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ガリア本土決戦

本作をお読みになる前に。

ストーリーの変更により本作九七部分『コンピエニュの戦い・7』の一部を改編いたしました。

具体的にはガリア王ルイ十三世が戦死していた点を変更いたしました。

お手数ですがご了承ください。

「ふーむ、負けたかぁ。あの魚共を退けるなんてメリアの軍は強いな」

「感心している場合ではありませんよ!!」



 場違いなほど悠長なブリタニア王という存在は家臣の逆鱗に触れていた。

 だがその怒りも空襲を告げる鐘の音にかき消えた。



「陛下、退避ください!!」

「今更どこに逃げろというんだい?」



 するとブリタニア連合王国軍司令部にワイバーン特有の甲高い威嚇音が響いた。それを発したのはブリタニアの防空網を突破した二騎のドラグ大公国軍騎だった。

 両の翼端を青く塗装した騎と、片翼を赤く染めたそれは地を這う様な高度でブリタニア連合王国軍に迫るや、蒼穹に向けて急上昇。運動エネルギーが切れるまで空に上り詰めるや、失速直前で宙返りをすると共に攻撃目標である陣幕へとその竜首をめぐらし――。



「敵騎! 直上!! 急降下ッ!!」



 直撃弾だな、とクローバーはその二騎を見つつ悟った。

 その腹に括りつけられた擲弾が切り離される瞬間を今か今かと見続け、見続け、見続け――。



「ん?」



 ワイバーン達は地面に激突するのではないかと思うほど高度を下げたかと思うと反転。上昇しながら飛び去って行った。



「投弾の機を逃がしたのか? ふぅ、運が良かった。さ、陛下。今のうちに退避を」

「いや、我が軍の防空網を突破するような騎手がそんなへまはしないだろう。それともこれはぼくの過信かな?」

「故意に投弾しなかったと? ならばこれは警告ですか?」

「もしくはメリアの温情だね。まったく、賢いのか、バカなのか」



 プルメリアは物事の本質を見抜く怜悧な頭脳を持ちながら、蜜のように甘いところがある。その緩急の差にクローバーは魅了されていた。

 もし生涯を共にすることがあればその頭脳で共に国を栄えさせ、私生活ではその愛で優しく包んでくれたことだろう。

 だから王としての責務から正妻は無理でも愛人として囲いたいと常に心に抱いていたのだが……。



「彼女の愛を独占するなんて妬けるね、あのオークは」

「はい?」

「なんでもない。それよりプルメリア殿下に謝罪の手紙をしたためるから用意を」

「御意」

「さて、殿下への謝罪も大切だがぼやぼやしていると幕が落ちてしまう。その前に舞台へ駆け上がるとしようか。近衛擲弾兵連隊へ伝達。攻撃前進、魔族と共同して異端者を掃滅せよ!」



 役者がかった王の命令は素早く下達され、紺青色の軍服を着込んだリザードマン達が軍靴の音も高らかに戦野を進んでいく。

 それを丘から見下ろしていたルイ十三世はほくそ笑む。そんな彼は王らしい豪奢な鎧を脱ぎ捨て、小ざっぱりとした格好をしていた。その様は王というよりも身綺麗な商人のようだ。



「死に体の朕に、いや、ガリアにこれほどの軍を遣わしてくれるとはな。おかげで戦の最中に死ぬことができる」



 元来、病弱で戦野に立つことがなかったルイ十三世は幼少の頃は戦絵巻の主人公に憧れを抱いていた。

 だが自分の最期が絵巻物のようになるとは露ほども思っていなかったが。



「床で迎えを待つと思っていたのだがな。皆もそう思うであろう?」



 彼が振り返れば退却を命じたはずの軍の一部がそこに残っていた。

 王への忠義者や、ルイと同じく未来を嘆いて玉砕を選んだ者、そして異世界からやってきた黒髪の少年。

 仮にも撤退は勅命だというのに、そこには百名足らずの逆賊が王の命令を待っていた。



「オドル、お前に限った話ではないが、落ち延びてはくれまいか?」



 だが少年は首を横に振る。

 すでにオドルは自分がどれほど罪深いことをしてきたのか、そしてそれが許されるべきではないことを悟っていた。

 だからこそ親友であるルイではなく、ルイ十三世と共に死地に赴く決心がついていた。



「そうか、子供にそんな決断をくだすとはな。この世界にこなければ平穏に一生を終えただろうに、すまないことをした。どうか許してほしい」

「違う。違うんです。僕は、僕自身が許せないのです」

「そうか、ならば許しを得られないもの同士だ。僅かの間だが供をしてくれ」



 子供をこんな目に合わせるとは、まさに自分は愚かな王であった。だがそのような王にでも、未だに付き従う家臣がいる。

 ルイ十三世は儀礼以外で初めて剣を引き抜いた。



「星々よ! 王国を失う王を許し給うな! 国の陥落とともに、朕は死なん! 逃れんとするものを助け給え! 死なんとするものは朕とともに戦い続けよ! ガリア王国万歳ッ!!」



 誰からともなく万歳三唱が沸き起こる。この場に残った全員が王国と自分の終焉を確信し、通常の精神では受け止めきれない絶望と恐怖に苛まれていた。それは一周まわって悲壮な自分に酔っていたともいえよう。いや、そうすることで精神の均衡をとろうとしていた。



「突撃ィ!!」



 剣が振り下ろされると共に、百名足らずのガリア王国軍は最後の突撃を敢行する。

 無謀さを勇気で虚飾し、彼らはただただ駆けた。

 だがそこへ「右前方に敵騎兵!」と誰かが叫ぶ。



「あれはセントールにデュラハンか?」



 ルイ十三の視線の先には半人半馬の魔族に、首のない騎士達を率いるオークが映っていた。

 そのオークはオーガと見間違うほどの巨躯を誇り、額からこめかみにかけてザックリと生々しい傷痕が王冠を思わせていた。



「あれが朕の死神か……!」



 王は臣下達にその剣先で攻撃目標を告げると、彼らはそれに応えて馬首をめぐらす。

 それに気がついたオークは短杖で騎兵に指示をだすと、セントール達を押しのけてデュラハン達が前面に躍り出てきた。

 強力な衝撃力を発揮する重装騎兵の極致といえる胸甲騎兵(デュラハン)連隊は先の国民衛兵隊襲撃でその数を五百まで減らしていたが、それでも今のガリアにとっては気休め程度の消耗でしかなかった。



「ガリア王国万歳!!」



 喊声と金属と肉のぶつかり合う音が空気を満たす。

 オドルは自分めがけてサーベルを振り下してきた死者の一撃を危なげなくいなすと、そのまま死者の戦列を駆け抜けようとした。

 その時、背後から「陛下!」という悲鳴に思わず後ろを見ると、馬上から崩れゆくルイ十三世がいた。



「朕に構うな! すすめぇぇええッ!!」



 すぐにその姿は死者の波に飲まれ、定かではなくなる。

 だがオドルはそれに構う事無く、駆け続けてアンデッド達を振り切る。するとそこには歩みを止めたセントールの一団と、あの禍々しいオークがいた。

 オークはセントール共になにかを指示していたかと思うと、眉をひそめながら頷く。すうとサーベルを掲げた二騎のセントールが蛮声と共に駆け寄ってくる。



「ラピタ! 先行し過ぎだ! 速度を落とせ!」

「うるせぇ! オレァ人間なんて許さない!!」



 騒がしい二騎を前にオドルは身を低くしながら巧みな槍捌きで先頭のセントール――ラピタと呼ばれた方のサーベルをすくいあげるように弾き飛ばす。そこに二撃目を与えようとしたが、セントールは怒りの形相とは裏腹に、一撃離脱という冷静な判断を下して駆け抜けていったためオドルの攻撃は空を切った。



「しまッ!?」



 腕が伸びきり、次の行動に移せないオドルに後続のセントールが襲い掛かった。もっとも彼はタイミング良くオドルの握る手綱を、そして返す刃で馬の尻を斬りつけた。

 その痛みに棹立ちになる馬だが、オドルは落馬の寸前に二撃目を放ったことで速度が落ちていたセントールの背をロンギヌスの槍で突く。



「まずは一匹……!」

「テメェ! よくもッ」



 オドルは受け身を取り、素早く起き上がりながら倒れたセントールからロンギヌスの槍を引き抜こうとする。だが肉に食い込んでいるため思う様に抜けない。

 槍越しに生物特有の柔らかさを感じながらオドルは乱暴に槍を抜こうとするが、それを許さないというように反転したラピタは背負っていた短燧発銃(カービン)をとり、着剣するやそれを槍のように構えて再攻撃をしてきた。



「死ねぇえええ!!」



 間に合わない。そうオドルが悟ると共に倒れたセントールの馬体に革のホルスターが取り付けられていることに気がついた。

 彼はそこから素早く拳銃タイプの燧発銃(ゲベール)を抜くと、素早く撃鉄を引き起こし、目と鼻の先に迫ったセントールに向けてトリガーを引く。

 轟音と白煙、そして火花が視界を奪う。

 そして大きな影が煙の幕から倒れるように現れ、オドルの腕を斬りつけた。



「ぐあああ!!」



 傷口が耐え難いほど熱く、思わず膝をつくとそのすぐ近くにセントールは倒れ伏した。

 オドルの弾丸は過たずにその胸を貫いており、彼の喉からは喘鳴が漏れるのみだ。いや、苦しげな呼吸音に混じって誰かの名前がかすかに聞こえる。



「え、エーリカ……。オレァを、迎えにきてくれたのか? えー、りか。あぁ! エーリカ。オレァはおまえを、愛し、て」



 光を失う瞬間を目撃したオドルの手から拳銃タイプの燧発銃(ゲベール)が零れ落ちる。

 それと共に、どうして――。という想いが去来する。その想いに耐えきれず、彼は胃の中のものを全て吐き出してしまった。



「う、うぇ。うぇ。くそ、どうして……。どうしてなんだよぉ!!」



 せっかく転移したのに、どうして敵に知性と理性があるんだよ!

 醜い化物だというのに、どうして誰かに優しく微笑むんだよ!

 魔族だというのに、どうして人間と変わらぬ営みをしているんだよ!

 みんな普通に暮らしているだけなのに、どうして僕達はお前達の街を焼かなくちゃならいんだよ!!



「お前らが心の無い化物であったならこんなに苦しまなかっただろうに!! あぁ! かみさま――!! どうして! どうしてなのですか!?」



 初めてのクエストで山賊と化したゴブリンを討伐した時のことだ。

 自分が読んでいたファンタジー小説と違って消えずに血を流すその骸が、生物を斬ったという生々しい感触が、ゴブリンの最後の命乞いが、オドルに取り返しのつかない過ちをしたのではないかと警笛を鳴らした。

 だが有史以来に渡って生存競争を繰り広げてきたこの世界の住人であるマリアの優しい歓喜に、オドルは警笛から目をそらした。

 そう、自分は主人公で、誤ったことはしていない。その証拠にマリアや冒険者ギルドのみんなは喜んでくれている、と。

 そして自分とこの世界の倫理観のギャップに苦しめられながらも、彼はゴブリンに襲われた村を助け、村人に感謝されたことを理由に自分は間違っていない、正しいことをしたのだと、ゴブリンたちの悲鳴を忘れて暗示をかけ、虚構を作り続けた。

 だが今、それは崩壊した。

 自分は誰かに感謝される冒険者などではなく、罪もない魔族を、奴隷を殺してきた殺人鬼なのだと、彼は理解してしまった。



「こんなのなんて、あんまりじゃないか……」



 その時、周囲に蹄の音が響くと共に右肩へなにかが当たる感触を覚え、オドルは涙でボロボロになった顔を向ける。

 そこには深紅の軍服に身を包んだオークがいた。彼が斬りつけた古傷が生々しく残る、あのオークが豪奢な装飾がつけられた拳銃を突きつけてきていた。



「悪魔の所業を重ねてきたというのに今更そのような顔をするな。お前は俺の敵だ。俺の憎い復讐相手だ。どうした? 悪魔のように笑い、俺に許しを乞え。なんでもするから命だけは助けてくれ、と懇願しろ。都合の良い時だけ人に戻るな」



 オドルは静かに首を横に振る。そして絞り出すように言った。



「……ヌーヴォラビラントを攻撃した時、【勇者】が二体の上位オークを倒した――。殺しました。【勇者】はその魔石を、貴方方の心臓を王に捧げ、それは王城の宝物庫に安置されたと聞きました」

「っ、父上と、母上の――」



 息を飲む気配をオドルは感じつつ、自分の罪深さに慄いていた。



「許してくれとは言いません。どうか殺してください。僕が貴方方にしてきた事のように……」



 その様にカレンデュラはオドルが絶望のただ中にいることを悟った。

 この残虐で不条理な世界に打ちのめされた彼を、カレンデュラはナイと出会った頃の自分と重ねていた。

 だがカレンデュラはあの日、全てが許されるということを知り、絶望の中でも生きることを自分で許した。

 だがオドルは主から“良し”と許されていることを知らない。



「憐れな餓鬼だな。いや、救いようがないといえるか……。だが、俺はお前を許してやることはできない。せめて同じ異世界人のよしみだ。一発で終わらせてやる」



 カレンデュラは銃口をオドルの頭に押し当てる。脳という器官を破壊すればアンデッドとしても起き上がれない。

 それが彼のせめてもの許しだった。



「主よ、どうか迷える彼の者を導き給え。汝に星々の恩寵があらんことを」



 オドルが震えながら目を閉じる。

 そして一発の銃声が戦の終わりを告げた。


 ◇


 コンピエニュの戦いから一月。ルイは父――ルイ十三世の願いを無視し、降伏をよしとはせず、戦線はついにパリシィに迫った。

 そんな中、王城では疲れ切った家臣をルイは集め、作戦会議を開いていた。



「殿下、敵は広範囲に渡って進撃中で、すでにパリシィは包囲下にあるといっても過言ではありません」

「……南部の諸侯が来れば大丈夫だ」



 だが家臣達は顔を見合わせ、一人が「殿下、南部諸侯は……」と気まずそうに口火を切った。



「南部諸侯は領地の防衛で手一杯で、もはや我々を救援する力は……」



 その言葉にルイはわなわなと震えながら側近だけを残し、他の者を退室させる。

 そして扉が閉まると共に――。



「命令をしたのに! 南部諸侯にパリシィを救援しろと!! 予の命令に背くとはけしからん!! その結果がこれだ。貴族の嘘つき共! 皆嘘をつく。傭兵もだ。皆下劣な臆病もので大嫌いだ!!」



 その勢いに押されながらも家臣の一人は「あまりにも侮辱です」と声を荒げた。

 だがその言葉は火に油を注ぐようなものだった。



「臆病な裏切り者! 負け犬だ!! ばーかッ!!」

「い、いくら王太子殿下といえど――」

「貴族共は人間族のクズの恥さらしだ! 畜生めぇええッ!!」



 ルイは机に転がるペンを床に叩きつけ、いつになく怒りをあらわにする。



「どうして予の計画をいつも台無しにする!? あらゆる手を使って予を邪魔し続ける……! 予もやるべきだった、部下の奴隷化を、オドルのように!」



 そしてルイは疲れたように椅子に身を預けた。

 その様に家臣達は再び視線を交錯させ、侍女に巷で流行っているポーションであるローダナムを持ってこさせる。

 ルイは無言でそれを煽ると、力無く言った。



「予の命令は届かない。こんな状態ではもはや指揮は執れない。もう終わりだ。この戦争は負けだ。だが言っておく。予はパリシィを去るくらいならいっそ自害する。……皆、好きにしろ」



 そこに野心に燃え、侵略という国家の拡大に邁進していた王太子の姿は、なかった。

 それと共に家臣の多くの心はルイから離れ、来る敗戦においてどう生き残るかを考え、水面下で奔走するようになる。


 ◇


 絶望に包まれたパリシィの戦いはそれほど長くは続かなかった。

 抵抗を指示していた王太子ルイは王城にて自決(ローダナムに含まれる阿片の過剰摂取による中毒死とも、和平派による謀殺ともいわれているが)すると、すぐに開城交渉が始まった。すでに兵站の限界を迎えていた北部軍はこの申し出を快諾し、絶滅戦争の様相を帯びていたこの戦争は一気に終極へと向かいだした。


 また、王位継承権第一位だったルイの死亡が確認されるとディーオチ・ド・ガリヌスは政治的空白を回避するため王位を僭称し、戴冠式を強行した。

 その火事場泥のような戴冠式を認めぬ貴族もいたが、ルイに代わる王位継承者である第二位のシャルロットの戦死、第三位のマリアはディーオチと婚姻して彼に王位継承を託すことを認めているとあってそれを追認することとなる。

 そうしてガリアの実権を握ったディーオチと王妃マリアはただちに全軍に停戦の勅を発布し、北ガリアを荒廃させた戦争は終わりを迎えた。


 そんな中、パリシィの王城ではオーガと見間違う巨躯を誇るオークが二つの魔石を抱え、涙を流していたという。

 こうして一匹のオークの復讐譚は幕を閉じた。


最後の総統閣下パロは許して。

本当は魔族に突撃して戦死の予定だったのですがルイ君がヒトラーみたいとご指摘があったので悪乗りしてしまいました。

その代りコンスタンティヌス11世プレイでかっこよくルイ十三世を戦死させられたので満足しています(ルイ君が「神よ王国を失う王を――」ってやっても映えませんからね)。


また、作中のセントールは本作第29部分『電撃戦・1』に出てきた娘を冒険者に殺されてしまった奴です。



さて、この度は長きに渡って本作にお付き合いくださった読者の皆さまにお礼を申し上げます。

皆さまのおかげで無事に本編終了と相成りました。


ラストはかなり悩みました(総統閣下パロのとこじゃないですよ)。

これで良かったのかと今でも思っております。私にはそう快感を引き出す文才がないようで……。

エピローグの予定では戦後の話や勇者の最後を入れられればと思います。


それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 途中まで読んでん?と思ってるいたらまさかのガリア(フランス)で総統閣下シリーズが来るとは思わなかったwww
[一言] 小ルイ「スターリンッ!」 貴族「スターリンって誰だろう…」 小ルイ「おっぱいプル~ンプルンッ!」 貴族「頭が…」
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