表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

海雅

 アイツなんか嫌いだ。


 優れていることを、価値があることを、見せつけてくる、知らしめてくる。


 やめろ、やめろよ。


 蔑むな。憐れむな。


 頼むから関わらないでくれ。


 アイツはお母さんから愛されている。

 アイツはお父さんから愛されている。


 勉強だって出来る。学校の人間関係も好調で、顔だっていい。何人かの女子から慕われていて。


 全部、何もかも、正反対。


 俺に価値はない。生まれてこなきゃよかったんだ。そうすれば、皆、皆幸せだったんだろ?

 不出来な弟が消えて、お父さんもお母さんも俺を養う分無駄に働かなくて済む。

 学校は、世界は、俺がいようがいまいが何も変わらない。


 わかってる、わかっているから。


 救うだなんて、偽善はやめてくれ。

 笑いかけるな、抱きしめるな。


 相談することはない、頼ることもない。


 憐れまれているって事実が惨めになるんだ。


 アイツに勝るとこが一つも無い、虚しい真実の証明になるんだ。


 嫉妬と拒絶で固めた心が崩れて、俺の本性が世界に晒されてしまうから。


 死ぬ勇気がない。

 無いんです、ごめんなさい、死にたくない。


 わかってます、死にますから。

 怖い。生きてても邪魔なのに。

 ごめんなさい、はやく消えるから。


 だから、今は放っておいて。


 どうすることも出来ないんだ。


 俺のために人生を無駄にしないでくれ。





 あいつさぁ、いつも絵ばっか描いててキモくない?


 まあ、顔は良いけどね〜。


 実際モテてるし?

 顔しか見てない女にはねぇ! ウケる!


 あいつさあ。やばくない? 人間に無関心すぎじゃない?

 もうあれ、筆とヤっちゃってるでしょ。

 いや、筆でヤッてるって言うべき?

 そうとしか思えなくな〜い? ね!


 キャハハハ!


 絵以外マジ興味無いって感じだもんね〜。

 恵まれた容姿からクソみたいな固執!

 男子に馬鹿にされても足蹴にされても、全然気にしてないよね〜。


 本気で笑いが止まらんわ〜。

 そういやあいつんち超貧乏じゃない? ね、結構昼ごはん食べてないで絵書いてる時あるよね。腹鳴ってるのに。


 絵の具買う前に自分の飯買えよ〜って誰か言ってやりなよ!


 ……え? あいつ弟いんの?


 見たことないわ〜! 衝撃の事実発覚っつーかぁ!






 海雅は、本当に良い子。

 弟思いで、芸術に真剣に向き合ってる。


 まっすぐな子で、いつも私たちを心配してくれる。

 海のようにたおやかで、雅な子に育ってほしいと名付けた名前通りに育ってくれて、とても嬉しい。


 ごめんね。

 いつも寂しい思いばかりさせてしまって。


 私たち、恨まれても仕方ないと覚悟しているのに、あなたはいつも家族のことを想ってくれる。


 それどころか、時々お家に帰れたときには美味しいご飯を作ってくれて、無理をしないで休んでねとわがままも言わない。

 幼い頃から、ずっとそうだった。


 そんなあなたに、私たちも応えなきゃね。

 あなたが行きたい芸術の学校を応援します。


 少しずつだけど、お金を貯めて……学費と画材費に宛てましょう。


 それぐらいしか、私たちにできる事はないから。


 ごめんね、ごめんね。






 あのガキはたまらなかったなぁ。


 金欲しさに、まさかこの世界に手を出すはなあ。

 遊ぶ金だとさ。休憩時間ずっと財布を見てて、将来有望すぎるだろ。

 そんなクソガキはわからせてやるべきよな。


 彼奴は自分で成人って言ってるし、ちゃんとそれも録音した。


 顔を隠して撮影したから、特定なんか出来ないし、彼奴自身で虚偽の証言をしたのだから、もしバレたとしても、罪も控えめだろう。


 だって、オレたちは、本当にあのガキの本当の年齢なんか知りもしないのだから。


 それにこんなことを、あのガキが人にバラせるわけがない。


 この世界にあるのは、遊ぶ金欲しさに嘘をついて、身……おっと、手を汚した事実だけ。


 世間にバレたところで、ガキだけが汚名を被るのさ。


 ホント、馬鹿なガキ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ