【潔癖】
家の鍵を締めよう。
悪者が勝手に入ってきて、大切なものを漁って盗んでいかないように。
俺を誹る人間や、暴力を振るう犯罪者がやってこないように。
開けていたって、歓迎する人など俺にはいないから。
箱の鍵を締めよう。
悪気もなく突っ込まれて、ベタベタ内側を汚されないように。
憎悪と虚無が詰まっていることを知られないように。
開けていたって、入れたい物も、入れる物も何もないし。
侵害される可能性が微塵でもあるのが、気持ち悪いから。
心の鍵を締めよう。
これ以上、穢された手で触れないように。
これ以上、汚れた手で触れられないように。
傷が膿んでしまう。
開けていたって、どうせ無駄だ。
俺が悪だと言われて、蔑まれるだけだから。
俺にさえ理解できないなら、誰にも理解できないはずだ。
悪である俺の心に触れようとする奴なんて、碌な奴じゃないんだし。
何重にも、何重にも、錠前を掛ける。
解く鍵は捨てた。
鍵穴は塞いだ。
ここにあるのは、開かない箱だけ。
内側に隠したものを、もっと大きな箱に仕舞い込んで、それももっと大きな箱に仕舞い込んで。
さて繰り返して、一番小さな箱には、何を入れていたんだか。
悲鳴、怒号、慟哭、祈祷。
もはや思い出せやしない。
私は中身のある空っぽのまま生きる。