうなったらもう……打ってみるしかない」
摩耗や破損によって廃棄され、屑鉄と化してる鎧なら倉庫に余っている。
さっそくルカは炉に火を入れて、【魔装鍛冶】のスキルを発動する。
工程は、普通の鎧を打つ時のものと変わらない。
「耐衝撃……普通に考えれば通常より物理攻撃に強い鎧が打てるって感じだろうけど……」
常識的に考えて、そんなことはありえない。
単純に硬度や衝撃の吸収分散能力が高いため、防具づくりに優秀とされる金属はある。
ただ、鎧にスキルとしてそんな効果を搭載することなんて不可能だ。
それが常識、当たり前。
「……よし、できた」
今回は元々ある程度形を残していたパーツを利用したため、完成に時間はかからなかった。
さっそく完成品をインベントリに収めて、ギルドの外へ。
「装着」
スキルを発動すると、一瞬で鉄製の全身鎧がその身を包む。
頭から足まで鈍い銀色をした、装飾等のないシンプルな構成。
鉄で造られているため、かなり武骨な感じを受ける。
まだ少し歪んでいる箇所もあるが、そもそもサイズ感があっていないため、全体的にちぐはぐだ。
そして何より――。
「や、やっぱりめちゃくちゃ重い」
その重量は約30キロ。
ズシリと身体に圧し掛かる重さに思わずフラつきながらも、右手で模造の剣を掲げる。
そのままルカは、左腕のガントレットへ全力で振り下ろした。
「……何も感じない」
剣をぶつけた部分には、かすかな衝撃すら感じなかった。
「それなら」
ルカは走り出す。
がっちゃんがっちゃんと、身体に合っていない鎧を揺らしながら向かうのは、ギルドの裏手に続く森。
「行くぞォォォォッ!」
身の丈の数倍はあろうかという岩に真正面から特攻し、渾身のタックルを叩き込む!
「……本当に、本当に何も感じないぞ!」
はしゃぎ出したルカは、もう止まらない。
そのまま重い鎧を引きずり森を駆け、向かうはその先の小高い崖。
「この感じだったら、2,3メールの高さくらい余裕だろ!」
崖にたどり着いたルカは、そのまま何も考えずに崖から身を投げた。
「…………あれ?」
そして気づく。
この崖は地面までの距離が一定ではなく、低めの場所もあれば、かなり高いところもある。
ルカが飛び出したのは、よりによってその最高地点と言っていい箇所だった。
しかし気づいた時にはすでに遅い。
約15メールもの高さを、ルカは真っ逆さまに落下していく。
「ウ、ウソだろォォォォ!?」
この高さでは仮に外傷を鎧で守れても、衝突によって生まれる衝撃は身体に届いてしまう。
そうなればもちろん、死はまぬがれない。
ら、落下地点は? それでも下が草地なら……っ。
ルカは一縷の望みにしがみつく。
しかし無情にも、視界に入って来たのはむき出しの岩だった。
全身を駆け抜ける悪寒。
どう考えても助かる状況にない。
「う、うわああああああああ――――ッ!!」
鈍く大きな音を立てて、ルカは岩に全身を打ち付けた。
崖の下。岩の上に倒れ伏したままでいる全身鎧の青年は、ピクリとも動かない。
ギルドから少し離れた夜の森は、すぐに静寂を取り戻していく。
静かな森の崖の下。
やがて、かすかに息のもれる音がした。
「……ウソ……だろ?」
仰向けになったまま、ポツリとつぶやく。
手、感覚がある。
足、感覚がある。
痛み、どこにもない。
それどころか……身体に衝撃の届いた感覚がない。
「いや、待て」
意識は残っているものの、痛みを感じられないほど身体が『死んでる』パターンもある。
ルカは意を決してインベントリに鎧をしまう。
それからゆっくりと、生身になった身体を起こしていく。
そのまま立ち上がり、あらためて全身を確認。
やはり異常は、どこにも見つけられない。
「ッ!!」
全速力で走り出す。
向かう先はもちろん崖の上。
息を切らし、前と同様に崖の一番高い箇所へたどり着く。
先ほどダイナミックな身投げをかました地点に戻ってきたルカは、そのまま――。
「行くぞォォォォ――――ッ!!」
勢いに任せて跳躍する。
二度目の身投げ。
すぐさま始まる落下。
全身を風が舐めていく。むき出しの岩が一気に近づいてくる。
「装着ーっ!」
インベントリを発動。
次の瞬間、その全身を不格好な鉄の鎧が包み込んだ。
直後、再び森に鳴り響く鈍い衝突音。
すぐに何事もなかったかのように、静まり返る森。
岩の上に倒れ伏したまま、ルカは動かない。
いや、動けなかった。
あまりに常識外れな事態に、呆けてしまう。
「なんだよこれ……」
痛みはもちろんなし。
それどころか、衝撃も感じない。
これはもう、偶然でも何でもない。
これこそが【魔装鍛冶】そして【耐衝撃】の効果だ。
「なんなんだよっ、こいつはああああ――――ッ!!」
そのあまりの異常さに、思わず叫び声をあげた。
◆
「…………パワーレイズ?」
忙しいギルドの仕事を終えた、夜の鍛冶場。
再び水見を行ったルカは、水面に記された文字を見て思わずつぶやいた。
そこには、新たな変化が起こっていた。
【――――魔装鍛冶LvⅡ.パワーレイズ】
【魔装鍛冶】のレベルが上がり、新たなスキルが追加されていたのだ。
そこに書かれていた説明文は以下の通り。
【――この技を持って作製された防具は、装着者の筋力を著しく向上させる】
「これ、書かれている言葉の通りだとすれば……っ!」
居ても立っても居られない。
ルカは即座にパワーレイズのスキルを発動し、ガントレットの作成に入る。
前回使った鉄鎧のガントレットをそのまま再利用し、作り直す形だ。
大雑把な作りの物であれば、時間はそうかからない。
早々に新型のガントレットを完成させて、さっそく右腕に装着する。
「着けただけだと、特に変化は感じないけど……」
鉄製のガントレットにしては、重さを感じないくらいか。
「……そうだ! ハンマー!」
ルカは廃棄の鎧を潰したりする際に使う、大型のハンマーに手を伸ばす。
片手では持ち上げるのがやっと。
その重さは約15キロにもなり、まさに重量級と言っていい鉄のハンマーを、ガントレットを着けた手でつかむ。
それから一つ息を飲み、ゆっくりと持ち上げてみる。
「……か、軽っ」
あまりの軽さに、拍子抜けしてしまう。
「ウソだろ、木剣なんかより全然軽いぞ……」
その場でブンブンと振り回してみるが、まったく重みを感じない。
「パワーレイズの効果もまた半端ないな……いや、ちょっと待て! これってもしかして!」
その瞬間、走る閃き。
「装着!」
すぐさまインベントリから、残りの鉄鎧をフル装備。
やはり、予想通り。
「すごいすごい! これなら全身鎧でも問題なく動けるぞ!」
がっちゃんがっちゃん鳴らしながら、その場で飛び跳ねるルカ。
テンションの上がったルカは、ハンマーを剣に見立てて振り回し出す。
「全身鎧にハンマーで、こんなに軽々動けるなんて!」
全体で約45キロにもなる装備をまとい、ハンマーで仮想の敵を次々にさばく。
「右から来た攻撃をガントレットで受けて、左から来た攻撃をハンマーで弾く!」
続く敵のターンを防ぎ切った後はもちろん、反撃だ。
「ここで必殺の一撃を! ――――あっ」
勢いのままに振り上げたハンマーが、スポッとその手から抜け出した。
ガシャァァァァン!!
ハンマーはそのまま、ルカの作った1/8サイズ甲冑コレクションのもとへ。
「…………」
思わず、言葉を失うルカ。
「お、おい、ウソだろ?」
慌ててハンマーをどかす。
見ればコレクションの一つに、ハンマーが思いっきり突き刺さっていた。
「なああああああああ――――ッ!! 槍斧騎士その五がぁぁぁぁッ!!」
ペラペラになった小型の甲冑を手に、思わず悲鳴を上げるルカ。
その痛烈な叫び声は、森の奥深くにまで響き渡ったという。
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本日はあと2話ほど投稿予定です。