軍議
「星形要塞じゃん……!」
各種偵察部隊や事前に送り込んでいた参謀旅行実施者などの情報から薄々思っていたが、ピオニブールの古臭い城壁を覆う様に稜堡が飛び出しているその様はまさにイタリア式築城のそれだった。
アイツだな。オドルの入れ知恵だな。
こんな対砲戦を意識した築城が中世ファンタジー世界にぽっと出てたまるか。あぁ! 忌々しい!! 忌々しいィイッ!!
「か、閣下!?」
振り返るとドラゴニュートの参謀長がビクリと肩を震わせ、一歩のけぞる。だがそれを無視して「……どうした?」と尋ねれば軍議の準備が整ったとのことだ。
「分かった。すぐ向かおう」
「すでに司令部には星神教の方々も参陣されておられます」
「うむ。では急ぐとしよう」
そして司令部テントをくぐると、そこには魔族国では時代遅れになりつつある甲冑姿の騎士と、この星字軍遠征の最高責任者であるナイ殿がすでに地図を囲んで俺達の到着を待っておられた。
「遅参をお詫びいたしましょう」
「いえ、南部軍司令官として多忙な中、こうして時間を用意してくださった好意とその信仰心に感謝を」
表情に薄らと笑みを宿したナイ殿の言葉に居並ぶ騎士達は言葉なく頷く。そんな中、五十代くらいの満ち足りた表情の男がサッと手を指し伸ばしてきた。
「お初にお目にかかる。拙僧は本遠征軍の副軍団長を教皇猊下より任じられたトマス・デ・トルケマダと申す。平事ではロドリーゴ・ボルジア枢機卿の後任としてイスパニア異端審問所総長の職をイスパニア女王陛下並びに教皇猊下より与えられております。以後お見知りおきを」
「これはご丁寧に。俺は魔皇陛下よりオルク王国大公並びに軍務伯、そして魔族国軍元帥の位を与えられているカレンデュラ・オークロード・フォン・オルクと申します。こちらとしてもどうかよろしくお願いいたします」
「高名なオルク殿の名は遠くイスパニアまで及んでおります。この出会いの場が与えられた奇跡を主に感謝いたします」
胸の前で五芒星をきるその動作はまさに敬虔な星神教徒のそれであり、顔に浮かんでいる宗教的な充足感に思わずほっこりとしてしまう。
この人は人間族だが、信用にたる御仁だろう。そう思っているとナイ殿が近づいてきて耳打ちされた。
「トルケマダ総長はその、“主の犬”と呼ばれるイスパニアの修道会の出の御方でして、熱心な星神教徒として有名なので、その……」
「――? あ、なるほど。確かに俺は人間嫌いではありますが、ナイ殿のようにご立派な御仁は別です。それに味方同士で争っては勝てる戦も勝てぬというもの。共に異端者撲滅を遂行するため協力は惜しみません。く、フハハ」
「まぁ……。そうですね。とにかくそういうお方なのだと、心に留め置いてくだされば……」
なんだろ。すっごく奥歯に物が挟まるような言い方が気になってしまう。
だがその疑問を聞く前に参謀長が「御挨拶もすみましたし」と間の悪いことを言い出す。それにムッとするが、だが時間とは有限な資源なのだと思いなおし、咳払いをしてから話を進めることにした。
「ではこれより今後の諸作戦及び戦略――南部軍としての戦争方針について南部軍参謀長よりご説明いたします」
顎で合図を送るとドラゴニュートの参謀長は咳払いと共にその蛇に似た細い光彩を周囲に向けながら司令部に広げられた地図を指さす。
「まずは現在の状況からご説明いたします。我々はライーヌ河における橋頭保を確保し、すでにガリア国内へ南部軍主力の四万が渡河を完了しており、後続として星字軍参加騎士団一万五千が現在渡河を実施中となっております。対し、在エルザスのガリア軍はピオニブールへ集結中であり、援軍が来るまで籠城をする構えのようです。なお、概算でありますが、ピオニブールの人口は二万五千人。うちエルザス騎士団は従卒を含め三千ほど。冒険者は倍の六千ほどと予想されます。ただし民間の急造防衛隊を除き、敵戦力はウルクラビュリントを巡る一連の戦い及び先の渡河戦において漸減しており、概算以上の部隊は存在しないものと推察されます。なお、開戦より四日。連日の航空作戦によって我が軍の竜騎兵がエルザスにおける航空優勢を確保しております」
完璧とは言い難いが、ワイバーンの活躍によって航空撃滅戦は順調に推移しており、エルザスの空からグライフを叩きだすことに成功しつつある。そのため余剰の航空戦力を使ってピオニブールを空襲したり、エルザス内の橋を爆撃するなどハラスメント攻撃を行っていた。
だが制空権の確保とピオニブール包囲に時間がかかり過ぎた。すでに四日も時間を浪費している……。
「次いで、ガリアの防衛網についてですが……。閣下、詳しいものを呼びつけております。召喚しても?」
「よろしい。ナイ殿もよろしいでしょうか?」
するとナイ殿は小さく頷き、それから参謀長に許可を出す。
するとテントの外で待っていたらしい赤髪の少女が入室してくるや、その右こぶしを側頭部に押し当てるオルク式の見事な敬礼と自己紹介をしてくれた。
「情報参謀のアキレア・フォン・ニーズヘッグであります」
「彼女は我が国の宰相を多く排出するニーズヘッグ侯爵家に連なる家柄の出で、専門の参謀教育を施す軍大学を主席卒業した期待の若ドラゴニュートです。また、彼女は軍大学在籍時に参謀旅行としてガリア国内を巡遊した魔族国きってのガリア通でもあります。情報参謀、ガリア国内情勢に関して報告せよ」
「はい。ガリアにとってピオニブールはエルザス防衛の要であり、これの攻略は同時にエルザスの攻略に直結するものと考えます」
これまで魔族との最前線拠点として整備されてきたピオニブールを抜けばあとは地形以外の要害は存在しない。
だが逆に魔族国とガリアは国交がなかったため、両国間の街道など存在しない。開発されていない森の中を馬車で通ることはできないし、そもそも行軍だって満足にはできない。そのためピオニブールは魔族国にとっての栓であり、これを抜かねばエルザス攻略は不可能だ。
逆にガリア側もピオニブールの失陥とエルザスの失陥をイコールで考えているはずだから大規模な野戦軍を投入し、こちらのピオニブール攻略を阻止する構えなのは目をつぶっていてもわかる。
そして参謀長がアキレアに代わって言葉を引き継ぎ、諸侯に爾後の作戦について話し出した。
「よってエルザス攻略において留意点は二点につきます。一つ、ピオニブールの攻略。二つ、ピオニブールを救援する敵野戦軍の撃破。この二つに留意する必要がありますが、目下の脅威は後者――敵野戦軍の襲来でしょう。我々はまずこの野戦軍に備えねばなりません」
「失礼をば、拙僧は軍事に明るくないのだが、ピオニブールを放置して来るかどうかもわからぬ野戦軍を待つというのは、遊兵を生む愚策に思えるのですが? 参謀長殿には敵野戦軍が来襲するという確信がおありなので?」
もっともな疑問だろうな。少なくともピオニブールの攻略を後回しにするのでガリアの援軍が来襲したら挟撃されるかもしれないと考えているのかもしれない。
うーん。トルケマダさんて用心深い人なのかな?
「はい。情報参謀を筆頭にガリア国内をつぶさに見て回った参謀達やガリアに出入りする商人などを介し、情報を収集したところガリアにとってエルザスは新式農法の実験場にして我が国への玄関口であり、同胞の死体を辱め、それを売買して富を稼ぐという忌まわしい街です。ガリアはそうした品々を使って外貨を得ており、これの失陥はガリア経済へ大きな打撃を与えるものと予測されます。そのためガリアはエルザス防衛の要であるピオニブールの失陥を阻止すべく必ず野戦軍を投入してくるものと考えられます」
「なるほど。拙僧の浅慮をお許しくだされ」
「いえいえ。当然の疑問であると思います。また、ピオニブールも放置するのではなく、少数兵力をもって簡易的な包囲網を構築し、逆襲に備えるべく防御陣地の築城を行っている最中です。これでピオニブールの敵の足を止め、必要とあらば軍主力がこれを迎え討つ構えなので背後を突かれるようなことはありません。それよりも注意すべきは皆さまご存知の通りガリアの特級戦力である【勇者】でしょう。これは敵野戦軍には必ず同道するものと予想されます」
すでに先のウルクラビュリントを巡る一連の戦いで北ガリアにおける敵の地上戦力はほぼ壊滅させた(はずだ。近代的な軍制をしていないガリアが畑から兵士が穫れる訳がないから、たぶん北ガリアの戦力は壊滅していると思う)。
だが寡兵でエルザスに乗り込んできても死体の山を築くだけで失陥を阻止することはできない。なら戦力差をひっくり返す虎の子の【勇者】を投入するのは確実だ。
「【勇者】はリーベルタースとの国境での緊張状態に備えて南ガリアのグルノブルに駐留しておりましたが、すでに我らは四日の時を消費しており、早馬を乗りつけば【勇者】がピオニブールへの救援軍に合流するのは確実と予測されます。よってピオニブールは簡易な包囲に留めつつ、軍主力はピオニブールと敵野戦軍が現れるであろう、この街道の手前――丘のふもと付近に野戦陣地を築城し、邀撃体勢を整えます」
ちらりと星字軍遠征に参加した各国の貴族達の顔を盗み見ると明らかに不満の色が浮かんでいた。
そりゃ、信仰のためにはるばるガリアくんだりまで赴いたのに、土木作業やりますと言われたら誰も嫌な顔するだろう。
やはりボランティア精神だけじゃ善行は長続きしない。
ま、逆にいえば見返りを与えれば多少の不便を我慢してもらうことができよう。
「なお、野戦陣地築城に関しては兵力的な主力である南部軍に一任ください。その間、義勇騎士の皆さまはエルザス全土での異端者の改宗に当たっていただきたいと思っております」
地図に管区を設定し、それぞれに各騎士団を赴かせて改宗を促すという作戦に騎士達の表情がにわかにほころぶ。
もくろみ通りだが、なんだかなぁ……。
これは星々の聖なる教えを守るための戦いなのだから見返りなんて求めるのは同義に反すると思うけど。
いや、やっぱり無償の奉仕を強要するのはいけない。お仕事をしたら正当な対価を得られるのは当然なんだ。
だから改宗という名の略奪を認めないと不和を生み、こちらの作戦に支障をきたしかねない。円滑な人間関係の構築にはやはりアメが必要なんだ、うん。
それに略奪を受けるのはガリアの土地なんだから俺の懐も痛まない。むしろ連中に奪われる屈辱と絶望を思い知らせられるので推奨すべきだし、なんなら俺も加わりたい。
むしろ混ぜてほしい。あー。なんで南部軍の司令官なんて面倒なことやってるんだろ。
俺も略奪してぇ……。
「あー。閣下? 聞いておられますか? 作戦会議を閉会したいのですが……」
「ん? うむ。聞いているぞ。では騎士の皆さま、各騎士団の管区割りを決めるのでこの者に続いて別の天幕へどうぞ」
参謀長に連れられ、騎士達がテントを後にするとやっとため息がつけた。
いやぁこういう会議は喋らなくても緊張するね。
「クスクス。お疲れ様です」
「いやぁ、軍司令官として、もっとしっかりしなければと思うのですが、どうも気ばかり急いてしまうようで……。今もこうしているうちにあの【勇者】がやってくるのではないかと……」
「カレン様はウルクラビュリントでその【勇者】に会われたのですよね? それほどの御方なのですか?」
「会ったといっても、城門を破られた折りに軍中にそれらしい影を見ただけで……」
あの日、ウルクラビュリントは猿獣人共の同時詠唱によって城壁の一部が壊されるなど、甚大な損害を受けていたが、人間に比べ素の胆力の高いオークはその攻撃を何度もはね返していた。
だが夕刻ほど、その日最後の攻勢の時に奴は現れた。
不思議と猿共の士気が異様に高く、気圧されてしまったことを、今でも覚えている。
「魔法で城門を粉砕されたのですが、精鋭の家臣が敢闘して一兵たりとも敵の侵入を許さなかったのですが、【勇者】はそうした者達を易々と切り伏せて……」
【勇者】は瞬く間に守備兵を切り伏せ、その後に冒険者共が浮塵子ごとく押し寄せてきたのだ。そのためオークの戦士達はついに各所で分断、包囲され、ついに――。
「お辛いお話をさせてしまって申し訳ありません」
「なんの! ま、まぁ【勇者】とは並外れた戦力で、【剣聖】の比ではありません。ナイ殿も十分ご注意ください」
「御警告、しかとお聞きしました。しかしカレン様をそこまで言わしめる【勇者】とはどのような御仁なのでしょうね」
「うーん……。覚えている限り、かなり小柄なようでした。その上、魔法の使い手でもあるようで、厄介極まります」
思い出しただけで口の中に苦みが溢れて来る。
それを忘れるように外にいるであろう従兵を呼びつけると、ワインボトルとグラスを手にした若オークが緊張した面持ちで現れ、グラスに赤黒い液体を注いでくれる。
「おい、これはローダナムだろ。普通のワインはないのか?」
「はい、閣下。お言葉ですが、御方様からの言いつけもあります故、どうかご容赦を」
そんなやりとりを聞いてかナイ殿が興味津々というようにグラスを覗きこんでくる。どうやらただの酒ではないことを看破しておられるようだ。
「カレン様、これは?」
「ローダナムという薬です。アルコールに砂糖、麝香、阿片などを加えた沈静薬で、毎日飲むようメリアにいわれているのですが……」
普通に依存とか中毒とか怖いので実際は三日か四日に一度、グラスに一杯だけ飲むようにしている。
そのせいか(もしくは阿片の精製度が低いのか)依存症になっている自覚はない。少なくともやめようと思えばいつでもやめられる感はある。あと砂糖で誤魔化しているが苦みというか、えぐみがあって普通に美味しくない。
「砂糖もいれるのですか。さすが大公閣下ですね。あやかりたいものです」
「いやいや。砂糖なんて高くておいそれと口にできないのはナイ殿と同じです。なによりこの薬は苦くて、苦くて……。せっかくの砂糖がもったいないですよ」
「クスクス。まるで童子のようですね」
「そ、そうですか? お恥ずかしい。あ、よろしければどうです? 良薬は口に苦しを地でいく薬ですが、沈静の他に倦怠感などを癒す作用もあります。軍団長ならばなにかと気苦労も多いでしょうし」
「ではお言葉に甘えて」
テントに置かれていた新たなグラスにローダナムを注ぎ、二人で乾杯し、その妙味に二人して顔を歪めるのであった。
◇
ピオニブールより西方に百二十キロメートル。オドルとマリアは銃砲の輸送をしてくれた者達を置いて一足先に早馬を乗り継いで彼の居城のあるヴォジュ男爵領に帰り着いた。
二日の長駆を経てたどり着いたヴォジュの領都エピナルはお祭り騒ぎと言わんばかりに騎士や傭兵、冒険者で溢れていた。誰もが魔族の暴走攻勢を阻止しようと技自慢の者達がガリア中からはせ参じているのだ。それが通りという通りを埋め尽くし、凄まじい活気が生まれていた。
いや、戦闘職種の者だけではない。そうした者をターゲットに食糧や武器、医薬品の販売しようと危険を冒した商人も群がり、熱狂的な喧噪がエピナルを襲っている。
「安いよ! 安いよ! 今なら兵糧大安売りだよ!」
「うちの剣はリーベルタース産の純ミスリル製だ! この世に斬れぬものはない名剣揃い! さぁよってらっしゃい見てらっしゃい」
「これは我がブリタニアの名医の発明したローダナムという万病に効くハイ・ポーションだ! 他にもよく効くのを取り揃えてるよ!」
そんな熱気に領主であるオドルが押されつつ、二人はエピナルの城に戻ると、早速城の会議室へ呼び出しを受けた。
そこには豪奢な甲冑を身に着けた近衛騎士や法衣をまとった新教派の教会関係者などがすでに詰めており、その最上座にルイ・ド・ガリアが二人を待っていた。
「やぁ、待っていたよ」
「ルイも出陣か!」
「さすがに座している訳にはいかないからね。即応できる戦力――三万もの軍勢を持ってきたよ。特に主力である近衛騎士も再編成が終わってなんとか参陣できた」
ガリア王の名代として参陣したルイの言葉に周囲の近衛騎士達も一様に頷く。
誰もが青い血の流れる生粋のガリア貴族である近衛騎士団は精鋭の誉れ高い戦闘集団であったが、以前にヌーヴォラビラントにおいて玉砕の憂き目にあったため、現状は新兵の寄せ集めというのが現実に即した戦力であった。
だが近衛騎士として武勲をあげることで王族の寵愛を受け、褒章として新たな爵位を得られる可能性もあり、それを夢見た野心的な貴族の三男や四男などがこぞって新編された近衛に入団しているため戦力と士気は異様に高かった。
「あと此度のピオニブール救援には間に合わないだろうけど、予備として第二軍を編制している。これは魔族軍を撃退した後、そのまま魔族領域に雪崩れ込んでヌーヴォラビラントを奪還するための戦力でもある」
「そんな壮大な構成を立てていたのか?」
ガリア王国第二王姫にして王立魔法研究所に席を置くシャルロット・ド・ガリアが中心となり、後詰の準備が整えられつつあり、その総数は騎士と従卒、そして傭兵を合わせて三万に上ると見られていた。
だが星字軍遠征の影響で熱心な宗教国家であるイスパニア王国とも緊張が高まっており、第二軍の主力となる予定の南部諸侯の集結が遅れ、今はなんとか一万程度しか戦力が集まっていないという。
「それに出陣したのは近衛だけではありません」
パッツンと切りそろえられた小紫色の髪がゆれ、遅れて夜空のように暗い法衣が舞う。
ガリアにおける新教派のリーダーであるケラススは緊張とも不安ともつかぬものを漲らせているが、それでも有り余る熱意を放っていた。
「良い機会なので、教皇庁の使者と激論を戦わせたいところです」
「そうなる前に戦になるんじゃないのか?」
「此度の戦はワタクシ達の正義の活動が教皇庁の暗部に斬り込んだがために起こったこと。ならば教皇庁が非を認めれば敵も軍を引くことでしょう。戦わなくてすむのなら、そのほうがよろしいかと」
「そりゃ……。理想ではあるけど」
上手くいくのだろうか? いや、分からない。
それに戦力も頼みの近衛は再編されて間もなく、錬度不足は否めない。それに参陣した貴族達も足並みがそろっているとは言い難く、特にガリヌス公爵家派閥出身の貴族はオドル達と反目しており、どうなるか分からない(当のガリヌス公爵家は先の敗北で騎士団が壊滅状態のため参陣していない)。
ならば王都で編制中という第二軍の到着を待つべきではないか? いや、援軍を待っていてはピオニブールが失陥してしまうのでは?
オドルは様々な不安が去来するが、それを全て無視する。
魔族の攻城戦力はガリアの想定よりも強力であり、いくら星形要塞のピオニブールでもどれだけ抗戦できるか未知数だ。
それに――。それに僕は必ず援軍を連れて来ると約束したのだ。その想いにこれ以上ピオニブールを待たせておくわけにはいかない。
そうオドルが決意を新たにしたその時、勢いよく会議室の扉が開け放たれた。
「はぁはぁ。間に、あいましたか?」
それは可憐な少女であった。活動的な黄金色の短髪に浅く焼けた肌。どこか牧歌的な穏やかさを醸し出す優し気な女の子なのだが、その纏っている鎖帷子とミスリル特有の高貴な白銀色を反射させる鎧と凄まじいギャップを持っていた。
そんな少女が入室してくると、部屋に詰めていた者達の顔色も紅潮を見せた。
「ゆ、【勇者】様!」
「おぉ! 我らが戦乙女!!」
「【勇者】ジャンヌ! 万歳!」
異様に士気のあがる会議室に彼女――ガリアの最高戦力である【勇者】ジャンヌは恥ずかし気に頬を朱にそめながら上座のルイに跪く。
「王命により参上つかまつりました。我が力を殿下のために捧げます」
「グルノブルからもうやってくるとは、さすが【勇者】! 着陣を歓迎しよう。さて、皆! 敵は強大だ。だが正義は我らにあり! 古来より義が悪に破れた試しはない!! 必ずピオニブールを救援して、魔族を追い払おう!」
その言葉に勇気づけられるよう、鬨の声が響くのであった。
ご意見、ご感想をお待ちしております。




