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ピオニブールの戦い・3

「ルイ殿下! ご報告申し上げます。魔族共は卑怯にも地面に穴を掘って我らを待ち伏せしておりました!! そのせいで我が方が矢を放っても穴に隠れられて効果が薄く、援護の少ない中、一気呵成の突撃を敢行するも武運拙く敵陣を突破すること叶いませんでした……。ただの平野での戦であればあのような雑兵など一撃で蹴散らせるというのに、悔しゅうございます!!」



 攻撃の第一波から帰還した騎士の報告にルイは動揺を皮膚の下に押し隠し、平静を保つ。

 【勇者】ジャンヌの警告は敵の強固な防御陣地のことを示唆していたのだろうか? だがこれならまだ許容できる。



「右翼の状況は?」

「はい、オドル殿が守備に赴かれましたが、現状動きはありません。敵は丘の下に留まったままです」

「……左翼に再度の攻撃を仕掛けるべきか? それとも右翼に矛先を変えるべきだろうか?」

「ならば断然左翼に再攻撃を行うべきかと。敵が左翼に留まらず全線に渡ってあのような陣地を構築しているのであれば、局所的に数的優位を生み出せる左翼を攻撃するべき、かと」

「あのような堅陣が全域に広がっているというのか?」

「それはなんとも。しかし魔族と侮るより最悪を考えて行動すべきだとは思います。少なくとも我らが着陣するまで魔族に時間を与えてしまっております。そのことを考慮するべきかと」



 眼下に見える全てに敵が穴を掘り、待ち伏せをしているのかという疑問と所詮は魔族の浅慮という慢心を追いやり、従卒の言葉を吟味する。

 確かに強力な防御陣地をすでに構築しているのなら、少しでも優位な箇所へ攻撃を行うべきだろう。

 それに、まだ許容範囲とはいえ出血を強いられたのだ。その犠牲を無駄にすることはしたくはない。そんな思いから彼は決断を下した。



「その案を採用しよう。他に注意点は?」

「敵のあの攻撃ですな。特により大きな音と共に全体攻撃をしてくる――」

「”たいほう”か。確かに厄介だな」



 同時詠唱と同規模の破壊力を有する敵の攻撃が友軍の進出を阻んでいるのは火を見るよりも明らかだ。

 ならばそれに対抗可能な火力を投入するしかない。



「同時詠唱の出来るマジックキャスターを含めた第二波を左翼へ。一気に敵を削り、突破口を開く」

「よろしいのですか? 同時詠唱が行えるマジックキャスターは近衛で六十人、全体でも八十人しかいない貴重な存在ですぞ。手元に残し、敵の主軍が右翼を襲ってきた時の備えにするべきでは?」

「敵が行動を起こす前に我々が左翼を突破してしまえばよかろう。マジックキャスターの同時詠唱と共に近衛騎士団を以て左翼の敵を掃討させるのだ。そして間髪入れずに予備戦力を投入し、敵を包囲してしまおう」



 虎の子の戦力の投入に従卒は難渋するが、第一王子の命令を拒むこともできず、出撃準備を命じる。

 そこに、敵の轟音を発する武器に馬が混乱し、戦列が乱れることをルイは恐れ、攻撃を確実なものとするため下馬攻撃を行うよう伝える。



「殿下、攻撃準備が整いました。近衛騎士団五千、マジックキャスター五十の大軍団です! 必ずや敵戦線を突破できることでしょう」

「ならば期待しよう。では攻撃開始! 連中に風穴をあけよ!」



 そして命令一下、近衛騎士団が動く。

 他の私設な騎士団とは違い、規律を重んじる近衛達は粛々と丘を降り始める。それらに先んじるように騎乗したマジックキャスター達が一足早く戦場に乗り込むや、準備法撃を始めるのであった。


 ◇


 弟六五三銃兵大隊は塹壕の中に倒れた仲間や敵兵の死体を外に運び出す作業をしているところ、敵の第二波が接近してくることに気がついた。



「作業やめ! 作業やめ! 総員戦闘配置!!」



 作業を監視していた大隊長のオーガの叫びに兵士達は死体を放り投げ、塹壕に飛び込むや素早く銃列を敷く。

 しかしガリア軍の第二陣は先ほどの猪突猛進とした攻撃ではなく、塹壕から五百メートルほど離れた地点で停止してしまった。



「何のつもりだ? おい、攻撃待て!! 攻撃待てッ!! 別命あるまで待機!!」



 違和感を覚えた大隊長が目を凝らすと相手は騎乗した者が居ないばかりか、整然と密集陣形を組むばかりだ。

 そんな集団から何人かが突出し、円陣を作ると杖を掲げる。



「同時詠唱か!? 総員、対法戦闘! 銃兵は魔法の飛来に注意しろ!!」



 命令と復唱が塹壕を駆け抜け、銃兵はいつでも塹壕に潜れるよう身をひそめ、特火は装填と敵マジックキャスターの観測を始める。

 しかし陣容を整えたマジックキャスターの詠唱の方が早く終わり、彼らの陣地に十個の火球が迫った。

 緩い放物線を描いた火球の半数が塹壕に降り注ぎ、着弾と共に爆ぜる。それと共に大地とオーガが耕され、脂っぽい土煙が周囲を覆う。

 その様に大隊長は「初弾から当ててくるとはなんて正確無比な攻撃だ」と舌を巻いた。だが見かけが派手な魔法攻撃ではあったが、ジグザグに掘られた塹壕陣地は直撃を受けても爆風の殺傷範囲がその区画にとどまるためそれほどの打撃を与えられなかった。



「伝令! 大隊長殿! 師団特火中隊より対法戦準備完了とのことです!」

「別命あるまでこれより射撃自由と伝えろ! 騎馬特火にも伝えておけ!」



 怒声でしか会話できぬ塹壕の中で命令が特火中隊に伝わるや、お返しとばかりに師団特火や軍司令部より派遣された騎馬特火が次々と火炎を吐き出した。

 しかし一〇三ミリ野戦砲や八四ミリ野戦砲のキャニスター弾は面制圧に優れるもののエネルギーロスが大きすぎるため射程が五百メートルに届かない。だから五百メートル以遠で立ち止まるガリア軍を攻撃するために一粒弾を使わなければならないのだが、こちらは命中精度も悪く、面制圧もできないためガリアのマジックキャスターに効果的な反撃が行えないでいた。



「特火は何をしている……!?」



 砲声と魔法の着弾音に歯ぎしりが紛れるが、それと共にマジックキャスターが作っていた円陣の一つが吹き飛ぶ。

 それに歓声が塹壕中に響き渡り、兵士達を勇気づけるが、その次の瞬間には火球の直撃を受けた野戦砲が装薬を誘爆させて派手に飛び散る。

 正確無比にして御親兵の誉れ高い近衛騎士団所属のマジックキャスターが押していた射撃戦は次第に修正射を終えた特火によって盤面が覆ろうとしていた。

 その転機を阻止するためか、それとも準備法撃の効果ありとガリア軍が認めたのか、待機していた騎士や従卒などが前進を再開した。



「くそ、奴らめ!! 伝令! 特火に伝えろ。対法戦やめ。銃兵支援に注力せよ、だ! 急げ!!」



 未だにマジックキャスターから強大な魔法が打ちこまれてくるが、五百名に満たない大隊など十倍の戦力差の前に易々と飲み込まれてしまう。

 如何に人間よりも優れる体躯を誇るオーガとて、今の不利を単身で覆すことなどできないのだ。



「まったく、こんな穴倉に押し込まれ、勝ち目のない戦に放り込まれるとは……。いくら賊軍とはいえ名誉ある戦も出来ぬとはなんて嘆かわしいことだ。これもゾンネンブルーメ殿下の御命令でなければとうに逃げ出していたな」



 彼らの主君の忘れ形見に懇願された作戦会議を思い出し、大隊長は自分こそデモナス一の忠義者だろうと苦笑しながら塹壕の底で魔法に怯えるオーガ達を叱咤する。



「もう少しの辛抱だ! 間もなくゾンネンブルーメ殿下が援軍を連れて来られる! それまで我々はこの地を死守するぞ! 今こそ我らの忠誠を示す時!! 構え!!」



 火力の応酬が続く中、命令と共に銃兵達が塹壕に銃口を並べる。

 この場の誰もがこんな墓穴のような塹壕から逃げ出したいと思っていた。しかし陣地という檻に閉じ込められ、デモナス家の家臣という看守に監視されている現状、逃げ場などどこにもなかった。

 だからこそ彼らは彼らの若き姫君に縋る様に祈るのだ。

 自分達を助け出してくれ、と。


 ◇


「彼らを助けに行かせてください! お願いします、オルク閣下ッ!!」



 嘆願の泣き声と最近ではとんと見なくなった籠手がテーブルに叩きつけられ、司令部がビリビリと揺れる。

 それをしたデモナス王国大公であるゾンネンブルーメ・オーガロード・フォン・デモナスの鬼気迫る表情といったらない(オーガ族だけにね)。



「ぞ、ゾンネンブルーメ様。落ち着いて下され」

「落ち着いてなどいられますか! あそこで戦っているのは我が家臣達なのです。中には父の代より我が家に仕える者もいるのです!!」



 デモナス王国で編制された第三師団の一部が守備する右翼は()()()()()()()ガリア王国軍の圧迫を受けていた。

 だが塹壕を主体にした野戦築城と、これを支援する師団特火の集中配備により倍以上の敵を押しとどめる敢闘ぶりを示してくれていた。

 しかし現状、最右翼へ敵の第二波が押し寄せており、伝令や見張りの兵士の言では危険なほど圧力を受けつつあるとのことだ。



「家臣や民を戦わせておいて、わが身だけこのような後方にいるなど耐えられません!! どうか、どうかこのゾンネンブルーメに出陣の御命令を!」

「単身で赴いてどうなるのです!? それにゾンネンブルーメ様は師団長ではありませんか。だというのに己の矜持を守るためだけに前線に赴かれるなど、師団を預かる者として無責任ではありませんか?」

「しかし――ッ!! 後生です! 後生ですから前線に行かせてください!!」

「ですからッ!!」



 どうしてこんなにバトルジャンキーなの? そりゃ、十中八九死ぬであろう戦場に家臣を赴かせたのだから責任を感じることもあるのだろうけど、それじゃダメなんだよ。

 統制された指揮系統はすぐに次席者が指揮を引き継げるよう徹底的なものを導入したが、だからといって自分の責任を放り投げて副官に指揮を任せる為ではないのだ(もっともここ三時間くらいの間に五回も伝令を送ってそれをことごとく断られ、いよいよしびれを切らして南部軍司令部に乗り込んできた気持ちを察することはできるが、それだけだ)。

 だがそれで引き下がる相手ならここまでのことにならなかったろうな。



「ゾンネンブルーメ様! ここに南部軍司令官として命じます。ゾンネンブルーメ様は直ちに第三師団司令部に帰投、爾後の命令を同司令部にて待て。おい、書記官、命令書を用意せよ」



 “命令”という言葉にゾンネンブルーメ様はギリギリと歯を軋ませ、鳥肌が立ちそうなほどの殺気を向けて来る。もう怖いからさっさと師団司令部に帰ってもらおう。

 そう思いつつペン先をインク壺に浸した時、セントールの将校伝令が現れた。



「第三師団司令部のスシル・フォン・ファフニール参謀長より伝令。宛、南部軍司令部。発、第三師団司令部。仮称第七〇高地より敵第三波接近中。総数およそ七千。敵主力の誘引に成功したと推察す。以上であります」

「ついに来たか……!」



 そして懇願するように強い握りこぶしを持つゾンネンブルーメ様に向きなおる。

 それと共にドラゴニュートの参謀長が「作戦を第二段階に移しましょう」と迫ってきた。

 そのトカゲに似た細い光彩にはゾンネンブルーメ様への同情も含まれているように思えた。もしくは俺が怒りに任せて右翼を玉砕させてやろうと考えているとでも思っているのか?

 だが残念。プルメリアの送ってくれたお薬のおかげで最近じゃ、そんなに怒り性ではないのだよ。



「よろしい。全軍に達する。各部隊は所定の構想に従い、第二段作戦に従事せよ。星々の恩寵が我らにあらんことを。以上だ」



 待機させていたセントールの伝令兵にあらかじめ作成していた命令書を配り、そのケツを叩くように司令部から彼らを追い出す。ハーピーの伝令兵がいれば少しは命令の伝達速度が向上するのだろうが、あいにく南部軍がワイバーンの主力をいただいたのでここは我慢するしかない。

 さて――。



「ゾンネンブルーメ様。南部軍司令官として改めて命じます。これより貴官は所定の作戦に従い、第三師団の予備戦力である二個銃兵連隊を以って右翼を堅固に()()し、最後の一兵になるまで敢闘されたし。以上です」

「――! 承知しました!!」



 彼女は甲冑の重みを思わせぬ身軽さで――それこそ放たれた矢のように南部軍司令部を飛び出していく。答礼する暇もなかったな……。

 それよりも師団長――それも大公が駆けていくというのは絵面が悪すぎるだろ。

 きっと部下達は大公ほどの者が走るほど緊急事態が起こっていると推察するだろうし、その緊急事態が悪いものだと妄想を膨らませるやもしれない。

 それは士気の低下を招き、用兵上非常によろしくない。やはり彼女は師団長の器ではないなと首を振るとドラゴニュートの参謀長が何かを悟ったのか、肩をすくめながら「嵐のような御仁ですな」と苦笑を浮かべる。



「連隊長くらいなら良いが、あれではな」

「あれは血でしょう。魔皇陛下に仇名した者を評する訳ではありませんが、前デモナス大公殿も義に厚く、武に生きるお方でした」

「……だから身を亡ぼすんだ」



 ふと、南部軍における作戦を思い出すが、その時ゾンネンブルーメ様は南部軍としての作戦構想を伝達した時、ハッキリと言われた。

 「魔皇様へ悠久の大義を貫き玉砕します」と。


 ◇


 時を少し遡る。南部軍だけで行われたガリアの解囲軍への対策会議の席で敵を右翼に集中させ、遅滞防御に努めてほしいという構想を俺は高級将校達に説明していた。



「――以上の戦略構想を実現するため、敵を右翼に集中させねばならぬのだが、野戦築城と火力支援があるとはいえ、厳しい戦いになることでしょう。よって身体強靭にして敢闘精神旺盛な第三師団のオーガを中心にした部隊に遅滞防御をしていただきたい。なに、全滅しろというわけではありません。敵を誘引してくれれば後退も許可しましょう。どうですかな? 要は敵を丘から引きずり下し、我らと決戦を強要できればその時点で我々の勝利なのです。簡単な作戦でしょう?」

「はい、オルク閣下。遅滞防御はムリです」

「そうですか、苦しい戦いになるでしょうが――。な、なに?」



 命令に従順なゾンネンブルーメ様のことだから遅滞防御を命じれば断ることはないと踏んでいただけに思わず声が上ずってしまう。

 それに新式軍制では上意下達を絶対視し、これまでの任意的な命令権を払拭しているというのにそれを断るというのか?

 それがどういうことを意味するのかと頭痛と怒りが爆発しようとした時――。



「畏れながら現状の第三師団で遅滞防御は不可能です。後退に転じた瞬間、壊走してしまうことでしょう」

「……どういうことです?」

「はい。オルク閣下の構想をまとめれば第三師団が敵主力の攻撃を引きつけておく必要があるとのことですが、これを達成するのであれば、父上がデモナス王国軍の指揮を執られておられれば九割で成功したでしょう。デモナス王国軍の主力があれば六割は成功できたことでしょう。しかしオース会戦によって古くから我が家に仕えてくれていた家臣達の多くが戦傷死しており、その上師団に編制を拡大したことで新兵を多く抱えている現状、後退しながら戦闘を遂行するには錬度が足りません。逃げたふりが、勢い止まずに真に逃亡となることでしょう。それを阻止する統制も錬度も、もはや我が第三師団には存在しません」



 まじか……。デモナスの弱体化に腐心してきた甲斐があったものと喜ぶべきか?

 だが、オーガ族の強靭な戦闘力を当てにしていたため他にこの役割を肩代わりできる部隊がない。そんな彼女にすでに作戦を寝ずに練ってくれていた南部軍司令部の幕僚達が「なら代案はあるのか!」と詰め寄る。

 戦の空気にあてられているせいか、ストレスでみんな攻撃的になっていやがる。よろしくない空気だな。



「はい。遅滞防御は限りなく不可能に近いので、代案として我が第三師団が守備地点を死守することをご提案いたします」

「く、フハハ。なにをおっしゃるかと思えば、遅滞防御より死ぬ方が易いと?」

「はい。後退しながら戦うというのは案外難しいものです。特に敵の猛追を受けていては止めどなく後退することになり、それはすでに逃亡になっております。並の将では逃走中の兵を御しきれないでしょう。それに対し、死守であれば陣地に兵を拘束するだけですのでたやすいものです。もっともそれを命ずる指揮官の度量によらしむるのは言わずもがなですが」

「ほぅ。ではゾンネンブルーメ様は後者の作戦であればできる、と?」

「はい。魔皇陛下への悠久の大義に殉ずる用意は父が討たれた日より出来ております。なによりそのためにこの命が長らえたものと思っている所存です。それは逆賊の謗りを受けたデモナスの全てが思うことであり、迷いはありません」



 め、目が据わっているのが怖い……。

 その圧力に押されて周囲を伺うが、周りの幕僚も動揺に冷や汗を噴き出して互いの視線を彷徨わせている。

 こりゃ藪をつついてドラゴンを出したとみんな思ってるな。



「オルク閣下のおっしゃる通りこの構想を達成するには第三師団(オーガ)以外では不可能でしょう。ですからデモナスは魔皇様へ悠久の大義を貫き玉砕します。その代りといってはなんですが、デモナスの望みはただ一つ。父上の、そしてデモナスにかけられた逆賊の汚名をそそぐ機会を魔皇陛下より賜りたく思っております。それさえできれば思い残すことなくこの身は第三師団と共に心中する覚悟であります。して、死守をしてもよろしいか! 否か! お答えをッ!!」



 鬼気迫るとはこのことか。その顔はまさに前デモナス大公ルドベキアのそれだった。

 あの憎々しい武骨な武人の――。



「分かりました。構想を修正しましょう。しかしデモナスの汚名と本作戦の働きは別です。魔皇陛下へ奏上奉りますが、汚名返上に関しては魔皇陛下の御心次第故、確約はできません。それでもよろしいでしょうか?」

「ありがたき幸せッ!」



 そして度し難い構想は現実の悲劇になってしまったのだった。


 ◇


 ガリア王国軍の動きは慎重であり、それに比して動きも鈍重だった。しかしそれでも順調に戦闘を優位に運んでいた。



「殿下! 報告いたします。近衛騎士団は敵部隊に甚大な被害を与えておりますが、オーガの抵抗に苦戦中です。しかしあと一押しがあれば完全に敵戦線突破を成し遂げられるでしょう!!」



 興奮に鼻孔を広げる騎士の報告にルイは間髪入れずに「決着をつけよう」と増援の投入を決める。



「ここが正念場だ。ジャンヌ。君に七千の軍を預ける。第三波としてそれを率いて左翼を突破してくれ」

「仰せのままに」

「君の啓示を蔑ろにするわけではないが、【勇者】とこれだけの大軍を以ってすれば罠など関係あるまい。だが慎重に頼むぞ」

「御意――!」



 そして彼女は待機させていた騎士と傭兵の前に立つや、さる教会から出土した片手剣を抜く。



「聞いてください! 主は今もこの戦いをご覧のことでしょう。皆さんを主は必ずやお守りになられるはずです。なぜなら、主が正義をお見捨てになられるはずがないからです!!」



 空が割れんばかりの歓声に見る見ると兵士達の顔つきが変わる。

 誰もが自分こそ一番の勇気を持っているのだと己を奮い立たせ、次々に得物で鎧を叩いて愛しき戦乙女(ラ・ピュセル)に応える。



「主のために戦う者は、私に続いてッ! さぁ!!」



 フィエルボワの剣と呼ばれる五つの星が刻まれた聖剣を手にジャンヌが駆けだせば我先にと兵達が続く。

 そこに騎士も傭兵もなく、ただ乙女に率いられた軍勢が丘を下っていった。

 戦はいよいよ終幕へ突入しようとしていた。


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[良い点] 新技術と旧技術が拮抗して鎬を削る。燃えるシチュエーションですよね。 史実だと、たいていの場合、新技術の方が一方的に強くてメタメタな展開になる方が多いだけに。 史実での施条銃の普及後の戦場…
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