ピオニブールの戦い・6
混戦の続くガリア軍左翼では当初こそ物量に裏打ちされたガリア軍の優勢の下、突破の糸口を掴もうとしていた。
だが、デモナス大公ゾンネンブルーメ・オーガロード・フォン・デモナス率いる増援の到着により辛うじて戦線の決壊を防ぐこになった。いや、薄氷を履むが如し均衡という名の混迷をもたらしたといえよう。
そんな地獄のような戦場でただただ勝利を信じ、戦う【勇者】がいた。
「はあああッ!!」
裂帛の気合とともに振るわれた一撃が燧発銃ごとオーガを切り伏せ、頬を伝う汗と返り血が混じる。
周囲は血と死の臭いが酔いそうなほど充満していた。
だがジャンヌは高潔にも周囲から助けを求める者を探し出し、その窮地を救うために奔走していた。
彼女が走るたびにオーガの屍が積み重なり、ガリア人の賞賛が投げかけられる。
「さすが【勇者】様だ!」
「みな! 【勇者】に後れをとるな!!」
「正義は我らにあり!! 【勇者】殿に続けッ!」
如何に身体能力の差があろうと彼女の叱咤を受けた者は騎士だろうと傭兵だろうと一様に己を奮い立たせ、自分にされたのと同じように仲間のために得物を振るいだす。
そのせいか彼女の周囲だけ異様に士気の高い戦闘集団が生まれ、オーガを圧倒し始めた。
そんな獅子奮迅の働きを示す集団を目印に丘から一騎の騎士が駆け降りてきた。
「伝令! 本営より伝令! 【勇者】殿はいずこ! 【勇者】殿!!」
「ここです。どうしたのです?」
ジャンヌは周囲が壁のように魔族を押しとどめていることを確認するや、騎乗した伝令を呼び寄せる。
伝令もそれを確かめるや鞍にくくり付けられていた革鞄から封蝋もされていない羊皮紙を差し出してきた。
そこには荒いルイの筆跡で【勇者】の速やかな撤退を命じる旨が記されていた。
「――ッ! なぜッ!? あと少し、本当にあと少しでで戦線を突破することができるのですよ! それなのに――」
「そ、それが王都より勅使が参られたのです。【勇者】殿の即時王都帰還を陛下が望まれておられると」
「こ、国王陛下が? 一体どうして?」
「落ち着いて聞いてください! 本日より六日前、星字軍遠征の名の下に魔族が低湿地同盟国へと侵攻したのです!! その数は十万を超えるとか!!」
「なッ!?」
オドルを始めとしたガリア王国軍がピオニブール解囲を目指して進撃を開始した頃、神星魔族帝国は南部軍による補助攻勢作戦である『黄色』作戦の順調な推移を認め、対ガリア主攻勢作戦計画『赤色』を発動。プルーサ王国西端に集結していた北部軍二十万が一斉に低湿地同盟国へ侵攻を開始したのだ。
もともと低湿地同盟国においてもガリアを端にした異端の蔓延が確認されており、それと共に宗主国であり、教皇庁に親しいイスパニア王国からの独立運動にも火がつこうとしていた。
そのため神星魔族帝国とイスパニア王国は星字軍遠征に合わせて共同出兵する秘密協定が取り交わされており、神星魔族帝国軍はプルメリア・フォン・リンドブルム・オルク率いる北部軍が地上から、イスパニア王国艦隊が海上から低湿地同盟国を挟撃したのだ。
「教会関係者からの報せによりますとイスパニア王国は上陸作戦を敢行して主要港を占拠し、魔族共は国境防備のためのリエジュの要塞線を攻略したとか。低湿地同盟国の降伏も時間の問題です。ですが、イスパニアはともかく魔族共の狙いは低湿地同盟国ではなく、大軍の通行に適した大街道であることが予想されます!」
低湿地同盟国の首都ブリュセルからパリシィまでは交易のための大街道が整備されているが、その防備は薄いといわざるを得ない。
これはイスパニア系エルシスの血が流れる低湿地同盟国を魔族が犯した場合、エルシス家を頂にするするエルフ系の国家群が報復として魔族に宣戦布告することが予想されたため、そんな愚行は出来ないだろうと防御施設の充実を後回しにしていたのだ。
しかし新教派を自称する一派による異端騒動がそんな世界情勢を塗り替えてしまった。
「畏くも国王陛下はルイ殿下旗下の軍団と【勇者】殿の即時帰還を望まれておられます! 特に【勇者】殿は一足早く王都に帰還し、魔族の襲来に備えてほしいとのこと!」
すでに北ガリア国境地帯を鎮護する主戦力であったガリヌス公爵家お抱えの騎士団は壊滅状態であり、エルザス騎士団に至っては魔族の包囲を受けて身動きがとれない。
そのため魔族の侵略に即応できるのはピオニブール解囲軍の後詰として動員された一万程度の予備戦力しかなく、これでは到底魔族の暴走攻勢を阻止することはかなわない。
だからこそ一刻も早くルイ率いるピオニブール解囲軍の転進が必要なのだ。
だが――。とは言えだ。
「で、ですが仲間を残していくことなど出来ません! それに、それにもう少しでここを突破できるんです! そうなればピオニブールを解囲することが――」
「勘違いされてはなりません。【勇者】殿の王都帰還は勅命にございます! 如何に【勇者】殿とはいえそれを無視するということがどういうことかお分かりでしょう!?」
「――ッ」
王の勅令を無視するのだ。本人が極刑に処されるのはもちろん一族郎党までその罪が波及することになるだろう。
故にジャンヌに選択肢はなかった。
「……わかり、ました」
「御心痛、お察しいたします。しかし貴女は戦友を見捨ててでも守らねばならぬ国と民がいることを、どうか忘れないでください。さ、参りましょう。我が愛馬にお乗りください」
唇をかみしめたジャンヌは今一度周囲を見渡し、後ろ髪を引かれる思いで伝令の馬に乗る。
この時点でガリア軍、ひいてはジャンヌ自身は【勇者】スキルの効力を過少評価していたと言わざるを得ない。
というのも【勇者】スキルとは身体的、魔法的能力の大幅強化により圧倒的な戦闘能力を得られるだけではなく、恒常的にパーティーメンバーの能力向上を与えるものであり、ジャンヌの戦線離脱によってガリア軍はスキルの恩恵を受けられなくなってしまった。
いや、スキルによる能力向上がなくなっただけではない。戦力の中心たる【勇者】が馬で去っていくのだ。他の者達は【勇者】ほどの者を一大局面である左翼から引き抜くほどのなにかが起こっていると悟ってしまった。
そのなにかに対して不安が萌芽し、士気を奪って成長するのは無理からぬことだった。
◇
「魔皇陛下御来入!」
歩哨が捧銃をして南部軍司令部に迎え入れたのは魔族国軍最高指揮官――魔皇リーリエ陛下その人であった。
このために作戦書や地図などの置かれたテーブルを端においやり、空いたスペースに司令部幕僚から星字軍遠征軍団の幹部一同が揃って膝を付き、最敬礼で尊きお方を出迎える。
「苦しゅうない。面をあげよ」
ゆっくりと陛下の御尊顔を拝すると、燃えるような赤色の御髪に意思の強い水色の瞳のなんと凛々しいことか。
その上、オーダーメイドで仕立てられた金糸のあしらわれた深紅の軍服がその印象をより強くさせた。むしろそのせいか、強迫観念とも、緊張ともつかぬ硬さを放ってしまっている気がする。
「陛下、発言の御許可を」
「許します。カレン。なにか?」
「はい、陛下。すでに作戦の八割は成功したといっても過言ではありますまい」
そもそも補助攻勢作戦である『黄色』作戦の主目的はガリア軍の誘引にある。その意味であればこうして会戦に持ち込めた段階で戦略的勝利を得たも同然であり、その上【勇者】を釣ることにも成功したのだ。
つまり二十万を誇る北部軍の行く手を阻む敵はガリアに存在しないということになる。
逆に最悪のシナリオはガリア軍が戦力を温存したまま南部軍との戦闘を避け、北部軍の侵攻阻止に転進することだった。特にガリアが誇る【勇者】と共にゲリラ戦などをやられたら目も当てられない。
それに北部軍の司令官である我が妻――プルメリア・フォン・リンドブルム・オルクの負担を少しでも和らげるのも夫の務めだろう。
だからこそガリア軍が会戦を挑むようさんざん舞台を整えてやった。例えばガリア軍の進出を促すために対魔族国戦略の要たるピオニブールの包囲し、わざと戦場を一望できる高地をほぼ無抵抗で明け渡し、そこから右翼の戦力が希薄であることを観測させてやった。要は敵の指揮官に勝てるかもしれないと希望を与えてやった訳だ。
もっとも相手が慎重な指揮官だったらこの作戦は破綻していただろうな。会戦とは両軍が野戦を志向しなければ起こりえない戦闘だ。もし片方の軍が接敵前に不利を悟り、逃げ出した場合もちろん会戦は起こらない。
だからこちらの策を見抜いたり、数的不利に怖じ気づいて会戦を避けたりされた場合、『黄色』作戦は失敗していたかもしれない。
つまり会戦が起こった時点で『黄色』作戦は完遂されたのであり、ついでに目の上のたん瘤である【勇者】も拘束できたのだから大成功といえよう。
例えこの会戦で敗れてもガリア軍主力が転進する頃にはすでに北部軍がパリシィに迫っている頃合いだろうから戦略上問題ないし、全国民に総動員をかけているので戦力の補充も容易にできる。
「全ての準備は完了しております。なにも心配はございません。陛下はただ一言我らにお命じになられればよいのです」
「うん――」
ハッとした。その苦悩を押し隠す瞳に、思わず息をのむ。
そうか、例え万端の準備を整えたとして、損害がゼロで終る戦はない。その数字を小さな身体で背負おうとしておられるのだ。
その痛ましい姿に目を伏せたくなるが、あえて陛下のご尊顔を直視する。
「陛下の赤子達に星々の恩寵があらんことを、祈りましょう」
「……うん、ありがとう」
力なくうなずかれる幼き皇帝陛下に対し「御心痛なされることはありません」と涼やかな声がかけられる。
それはともに平伏していた星字軍遠征軍団長のナイ大司教だった。
「この戦は主が我らに与えられた試練です。その試練のために斃れる者を主は必ずやその御手で御救いになられることでしょう」
「そうね……」
「陛下、心苦しくはありますが、そろそろ」
「うん。では魔皇リーリエの名において命じます。所定の作戦に従い、全部隊は行動を開始せよ」
「復唱します。所定の作戦に従い、全部隊は行動を開始せよ。参謀長! 全軍に宛て命令を――」
「あ、まって」
思わず言葉を飲み込むと、リーリエ陛下は逡巡しながらも力強く命令を追加した。
「“ただの一撃で、この戦は終わる”そう付け加えてください」
「――! はい、仰せのままに!」
なるほど、終りが見えれば兵もこの一戦のために奮起するというもの。さすがは陛下だ。兵の心をよく分かっておられる。俺も見習わなくては……!
即座に命令を付け加え、伝令が飛び出していく。
さぁ終わりにしよう、猿獣人どもめ……!
◇
魔族国軍左翼にて待機させられていた煌びやかな騎士達が陽光に負けず星々へ祈りを捧げているおり、そこへオークの伝令将校がやってきた。
オークはその先頭で星書を読む星字軍遠征軍副軍団長であるトマス・デ・トルケマダに報告する。
「大司教殿、南部軍司令部より伝令であります」
「読んでいただけますか?」
「ハッ。発、南部軍司令部。宛て、星字軍遠征軍参加騎士団。魔皇リーリエ陛下より第三段作戦実施の発令あり。速やかにこれを遂行すべし。追伸、ただ一撃でこの戦は終わる。以上です」
「ただ一撃でこの戦は終わる、ですか。なるほど了解いたしました。命に従いましょう」
互いに礼を交え、オークが去っていくと“神の犬”と畏怖されるイスパニア異端審問所の審問官は鋭く「騎乗!」と命じればキビキビとした動作で三百の騎士が愛馬にまたがり、その従卒達も攻撃命令に備え、得物の柄に手をかける。
在野の騎士とは違い、厳しい修道生活と鍛練の日々に裏打ちされた統率のとれた行動にトルケマダは主へ感謝を捧げるとともに胸の前に五芒星を切った。
「皆の集! いよいよ出陣である。主のためとはいえ、我らと同じ星神教徒に剣を向けるとは非常に悲しいことだ。しかしこれも主が与えたもうた試練である。今こそ涙を飲んで異端に落ちた同胞を救済する時!! 抜剣!!」
金属のこすれる音と共に凶刃が踊りだす。トルケマダはその切っ先を丘に向け、天に届くように叫んだ。
「この一撃にて悪魔にそそのかされし善良なる子羊達の魂を救済する! この世のあまねく者に星々の恩寵があらんことおをッ!! 全軍突撃ぃ!!」
蹄が力強く大地を蹴り、騎士やその従卒達が駆け出す。
それと共に各所で突撃ラッパが吹奏され、南部軍右翼を守備していたオルク王国軍第一、第三師団の銃兵も前進を始めた。
そんな中、どちらの師団にも属さぬ白色の軍衣をまとった一団も行動を開始した。その兵士達は誰もが一様に美しい者達ばかりであり、そして耳がピンと天に向かって尖っていた。
その一団――義勇猟兵旅団“エルフ”を率いるハルジオン・エルルフェルスト・フォン・エルザスはかつての家臣や亡国の再興を願ったエルフ達を見渡しながらサーベル状の軍刀を抜く。
「魔皇陛下はこの一撃で戦を終えるつもりのようだけど、これは故国解放の第一歩であり、始まりにすぎないわ。そう、これは終わりではなく始まりの一撃よ!! ここに一切の蛮勇をここに禁じ、共にエルザスを再興させるその日まで死ぬことを禁じるわ!! エルザス公国万歳!」
強い団結心を抱くエルフらしい情熱的な士気の高まりを見せる兵にハルジオンは一瞬だけ丘に視線を向ける。
丘から響く轟音はまぎれもない銃声であり、銃の特製をガリアで唯一理解しているであろう元ご主人様がそれを率いているのは明らかだった。
だからこそ、と彼女はまっすぐに自分の理想に、自分達の夢にはせ参じたエルフを見据える。
「攻撃目標、前方の仮称七〇高地! 突撃にぃ、進めぇ!!」
空が割れんばかりの喊声と共に銃剣を輝かせてエルフ共も進む。
そんな身一つで敵地に突き進む憐れな銃兵を支援せんと軍特火や軍法兵も遅れじと丘へ進出する。
しかし当の攻撃目標である丘からの反撃はほぼ皆無に近い。
何故なら丘では元高ランク冒険者である素質のあったモノ達が殺戮の限りを尽くし、傭兵は玉砕の憂き目にあっていたからだ。
そんな中、悲劇だったのは塹壕に取り残されつつあった哀れな奴隷達であった。
彼女達の主であるオドル・ハトラクはかつて【剣聖】と呼ばれたデュラハンとの死闘にかかりきりで指揮どころではなかった。
「御主人様! て、敵の新手が――! どうすればいいのですか!?」
しかしその悲鳴は主人に届くことはない。狭い塹壕の中、オドルはガリアの二大戦力の一柱であった【剣聖】と闘わねばならず、少しでも気を抜けば死が待っているため指揮はおろか返事さえもすることができなかった。
周囲の奴隷も愛すべきご主人様を助けようと機をうかがうが、高レベルな戦いに無策で介入してはオドルの足を引っ張るだけになるため右往左往するしかなかった。いや、彼女達の背後には傭兵を下したデュラハンやデスナイトがおり、前方からは手薄になった丘を奪取せんと修道騎士団やエルフの義勇兵が迫る。
すでに勝敗は決したといっても過言ではないだろう。だが決断を下すべき主からの命令がない現状、奴隷達は目についた敵を攻撃する以外の選択がなく、そんな散発的な攻撃に効果があるはずがない。
だがそれに気づくことができなかったオドルは何度とどうしてと問うていた。
「やめてくれ! どうしてなんだ!? どうしてぼくたちが戦わなくちゃいけないんだ!」
だが死者が返事をする訳がない。
反乱防止のために高位の術者が施したネクロマンシーにより剣を振るうだけの人形となってしまったエトワールは一切口を開くことも、容赦もなくオドルに切りかかってくる。
そんな【剣聖】の躯に対し、オドルはできるだけ彼女を傷つけないようその攻撃をいなし、弾き、拮抗状態を作って説得を試みるが、死霊術の“し”の字も知らないオドルの言葉はまったく意味を持たなかった。
むしろオドルの体力ばかりが消耗し、その動きから精彩さが失われていく。
だがそれでも彼は思わずにはいられなかった。
どうして、と。
「エール! やめてくれ、目を覚ましてくれ! お願いだ! どうして――! どうしてなんだッ!!」
魔族から街を守るはずが、一度目は大火を起こされ、多くの死傷者が出た。二度目は街を失ったばかりかハルジオンもエトワールも失った。
こんなはずじゃない。こんなはず、あって良い訳ないだろう。
そんな怒りに任せた一撃が逆袈裟に放たれ、エトワールの握るサーベルを弾きあげる。得物を奪うほどの一撃ではなかったが、衝撃によって態勢が崩れたエトワールに向け、オドルは踏み込むやその首元に穂先をピタリと張り付けた。
「はぁはぁ。勝負、ありだ。剣を捨て――」
だがエトワールはそれに構うことなく踏み込む。ずぶりと穂先が首元に吸い込まれると共にその衝撃で頭がポロリと落ちるが、それに構わず振り上げた腕が振り下ろされる。
「あ」と間抜けな声が周囲の喧騒に飲み込まれると共に彼のこめかみに凶刃が吸い込まれた。
オドルは糸の切れた人形のように塹壕の底へ沈み、鮮血の花を咲かせる。その暖かなものが先に地面に落ちていたエトワールの頬を濡らす。しかしガラス玉のような瞳は陰ることなく体が無造作にそれを持ち上げ、首に乗せなおす。
「……オドル?」
その声にデュラハンが視線を向けると、そこには一切の表情がかき消えた友がいた。
その様にデュラハンは何かを思い出すように硬直するが、すぐに塹壕を飛び出し、丘のふもとへと駈け出した。それにつられるように他のデュラハンやデスナイトも後退をはじめ、塹壕の周囲に束の間の静寂が戻る。
それは死者達を再編し、再攻撃をしかけるため戦闘の中止と丘からの撤退を胸甲騎兵連隊本部が命じたからだ。
くしくも敵に助けられたマリアはただただ呆然と愛する者にすがりつき、その名を叫ぶ。
だがその慟哭を許すほど、魔族国軍は甘くはなかった。
◇
攻勢を開始した南部軍左翼は当初、仮称七〇高地より撃ちかけられる――それも自分達の倍以上の射程から放たれる銃撃に混乱が広まって潰走する部隊もあったが、激戦の末に丘を奪取してガリア軍の退路を遮断することができた。
そこへ南部軍の総攻撃としてオルク王国第一師団やゴブリシュタット公国第四師団が到着するや完全に丘を制圧し、返す刀でデモナス王国第三師団と死闘を演じていたガリア軍の背面へと襲い掛かり、これを包囲殲滅させた。
しかしガリア軍を指揮するルイや【勇者】を始め一万五千程度の兵力が魔族の攻勢直前にかろうじて脱出することに成功した(不運な者はピオニブールへ逃げこむことができたので戦死者数は三、四千ほどだろう)。
これによりガリアは当初の作戦目的であるピオニブールの解囲はおろか、いたずらに戦力を消耗し、戦略的、戦術的敗北を喫したといえよう。
それに対して勝利したとは言え消耗を強いられたデモナス王国第三師団は壊滅的損害を被り、再編成のため速やかな後送が必要なほどであった。
もっとも師団長であるゾンネンブルーメ・オーガロード・フォン・デモナスは後送を固辞して前線に留まる意向であったが、戦働きを評価した魔皇リーリエは感状と共に防衛線の柱となった師団直轄第六五三銃兵大隊に部隊名として“オーガ”の名を授け、速やかな再編成を命じたことでゾンネンブルーメが折れる形になった(事実上の名誉回復といえよう)。
こうして戦略的、戦術的勝利をおさめた南部軍の『黄色』作戦は大成功に終わり、『赤色』作戦を遂行する北部軍は大手を振ってガリアの地を踏む準備が整った。
そしていよいよ戦場はガリア本土奥地へと伸びていくことになる。だがガリア側にすでにそれを阻止する戦力はほぼ残されていなかった……。
はい、元ネタは三帝会戦を異世界でやりたいというコンセプトな今章は完結です! お付き合いのほどありがとうございました。
次はいよいよ終章であるガリア本土決戦編となります。
どうかよろしくお願いいたします。
それではご意見、ご感想をお待ちしております。




