最終話 ゲームの世界での青春、外の世界での日常。全部話すからもう質問ないよね。
ミステリーセット改に取りこまれた私達は、こっちへ来たときと同様に真っ白い光に包まれた。
周りにはみさき、マスター、村長夫人がいるはずだけど、眩しすぎて目も開けられないしわからなかった。
「おー、やっと帰ってきたな!お前の負けだ、山下!」
目を開けると、そこは外の世界で……
村長夫人……だったであろう人がおっさんに取り押さえられていた。
マスターも青年に戻っていた。
おっさんの他に、クラスメイト……だと思われる男女が2人。
横にいるみさきは、帰る直前に記憶が戻ったみたいだ。
下を向いてボトボト涙をこぼしている。今まで見たことない姿だった。
「みさき、大丈夫?」
「……」
こっちも見ない。
椅子に座らせて横に並ぶ。
クラスメイト、だったと思う2人も心配そうにみさきを見ているが、寄っては来ない。空気の読めるいいヤツらじゃないか。
それから半月が過ぎた。
ゲームの中での生活が嘘だったんじゃないかと思わせるくらいに、今までの生活を変わりなく送っている。
夢にしては長すぎて、繊細で。
でも、現実にするにもファンタジー過ぎて。
私には勿体ないくらい、いい人達に巡り会えた。
本人達にはもう、言えることもないかもしれないけど、みんなが大好きだったんだと思う。
向こうの世界では爽やかな夏だったが、こっちでは湿気と暑さがベタベタと纏わり付く。
蝉が忙しなく鳴いているが、もう1週間もすれば夏の終わりが近づいていることをツクツクボウシが知らせてくれるのだろう。
夏は嫌いじゃない。
たくさん、思い出作ってきたから。
みさきが帰る直前にみんなのことを思い出せてよかった。
マスターの仮説によると、記憶を完全に消すことは今の段階では出来なくて、思い出せないように蓋をしてしまう程度のものだろうということだった。
みさきは勘がよく繊細で、その蓋を外しやすいんじゃないかと言っていた。
子どもの頃のこともボンヤリ思い出してたし、そうなんだと思う。
私……鈍いのかな?全く思い出せないまま今に至る。
私とみさきは夏休み真っ盛りだ。
女子高生の夏休みと言えば、青春の塊だと思う。
私たちは期末の成績はそこそこよかった。でもそれは、ゲームの中に飛ばされる前の結果だ。
ゲームの中にいたのが長くて、ところどころ忘れていた。
だから、夏休みの大量の宿題に苦労している。
そんなこんなで今日は私の家で宿題をしているのだ。
「まことぉ、肩凝ったよぉ」
「しらん」
「ニーナちゃんがいなくて寂しいよぉ……誰も触ってくれないんだもん」
「いかがわしい言い方をするな!抱きつくなって!耳を撫でるな!」
「まことが優しく相手してくれたらぁ、心も体も満足できるのにぃ」
あのあと、ソフトの中を確認したけど、真っ新なゲームに戻っていたらしい。調べたおっさんが後日教えてくれた。
リック達の無事は分からない。初期状態に戻っていて、PCも本来のキャラを操作するようだ。
リックやニーナはモブキャラ過ぎてどれがそうなのかも分からないそうだ。村人の名前は表記されないらしい。
そして、ソフトの中に私たちが戻ることも出来なくなっているらしい。出入りできそうな痕跡はあるらしいんだけど……
証拠品だからと私の手元には戻ってこなかった。
本当は、ダメらしいんだけど、マスター……富岡さんとは時々メッセージのやりとりをしている。
情報漏洩の危険性から、内容には気を付けないといけないんだけど、ただの世間話……『マンプク』で話してたような内容のやり取りだ。ちなみに、グループでメッセージのやり取りをするから、みさきの変なスタンプが連投される。
きっと、私たちが寂しい思いをしないように、気にかけてくれているんだと思う。
なんたってグループ名が『マンプク』ってなってるしね。
「じゃあ、私がさわっちゃおーっと!」
「だぁ!!!触るな!離れろ!」
「肩ぐらいもんでやれよ、来栖」
「肩揉むとか面倒くさい」
私の家には……はるかとカナタも来ている。
宿題を一緒にしにきている……
みさきが誘ったのだ。私はみさきと2人でよかったのに。この2人もすごくうるさい。
「今日はいつにも増して暑いねぇ。スカートがへばりついて気持ち悪いよぉ」
そう言いながらみさきがスカートをパタパタさせる。
絶妙なパタパタ加減……見えそうで見えない。そう、見えてはダメなんだよ。見えないからいいんだ。
分かってんじゃん、みさきちゃん。
「あぁ……変態からの視線が刺さるぅ……」
「見てないし……」
「みさきちゃんの太股とか超綺麗だよね」
「撫でるなって!」
「ニーナちゃんの方がもっとクセになりそうな撫で方で……」
「アイツ、マジ今度会ったらぶっ飛ばしてやる!!てか、はるかは富岡さん一筋なんでしょ!?」
「カッコイイもんねー!成人したら相手してくれるかな!?」
「富岡さんより加藤さんの方がいい男だと思うぞ?」
「カナタはそんなだから童……んぐ!」
「てめぇ!ふざけんな!!!」
「うっさい。帰れ!童……んぐ!!」
「調子に乗んな!来栖!」
2人は、私達をゲームの世界から出してから、みさきが頻繁に遊びに誘うようになったのだ……
2人で静かに過ごせると思っていたのに……
いやいや、私は!一人でいいんだけど!
「カナタははるかが好きって素直に言えばいいのに……」
「うっせぇよ!好きじゃねぇよ!てかお前!名前すら覚えてなかったくせに、ファーストネームで呼ぶの早ぇんだよ!」
「名字知らないんだもん」
「もっと興味持て!!」
うるさい……リックを彷彿させるうるささだ。
「ねぇねぇ、まことぉ。宿題済んだら、海に行きたいなぁ」
「海って……もうクラゲまみれだよ?」
「釣りに行きたいんだよぉ」
「釣りかぁ……遠いけど、釣竿はお父さんのがあるだろうし、明日行く?」
「やったぁ!」
「じゃあ、私たちも!」
「来んな!」
「はぁ!?いいだろ!別に!!」
「うっさい、くんな」
うるさい、誰があんたら連れてくってったよ。
「まことは私が大好きだからぁ、デートしよっかぁ」
「……大好きではない」
「餌、触れなかったら付けてくれるぅ?」
「うん、付けてあげるよ」
「うわ……すげぇ嬉しそうな上に……」
「超甘ーい!胸焼けしそう!そんなに好きなの?」
「いや、そんなことない……」
「まこと……私のこと、嫌いなのぉ?」
「いやいや、嫌いとかそんなわけない……」
「もういいわ、ご馳走さん……」
私とみさきは、こっちの世界で改めて青春を送っている。
ゲームの世界に迷い込んでから、現実世界に戻って来て、超絶可愛い幼馴染みを甘やかしながらうるさいクラスメイトを交えて青春を送ってるけど、質問ある?
「富岡、この信号、どう思う?」
「どうもこうも……調べてみないとわからないよなぁ」
「んなこと分かってんだよ。その上で仮説を聞いてんだろ」
「さっぱり。分かりかねるねぇ」
私たちが迷い込んだ『のほほん田舎体験系ゲームの世界』を改造した組織が、現在もなお開発を進め、他の誰かを巻き込んでいることを私たちは知らなかった。
最後までありがとうございました!
拙い文章でしたが、読んで頂けたことに感謝しかないです!
いつか、後日談のストーリーが書けたらいいなと思っています!
本当にありがとうございました!