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貴女が生まれたあの日

「おぎゃぁ、おぎゃぁ」


室内に元気な産声があがる


「ヘレナ様!!可愛い女の子でございます!」


赤子を抱き上げ出産に伴い力を使い果たした私の愛する主人に見せる。主人は、ぐったりとされながらも我が子の顔を見て愛おしそうに笑う。


「あぁ、よかった。・・この子が生まれてくれて・・・、アリシア・・どうか・・この子を―」


「な?!何をおっしゃいますか、ヘレナ様!!まだこの子に名をつけてもいないではありませんか!ましてやお抱きにすらなっていないのに!!」


ヘレナ様は困ったように笑う。

その笑みは初めて会った時と同じで胸が引き裂かれそうだった。


「確かにアリシアの言う通りだわ。この子を抱きしめてあげなきゃね…」


そっと赤子を渡す。

優しく抱き抱えた彼女の目にはうっすらと涙がたまる。


「陛下に似てきっと優しくて強い子になるわ」


赤子の頬を撫でる姿はまさに聖母の様であった。その姿にうっとりとしている間もないように部屋の外がだんだんと騒がしくなっていた。遠くから誰かの悲鳴が聞こえた気がした。

窓に目をむければ外は夜だというのに真っ赤に染まっている


「名前はリディアノール。ずっと考えていたのよ」


ヘレナ様は大切に愛おしそうにその名を呼ばれる。何度も何度も


パリーン


近くの部屋の窓ガラスが割れた音がハッキリと聞こえた。もう時間が無い

無意識に握りしめた手は緊張からか汗が凄かった気がする


「ヘレナ様・・・」


「アリシア、リディアノールを連れて逃げなさい。そして神殿に行きこの子の名を神にききなさい。この子が生きていく為に、どうか…」


微笑むヘレナ様の顔が涙のせいで歪んでしまう。分かっている。私がしなくてはならないことはリディアノール様を連れてこの王都から離れた離城から抜け出すことだと

それでも・・・


「私は、ヘレナ様にお仕えできて本当に良かった。貴方様に仕えれたことが私の誇りで名誉です。必ずリディアノール様をこの命に替えても護ります」


「えぇ、頼んだわよ。私の大切な側付き殿」


パリーン


またどこかの窓ガラスが割れた。

おかげで室内にも煙が入ってき始めた。

ヘレナ様が最後にぎゅっとリディアノール様を抱きしめる。それは長く感じられたが実際はとても短い時間だったと思う。

その後リディアノール様を真っ白な布に包んで抱き抱え、マントを被る。


「行ってらっしゃい、私の可愛い子供たち」


ヘレナ様は笑われる。どこまでも曇りのない笑みを讃えて

そんな彼女に「行ってまいります」とハッキリ告げる。


これが最後になるから


もう二度と戻れないから


リディアノール様を抱きしめる手に力が籠る。何としてでもこの子を助けねばならない。

そうして私は走り出した。城の抜け道へと全速力で











「行っちゃったわね…」


しんとした部屋に1人取り残される。

もっとアリシアと話したかった。リディアノールを抱きしめていたかった。あの子の成長を陛下に見せたかった。見たかった。

涙が頬を伝う。


もう、何も出来ない。

見守ることも、触れることも、抱きしめることさえ出来やしない。


城の窓の外に目をやれば真っ赤な空が広がる。今は夜なのに外は明々と光っている。否、城外は敵によって火に囲まれたのだ。

敵は街を壊し、民を殺し、王城に乗り込み皇子たちや正妃様、第2王妃様を斬殺したのだ。

そうして私がもっとも愛した陛下を殺した。愛してくださったあのお方を亡き者にした。


それが昨日の話だ。

離宮にいた第3王妃すら殺しにくる敵の我がオルスフェア神聖国に対する徹底ぶりには天晴れである。

ただ奴らの為にあの人と私の子を殺されるのは我慢ならなかった。


黒い煙が充満する。息が苦しくなってきた

ゴホゴホッと咳がでる。喉が焼けるように熱い


私が身ごもっているのを知っているのはごく少数。ましてや出産日など城仕えの医師と陛下そして私の側付きの役のアリシアしか知らない。きっとあの子が生まれたことも王家の血を引く子供が生きていることも知られることはないだろう。


それでも、どうか

あの子が―



朦朧とする意識の中で祈ることはただ一つ





リディアノールが無事に生きられますように


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