1話 力を手に入れました
気がついたら、俺は死んでいた。
俺の名は弱井土呂夫。22歳のフリーターだ。
よわくてトロい、と読めるせいで今までよく馬鹿にされた。
でも俺は別に自分の名前は嫌じゃない。親がつけた名前なのだし、必ずしも名は体を表すとは限らないじゃないか。
俺は真っ暗な空間にいた。どこからか声が聞こえる。
「我は全知全能の存在。そなたに我が力を引き継ごう」
「なんで?」
「我の寿命が来たのだ。その時に死んだ人間にその力を引き継ぐ。そういうルールなのだ」
「俺は死んだの?」
「そうだ。お前は事故で死んだ」
「そうなのか……もっと生きたかったな」
「生きられるぞ。ただしお前が居た世界とは別の世界だ」
「どうして?」
「そういうルールなのだ」
「誰が決めたんだ?」
「天地開闢以来の、世界の理なのだ」
「はあ……」
「その世界では、万能の力は『魔法』として発現する。お前が口で言ったことがオートマチックに魔法として発動する」
「なんでもできるのか?」
「そこまでではない。その世界の魔法で実現可能な範囲までだ。その範囲はその世界で得られる知識や経験で掴むが良い」
「なんか、アバウトだな」
「なお、新たな世界の言語はお前の居た世界とは違うが、会話と読み書きは出来るようにしてある」
「それは助かるね」
「ではそろそろ時間だ……健闘を祈ろう」
「どうも」
そして俺は、新たな世界に舞い降りた。