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4話 試合しました

「け、賢者だとぉ!?」

「ありえない……いくらトロオ殿が立て続けに多大な功績を挙げたとはいえ」

「前例が無いぞ……我が国始まって以来の大事だ」


兵士たちがどよめいている。

賢者ってなんだ?ユーノスに聞いてみるか。


「なあユーノス、賢者って何?」

「賢者とは……大勇者・大司祭・大魔導をを超越する最高の職位だ。過去にマヨネリア王国でこの職位に達した人物は、建国の最大の功労者、大賢者ウスターしかいない。我が国に仕えてすぐに賢者になるなど、前代未聞だ」

「じゃあ辞退した方がいいのかなあ?」


俺は王様に向かって言った。


「あのー、賢者ってなんか一番偉いらしいので、自分にはまだ無理じゃないですか?」

「ダメ!トロ君は賢者になって!」


!?

王様が答える前に、マヨちゃんが割り込んできた。


「マヨネーゼもそう申すか……うむ、トロオよ、やはりそなたは賢者に相応(ふさわ)しい。受けてくれるな?」

「はあ……」


「待った!!」


部屋の奥から大声が響く。

そして一人の人物が前に進み出てきた。


「あれは……ファ、いや、ユショウ様!」

「あの武勇誉れ高いユショウ様ならば、この人事を看過(かんか)できないだろうな」

「中勇者10位のユショウ様に異論があるとすれば、王もご再考されるかもしれん」


ユショウと言われた人は、軽装鎧を(まと)い、長い棒を持っている。

精悍な顔つきの男だがその黒髪はオールバックで長く、瞳も黒い。前の世界で言えば中国系だろうか。


「拙者はトロオ殿と是非お手合わせしたい。陛下、トロオ殿との御前試合を希望します。どうかお許し下さい」

「ふむ……そうだな、賢者の実力を世に示すのも良かろう。それでよいか、賢者よ」

「……あ、賢者って俺か。ええ、いいすよ」


これから賢者って呼ばれるのか……そういえば王様が考えていた通り名はどうなったんだろう。


マヨちゃんがてててて……と走ってきて、俺に話しかける。


「トロ君、試合頑張ってね!」

「ありがと、まあやってみるよ」


俺ら二人のその様子を、王様は何とも形容しがたい顔で見ていた……。


そして二時間後。


城の中にある野外の武道会場の舞台で俺とユショウは対峙していた。

開始まで時間が無かった割に、観客は結構集まっている。

審判役らしいおっさんが宣言する。


「只今からトロオ対ユショウの御前試合を開始する。二人とも正々堂々と勝負すること。それでは……始め!」


ユショウは長い棒を構えた。棒術使いなのだろう。


さて、どうするか……。一瞬でケリをつけることもできるけど、この人にも失礼だし、来てくれた観客も瞬殺ではつまらないだろう。

適当に相手をして、この人が善戦したような雰囲気にして、最後に勝てばいいか。わざと負ける気まではないけど、マヨちゃんが応援してくたし。


「愉家流棒術奥義・烈火焼灼(れっかしょうしゃく)!」


ボワッ!


ユショウの持っている棒が炎を纏った。


「トロ君、注意して!その棒、魔力付与(エンチャント)されているよ!」


観客席のマヨちゃんが俺に声をかけた。

奥義と言ってもマジックアイテム頼みかよ……。

でも当たると熱そうだな……じゃあ。


「俺の手、冷たくなれ」


俺の両手から冷気が出てきた。これで熱いのも平気だろう。


「いくぞトロオ殿!いやぁーっ!」


ユショウが燃え盛る棒で突きを打ってきた。


「俺を10倍速で動かして」


ユショウの動きがガクンと遅くなった。いや、俺が速いんだが。


俺に向かってくる棒を左手でいなして……

右手でパンチをしようとすると……向こうは棒をひっこめて、その棒でガードしてくる……

ガードの隙をついて蹴りを入れて……向こうは引いてかわして……

向こうがまた棒で突いてきたら冷たくなっている腕で受け止めて……


みたいなやり取りをしばらく続けて、いい勝負になっているようなふりをした。

俺の演技力もなかなかだな。

向こうはだんだんバテてきたようだ。こっちの10倍疲れるだろうしね。


そろそろ終わりにするか。


ひょい。


俺はユショウの棒を取り上げた。


「はい、これで終わりね」

「き、貴様……侮辱するか!」


あ、しまった。バカにしたようにとられちゃったか。

詰めが甘かった……でも相手に怪我をさせないためにはこれしかなかったんだが。


「こうなったら最後の奥の手を見せてやる……愉家流最終奥義……爆裂相殺(ばくれつそうさい)……」


ユショウはふんばるようなポーズを取った。


ゴゴゴゴ……。


相手から凄い熱量を感じる……。


……まずい!俺もろとも自爆するつもりだ!

もうしょうがないな。


「水をかけてあげて」


バシャ―!!


ユショウに水が降りかかる。


シュワワワー……。


だいぶ冷えたようだ。


「……貴様……何を……」


バタッ


ユショウは力尽きたようで、倒れた。


「トロオ殿の勝利!!」


審判役のおっさんが宣言した。


ワアアアアアアア!!観客が沸く。


「さすが賢者殿!それに値する実力だ!」

「ファ……いや、中勇者ユショウに勝つとは、やはり魔王を倒すだけのことはある!」

「賢者様がいればこの国は安泰だ!賢者様万歳、マヨネリア万歳!」


まあ、悪い気はしないな。ユショウだけは納得してないと思うが、俺が来てから色々な事態が急に動き過ぎているし、理解してもらうには時間を要するだろう。


「く、くそ……お前など、大勇者ソルトーさえいれば……」


そう言うと、ユショウは気絶した。


「やったねトロ君!やっぱり凄いよ、賢者に推したマヨの目に狂いはなかったね!」


マヨちゃんが駆けつけて祝ってくれた。


舞台から降りると、ユーノスが迎えてくれた。


「ずいぶんと手加減していたな、トロオ」

「ああ、ばれちゃってたか」

「当然だ、魔王を倒したのを見ているからな。ただ、今回の戦いの方が、私はお前の人としての本当の強さを感じたぞ」

「まあ、あの時よりずっと手間はかかってるしね」


本当に怖いのは魔王より人間なのかもしれないな。俺がいくら強くても、この社会で認められないと生きてはいけないし、協調性は大事だ。


ただ快勝したのはいいとして、ユショウが最後に言っていたことがちょっと気になる。


「ユーノス、ちょっと聞きたいんだが。大勇者ソルトーって誰だ?」

「ソルトー様か……。ただ一人の大勇者であり、この国の最強の男だ。ユショウとは比べ物にならない程に強い。もしかすると、お前にも勝てるかもしれない」

「そりゃ凄いな。ちょっと会ってみたいかも」

「しかし、ソルトー様はかなり前に旅に出てしまい、ずっと戻らないのだ」

「そうか……」


強いと聞いて、会ってみたいと思ってしまった。

俺は力に魅せられてしまったのだろうか。

己の強さに溺れないようにしないとなあ。


と、目の前に王様が立っていた。


「賢者よ!そなたの通り名を決めたぞ!」

「決まりましたか!で、何でしょうか」

「それはな……『最強の凡人』じゃ!」

「えっ」

「そなた、見た目はあまり特徴がないからな。でも強い。だから、最強の凡人じゃよ」

「はあ……」


そのまんまやん……。

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